国立感染症研究所

 

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保育施設で発生した腸管出血性大腸菌O157集団感染事例における分子疫学解析結果について(第2報)

(IASR Vol. 44 p149-150: 2023年9月号)
 

大阪市内A保育施設(施設A)において, 複数の園児および職員から腸管出血性大腸菌(EHEC)O157(VT1&2)が検出されるEHEC集団感染事例が発生した(本号16ページ参照)。本稿では, 当該事例で分離された菌株の分子疫学解析〔反復配列多型解析(MLVA)および全ゲノム配列解析(WGS)〕の結果を詳細に報告する。

 

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ポリオワクチン(OPV, cIPV, sIPV)接種後の血中抗体持続性: 1974~2022年度の感染症流行予測調査より

(IASR Vol. 44 p146-148: 2023年9月号)
 
背 景

ポリオウイルス患者は経口生ポリオワクチン(OPV)により減少したが, OPV使用にともなうワクチン関連麻痺やワクチン由来ポリオウイルスによるポリオ流行が問題であった。ポリオ根絶にはOPVの完全な使用停止が必要であり, 多くの国でOPVから不活化ポリオワクチン(IPV)への切り替えが進められ, IPV導入国の多くは強毒株由来IPV(cIPV)を採用している。セービン株由来IPV(sIPV)はcIPVと比較しバイオリスクの低減が期待されており, わが国は世界に先駆けて2012年11月に定期接種化された。2023年5月時点, sIPV導入国は日本と中国の2カ国で, sIPV単独での接種スケジュールを導入するのは日本のみである。そのため, sIPV接種者における防御効果の持続性に関する知見が極めて少ない。今回, sIPV接種による防御効果の持続性を血中抗体価の観点から検討し, cIPV接種者およびOPV接種者の血中抗体価と比較した。

 

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保育施設における腸管出血性大腸菌O157による集団感染事例(第1報)

(IASR Vol. 44 p148-149: 2023年9月号)
 

大阪市内A保育施設(施設A)において発生した腸管出血性大腸菌(EHEC)O157: H7(VT1&2)集団感染事例の概要について報告する。

国立感染症研究所感染症疫学センター第六室
新型コロナウイルス感染症対策本部
(掲載日:2023年9月26日)

 

 【背景】

日本ではこれまでに3380万例以上の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)症例と、74,694例の死亡例が報告されている(2023年5月9日時点)。新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理システム(HER-SYS)はCOVID-19のサーベイランスとして活用されてきた。届出時点の重症度については届出に必須であり把握されている一方で、最終的な転帰や重症度の入力は必須ではなく、網羅的な把握が困難であった。このため、それまでの流行と比べて大きく報告数が増加したオミクロン流行期に重症例や死亡例を把握するため、厚生労働省より自治体に対して検査陽性となった重症例および死亡例に関する自治体における把握情報の提供依頼が発出された。本検討は、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部の依頼で実施され、これまで中間解析結果を厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードで報告を行ってきた。今回、感染症法上の位置づけが5類感染症に変更され、HER-SYSによるサーベイランスの運用が停止されたのを受けて、2023年5月31日までに自治体から情報提供されたCOVID-19重症例および死亡例について記述する。死亡例に関する分析は、IASR 2023年7月号にて公表している。

なお、報告された症例は必ずしも各自治体の当該報告期間に確認された全ての重症例・死亡例ではないこと、COVID-19が死亡に直接関係した死因であるかは検討できなかったことに注意が必要である。

  続きを読む:新型コロナウイルス感染症重症例および死亡例の疫学像と死因、重症化に関連する因子
 

ポーランド共和国および大韓民国におけるネコの高病原性鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)感染事例について

2023年9月15日
国立感染症研究所

 

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目次

  •    背景
  •    事例の概要
     1. ポーランドにおける事例
     2. 韓国における事例
     3. ウイルス学的所見
     4. 欧州におけるHPAIV(H5N1)の報告状況
     5. 東アジアにおけるHPAIV(H5N1)の報告状況
  •    過去の哺乳類における鳥インフルエンザウイルス感染事例
     1. 近年のネコ科動物の鳥インフルエンザウイルス感染事例
     2. 過去の鳥インフルエンザの哺乳類からのヒト感染事例
  •    日本国内における家きん肉を用いたペットフードの状況
  •    リスクアセスメント
  •    今後の対応

背景

 高病原性鳥インフルエンザウイルスA(H5N1) (Highly pathogenic avian influenza virus: 以下、HPAIV(H5N1))は1997年に初めて香港で生鳥市場を介したヒト感染例の報告があり、2003年、2004年には東アジア、東南アジアでもヒト感染例が報告された。これ以降、世界各地の家きんや野鳥に感染が拡がり流行域を拡大したH5亜型のHPAIVは、A/goose/Guandong/1/1996(H5N1)に由来するユーラシア型のHA遺伝子を保持している。HA遺伝子の塩基配列により当初は0~9のCladeに分類され、その後HA遺伝子の変異が蓄積し、Cladeごとにさらに細かな亜系統に分類されるようになった。さらに他のA型インフルエンザウイルスとの遺伝子再集合を起こすなど、遺伝的にも多様化している
 2021年以降はClade2.3.4.4bに属するHPAIV(H5N1)の世界的な感染拡大が起こり、2021年に北米で報告され、2022年には中南米へと拡大した。2022年には南極大陸及びオーストラリア大陸以外の全ての大陸の野鳥、家きんでのHPAIV(H5N1)感染事例が報告された。トリでの感染事例の地理的な拡大と報告数の増加に伴い、トリを捕食するもしくはトリの死骸を餌とする動物での感染事例が増加し、イルカ、アザラシなど海棲哺乳類を含む野生の哺乳類や毛皮農場で飼育されているミンクなどでの感染例の報告があった
 哺乳類の感染事例として、2023年6月から7月にかけて、ポーランド共和国(以下、ポーランド)及び大韓民国(以下、韓国)において、飼い猫や動物保護施設で飼育されていたネコでのHPAIV(H5N1)感染事例が報告されたことから、これら事例に関する情報の更新及びリスクアセスメントを行った

