新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスである新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)には変異の蓄積が続いており, 感染・伝播性の増加や抗原性の変化を起こした変異株の発生が認められる。2022年10月において日本国内の感染主流株であるオミクロンBA.5系統はスパイク糖タンパク質に多くの変異を持ち, 武漢株やそれまでの主流株であるオミクロンBA.2系統と比較して感染伝播性の増加と中和抗体からの逃避が報告されている。本稿では変異株の中和抗体薬と抗ウイルス薬の感受性について, これまでに分かっている知見を報告する。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)サーベイランスとして新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)が2020年5月より運用されており, わが国のCOVID-19の発生動向が把握されている。HER-SYSには新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)陽性者に関する基本情報のほか, 重症度, 変異株, 接触者, ワクチン接種歴など様々な情報が統合されている。一方で1つの情報ソースだけでなく, 複数の情報を組み合わせてCOVID-19の発生動向をより正確に把握することがリスクアセスメントや対策を立てるうえで重要である。HER-SYSのデータを用いて解析した結果は, 新型コロナウイルス感染症週報1)や厚生労働省アドバイザリーボード*の資料として, 定期的に公表されてきた2)。さらに, COVID- 19の発生動向を多角的に監視するために, HER-SYS以外のデータを用いた状況の把握も定期的に実施してきた。これらの取り組みについて概略する。
東京都は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の対策として, 都内における発生動向に関する複数のモニタリング項目を設定し, 東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議で最新の発生動向についてモニタリング分析の結果を報告・公表するとともに1), 東京都新型コロナウイルス感染症対策サイト(https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/)で, モニタリング項目およびその他参考指標のデータを都民向けに提供してきた。
続きを読む: 東京都における新型コロナウイルス感染症の重層的モニタリング項目の活用と全数届出の変更にともなうモニタリング項目の見直し
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は新興感染症であり, ワクチンや治療薬も存在せず, したがって, COVID-19の臨床症状や感染様式等について未知の部分も多く, 感染症予防や対応に資する知見が少なかった。そのため, 行政の公衆衛生対応部門においては, 日々発生する症例の年齢, 性別, 基礎疾患の有無等の基礎情報に加え, 発症日前後の詳細な行動歴等の感染源や濃厚接触者の特定に必要な疫学情報の収集が行われた。また, 大阪府では, 2020年3月初めにライブハウスイベントにおけるCOVID-19の感染者集団(クラスター)が発生し(IASR 41: 110-111, 2020), その後, 関連感染者数が急速に増加したため, 保健所において感染者発生に付随する業務量(受診調整, 検査調整, 陽性告知, 届出, 入院等調整, 疫学調査等)が膨大となり, 感染者の発生状況の把握を行うことが困難な状況となった。大阪健康安全基盤研究所疫学調査チーム(O-FEIT)は, 大阪府内の保健所で収集された情報を保健所職員とともに解析し, 大阪のCOVID-19発生動向を大阪府内の保健所を中心とする公衆衛生対応機関へ定期的に発信, 府内情報の共有化を図ってきたのでその活動を報告する。
感染症サーベイランスにおいては, 従来から, 感染症法に基づく医師の届出対象となる感染症に関して, 感染者の報告が求められてきた。2022年11月現在, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)も同様に届出対象であり, これにより収集された情報を基に流行状況の把握・評価が行われ, 国立感染症研究所(感染研)のウェブサイトやアドバイザリーボード(ADB)*資料等で還元されてきた1,2)。これらの感染者数や死亡者数などの法に基づく直接的な指標と並行して, 昨今では, デジタル化の恩恵により, 電子的に集められた様々なデータを利用して流行状況の把握・評価の一助とすることが可能となっている。特に, COVID-19は, 呼吸器感染症であるがゆえに他人との接触の機会が曝露リスクを高め, 感染の不安により行動変容(感染対策の実施やハイリスク行動の回避)が起こり得ることから, 流行が人々の不安やリスク行動に大きく影響を受けることが示唆されている。これらに対する取り組みの1つとして, 国のサーベイランスを担う感染研感染症疫学センターにおいて, 一般市民の不安やリスク行動に関するアンケート調査結果を経時的にモニタリングして活用してきた。本稿では, この概要や解釈時の注意点等を報告する。
続きを読む: 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行状況の把握・評価の一助としての主要駅・繁華街等の人流および一般市民の不安やリスク行動のモニタリング
2019年に中国で発生し, 2020年に世界的大流行(パンデミック)となった新型コロナウイルス感染症(COVID- 19)の発生当初においては, 海外からのウイルスの侵入を防ぐという点では検疫を厳しくし(水際対策の強化), 国内でのウイルスの伝播をいかに抑えるかという点ではクラスターの早期発見・早期対応, 医療体制の確保, 市民の行動変容, が重要であるとされた1)。国立感染症研究所(感染研)実地疫学専門家養成コース(Field Epidemiology Training Program: FETP)のスタッフ, 研修員は接触者追跡に携わる専門家チームとして, 保健所を中心とする自治体支援に従事してきた。具体的な支援の内容としては, 症例や濃厚接触者のデータベース作成, データのまとめおよび記述疫学, クラスターの発生要因や感染ルートの究明等の疫学調査支援, 医療機関や福祉施設等における感染管理対策への助言, 他自治体や関係機関との連絡調整, 等が含まれた。本稿では, 変異ウイルス出現時に積極的疫学調査がたびたび行われた2021年末までを主な対象期間として, 流行の遅延や疫学的特徴把握を目的としたそれらの調査の概要について記述する。