国立感染症研究所

Dysbiosis of gut microbiota in COVID-19 is associated with intestinal DNA phage dynamics of lysogenic and lytic infection

Ishizaka A, Tamura A, Koga M, Mizutani T, Yamayoshi S, Iwatsuki-Horimoto K, Yasuhara A, Yamamoto S, Nagai H, Adachi E, Suzuki Y, Kawaoka Y and Yotsuyanagi H

Microbiol Spectrum e0099824. 2024

健康に大きく影響する腸内細菌叢のバランスの変化「dysbiosis」においてバクテリオファージ(ファージ)の果たす役割は不明である。本研究では、COVID-19感染症で観察されるdysbiosisにおける腸内細菌とファージの動態変化を解析した。病態発症直後の観察では細菌は遊離ファージと共に減少する一方で、遊離ファージを抑制して増加する細菌も存在した。回復期では遊離ファージの増加が先行し、細菌の増加を抑制するケースのほか、細菌とファージが交互に増殖と減少を繰り返すケースも観察された。これらの観察は、dysbiosisは細菌とファージの均衡破綻による複雑な相互作用の連鎖により形成されていることを示し、腸内細菌叢変化の分子基盤に関する新たな洞察を提供する。本研究は東京大学と共同で実施しました。

Structural basis for hepatitis B virus restriction by a viral receptor homologue

Kaho Shionoya, Jae-Hyun Park, Toru Ekimoto, Junko S. Takeuchi, Junki Mifune, Takeshi Morita, Naito Ishimoto, Haruka Umezawa, Kenichiro Yamamoto, Chisa Kobayashi, Atsuto Kusunoki, Norimichi Nomura, So Iwata, Masamichi Muramatsu, Jeremy R.H. Tame, Mitsunori Ikeguchi, Sam-Yong Park, Koichi Watashi

Nature Communications 15: 9241 (2024)

B型肝炎ウイルス(HBV)はヒトと系統的に近縁な旧世界ザルのmacaqueに感染しない。これは、macaqueのNTCPホモログ(mNTCP)がHBV表面のpreS1に認識されないことに起因するが、その原因は明らかでない。本研究では、mNTCPのクライオ電子顕微鏡構造を取得した。これにpreS1-ヒトNTCP複合体構造を重ね合わせることで、1) mNTCPの158番目アルギニンの大きな側鎖が、preS1とNTCP胆汁酸トンネルの結合を立体妨害していること、2) 86番目アスパラギンの小さな側鎖は、NTCP細胞外表面にpreS1を安定的に係留できないこと、が明らかとなった。このように、mNTCPは異なる2箇所のアミノ酸によってHBV認識から逃れていることを示した。これは、ウイルスの感染宿主動物の選択メカニズムの一つを明らかにしたものである。

bac 2024 05
Evasion of antiviral bacterial immunity by phage tRNAs.

Aa Haeruman Azam, Kohei Kondo, Kotaro Chihara, Tomohiro Nakamura, Shinjiro Ojima, Wenhan Nie, Azumi Tamura, Wakana Yamashita, Yo Sugawara, Motoyuki Sugai, Longzhu Cui, Yoshimasa Takahashi, Koichi Watashi, and Kotaro Kiga

Nature Communications 15:9586, 2024

細菌はファージと呼ばれるウイルスに感染します。ファージは細菌内で増殖し、細菌を死滅させることがあり、長い進化の歴史の中で細菌とファージは攻防を繰り広げてきました。本研究では、細菌の防御システムであるretron-Eco7が、ファージ感染時にtRNA-Tyrを分解し、増殖を阻止する仕組みを解明しました。しかし、ファージは逆にtRNAを多量に生成し、この防御を回避する戦略を持つことがわかりました。これにより、細菌とファージの共進化による高度な戦略が明らかになりました。本研究は、ファージを用いた新しい抗菌治療の開発や効果的な殺菌方法の設計に貢献する可能性があります。

本内容は日本学術振興会、AMEDの研究支援を受けて実施しました。

Anti-SARS-CoV-2 gapmer antisense oligonucleotides targeting the main protease region of viral RNA