 

 

ブタの日本脳炎抗体保有状況 -2023年度速報-

(2023年9月13日現在)

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 日本脳炎は、日本を含め東南アジアを中心に広く常在した疾患で、日本脳炎ウイルス(Japanese encephalitis virus: JEV)に感染した者のうち100~1,000人に1人程度が発症すると推定される重篤な急性脳炎である [1]。感染経路は、主にイエカ属の蚊(日本では主にコガタアカイエカ)による吸血でJEVに感染したブタ等を刺咬・吸血したのちにヒトを吸血することで感染する。

  1960年代までは毎年夏から秋にかけて多数の日本脳炎患者が発生しており [2,3]、ブタの感染状況からJEVが蔓延している地域に多くの患者発生がみられた。1960年代の日本脳炎の患者が多数発生していた環境では、日本脳炎患者が検出される時期に先行してブタのJEVに対するHI抗体の上昇が確認されている [4]。1992年以降、日本脳炎患者の報告数は、2016年の11例、2019年の10例を除き全て一桁の報告でブタの感染状況と比較して患者発生数は低く、環境中のウイルス活動状況と必ずしも一致していない。しかし、ブタの抗体保有状況はウイルス陽性蚊の存在している地域を間接的に示唆するデータと推測され、少なくともこのような地域ではヒトへの感染リスクの存在する地域と考えられる。2015年には10か月齢の小児にも感染が確認され[5]、2022年は千葉県、広島県、熊本県から症例が報告されている。

 感染症流行予測調査事業では、全国各地のブタ血清中のJEVに対する抗体保有状況を赤血球凝集抑制法(Hemagglutination inhibition test: HI法)により測定し、JEVの蔓延状況およびウイルスの活動状況を調査している。前年の秋以降に生まれたブタがJEVに対する抗体を保有し、さらに2-メルカプトエタノール(2-ME)感受性抗体(IgM抗体)を保有している場合、そのブタは最近JEVに感染したと考えられる。下表は本年度の調査期間中におけるブタの抗体保有状況を都道府県別に示しており、JEVに最近感染したブタが認められた地域を青色、それに加えて調査したブタの50%以上に抗体保有が認められた地域を黄色、80%以上に抗体保有が認められた地域を赤色で示している。

 本速報はJEVの感染に対する注意を喚起するものである。それぞれの居住地域における日本脳炎に関する情報にも注意し、JEVが活動していると推測される地域においては、日本脳炎の予防接種を受けていない者、とくに乳幼児や高齢者は蚊に刺されないようにするなどの注意が必要である。

 なお、日本脳炎定期予防接種は、第1期(接種回数は初回2回、追加1回)については生後6か月から90か月に至るまでの間にある者、第2期(1回)については9歳以上13歳未満の者が接種の対象であるが、平成7年4月2日(1995年4月2日)から平成19年4月1日(2007年4月1日)までに生まれた者で積極的勧奨の差し控えなどにより接種機会を逃した者は、20歳になるまでの間、定期接種として合計4回の日本脳炎ワクチンの接種が可能である(詳細は厚生労働省ページを参照)。また、平成19年4月2日(2007年4月2日)~平成21年10月1日(2009年10月1日)までに生まれた者に対しても、生後6か月から90か月未満のみならず9歳以上13歳未満の間にも、第1期(3回)の不足分を定期接種として接種可能である。ただし、生後90か月(7歳半)以上9歳未満は定期接種として接種することができないので、注意が必要である。市区町村からの案内に沿って接種を受けていただくようお願いしたい[6,7]。

抗体保有状況
(月別推移)


抗体保有状況
(地図情報)

JE 2021 11
1. 日本脳炎とは
2. 松永泰子,矢部貞雄,谷口清州,中山幹男,倉根一郎. 日本における近年の日本脳炎患者発生状況-厚生省伝染病流行予測調査および日本脳炎確認患者個人票(1982~1996)に基づく解析-. 感染症学雑誌. 1999. 73: 97-103.
3. Arai, S., Matsunaga, Y., Takasaki, T., Tanaka-Taya, K., Taniguchi, K., Okabe, N., Kurane, I., Vaccine Preventable Diseases Surveillance Program of Japan. Japanese encephalitis: surveillance and elimination effort in Japan from 1982 to 2004. Japanese Journal of Infectious Diseases. 2008. 61: 333-338. Pubmed
4. Konno, J., Endo, K., Agatsuma, H., Ishida, N., Cyclic outbreaks of Japanese encephalitis among pigs and humans. American Journal of epidemiology. 1966. 84: 292-300.Pubmed
5. 2015年夏に千葉県で発生した日本脳炎の乳児例. IASR Vol. 38 p.153-154: 2017年8月号. 
6. 厚生労働省. 日本脳炎. (2023年7月10日アクセス)
7. 国立感染症研究所 予防接種スケジュール

国立感染症研究所 感染症疫学センター/ウイルス第一部

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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