Yamasaki M, Saso W, Yamamoto T, Sato M, Takagi H, Hasegawa T, Kozakura Y, Yokoi H, Ohashi H, Tsuchimoto K, Hashimoto R, Fukushi S, Uda A, Muramatsu M, Takayama K, Maeda K, Takahashi Y, Nagase T, Watashi K

Antiviral Research 230: 105992 (2024)

標的の配列情報を基に迅速に設計可能なアンチセンス核酸(ASO)は、新興再興感染症対応に有用な手段の一つとして期待される。本研究ではSARS-CoV-2ゲノムに対する292のギャップマー型ASOを設計し、培養細胞系での評価により、抗SARS-CoV-2活性を有するASO#41を同定した。ASO#41はメインプロテアーゼ領域RNAを標的としており、調べた全てのSARS-CoV-2バリアントに活性を示した。ASO#41は経鼻投与により肺組織に選択的に蓄積し、SARS-CoV-2感染マウスモデルで有意な抗ウイルス活性を認めた。さらにASO のwing RNA構造または塩基間架橋構造の置換により、さらに高い活性を示すASO#41誘導体を見出した。本研究成果は、アンチセンス核酸モダリティを用いた抗呼吸器ウイルス薬創出に有用な知見を提供するものである。

Recent advances in hepatitis E virus research and the Japanese clinical practice guidelines for hepatitis E virus infection.

Kanda T, Li TC, Takahashi M, Nagashima S, Primadharsini PP, Kunita S, Sasaki-Tanaka R, Inoue J, Tsuchiya A, Nakamoto S, Abe R, Fujiwara K, Yokosuka O, Suzuki R, Ishii K, Yotsuyanagi H, Okamoto H; AMED HAV and HEV Study Group.

Hepatol Res., 54(8), 1-30, 2024

2000年代初頭に日本でE型肝炎ウイルス(HEV)遺伝子型3および4の感染が確認されるまでは、急性E型肝炎はまれな病気と考えられていました。日本の研究者による広範な研究により、E型肝炎は人獣共通感染症であり、ブタおよびイノシシやシカなどの野生動物がHEVのリザーバーとして極めて重要な役割を担っていることが明らかになりました。この総説は、E型肝炎の病態、感染経路、診断法、合併症、重症化因子、および現在研究が進められているワクチンや治療法について包括的に記載されており、HEV研究の最近の進歩と、HEV感染に対する日本の臨床診療ガイドラインを提示しています。

なお、本研究はAMEDの肝炎等克服実用化研究事業「経口感染によるウイルス性肝炎(A型及びE型)の感染防止、病態解明、治療等に関する研究」(グラント番号JP23fk0210132)により実施されたものです。

imm-2024-01
Repeated Omicron exposures redirect SARS-CoV-2-specific memory B cell evolution toward the latest variants

Ryutaro Kotaki, Saya Moriyama, Shintaro Oishi, Taishi Onodera, Yu Adachi, Eita Sasaki, Kota Ishino, Miwa Morikawa, Hiroaki Takei, Hidenori Takahashi, Tomohiro Takano, Ayae Nishiyama, Kohei Yumoto, Kazutaka Terahara, Masanori Isogawa, Takayuki Matsumura, Masaharu Shinkai, Yoshimasa Takahashi

Science Translational Medicine (2024), DOI: 10.1126/scitranslmed.adp9927

相次いで出現するSARS-CoV-2変異株に対応するためブースターワクチンがオミクロン株対応型へと切り替えられましたが、過去に接種された従来株ワクチンによる強い免疫学的刷込みの影響が報告されています。すなわち、変異株ブースターワクチン接種においては、従来株応答性の抗体を持つ記憶B細胞の中で変異株へ交差性を持つもののみが活性化され、変異株応答に特化したB細胞応答がほとんど誘導されません。本研究では、従来株mRNAワクチン接種によって誘導された記憶B細胞が、2回のオミクロン株抗原刺激によって、抗体遺伝子をオミクロン株に対して特化するように進化させていくことを発見しました。これは今後の変異株ブースターワクチン戦略において重要な基礎的知見となると考えられます。

本内容は日本学術振興会、AMED、厚生労働省の研究支援を受けて実施しました。

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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