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麻しんに関する特定感染症予防指針の改正について

(IASR Vol. 34 p. 39-40: 2013年2月号)

 

1.改正の経緯
2007(平成19)年に感染症法(第11条第1項)および予防接種法(第20条第1項)の規定に基づき、麻しんに関する特定感染症予防指針(以下、「指針」という)を策定した。

指針は、少なくとも5年ごとに再検討を加え、必要があると認めるときは、これを変更していくこととなっており、2012(平成24)年5月より厚生科学審議会感染症分科会感染症部会麻しんに関する小委員会(委員長・岡部信彦)において再検討が行われた。平成24年10月15日に感染症部会に改正案が報告され、同時に厚生労働省も改正案を提出し審議がなされた後に承認された。新たな指針は12月14日に公示され、2013(平成25)年4月1日から適用される。

2.主な改正内容
(1)目標
現行の指針では、麻しんの排除の定義を「国外で感染した者が国内で発症する場合を除き、麻しんの診断例が一年間に人口百万人当たり一例未満であり、かつ、ウイルスの伝播が継続しない状態にあること」として、平成24年度を排除目標年度としていた。その後、遺伝子検査技術の普及により土着株と輸入株との鑑別が可能となったこと等を踏まえ、平成24年に世界保健機関西太平洋地域事務局より新たな定義として「適切なサーベイランス制度の下、土着株による感染が1年以上確認されないこと」が示され、また、麻しん排除達成の認定基準として「適切なサーベイランス制度の下、土着株による感染が3年間確認されず、また遺伝子型解析により、そのことが示唆されること」が示された。上記のような情勢の変化に鑑み、新たな指針では「平成27年度までに麻しんの排除を達成し、世界保健機関による麻しんの排除の認定を受け、かつ、その後も麻しんの排除の状態を維持すること」を新たな目標と定めた。

なお、世界保健機関は、現在、西太平洋地域の37の国および地域のうち、日本を含めすでに32の国および地域で土着株の流行が無くなっている可能性があることを表明しており、同機関による排除認定作業が行われている。

(2)届出・検査・相談体制の充実
医師が麻しんを診断をする機会が減り、また、臨床的に麻しんと診断される例の中に風しんなどが含まれることが判明した。正確な麻しんの診断を行うためには臨床的な症状と検査による病原体の確認が必要である。

新たな指針では、医師による麻しんの届出に当たっては、原則として診断後24時間以内の臨床診断としての届出と同時に、血清IgM 抗体検査等の血清抗体価の測定の実施およびウイルス遺伝子検査等の検体の提出を求めることとなった。また、総合的に臨床症状と検査結果を勘案した結果として、麻しんと判断された場合は麻しん(検査診断例)への届出の変更を求め、麻しんでないと判断された場合は届出の取り下げを求めることとしている。また、可能な限り、国立感染症研究所または地方衛生研究所において、遺伝子配列の解析を行う。さらに、都道府県等は、麻しん対策の会議を設置した上で、地域における施策の進ちょく状況を評価するものとし、必要に応じて、医師会等の関係団体と連携して、麻しんの診断等に関する助言を行うアドバイザー制度の整備を検討することとしている。

アドバイザー制度については、アドバイザーが届出の際に診察した医師の相談に応じることや、届出の取り下げの際の参考意見を得るなどの役割が期待される。

(3)第1期および第2期の定期接種の接種率目標(95%以上)の達成・維持
麻しんの予防接種を2回接種することと、その接種率を95%以上とすることが、麻しんの発生とまん延の防止上重要である。

新たな指針では、接種率目標を定め、引き続き、文部科学省等と連携して予防接種対策を行うこととしている。これまでも母子保健法の健康診査や学校保健安全法の就学時健診の機会に接種歴を確認してきたが、正確に確認できないことがあるため、原則として、母子手帳や接種済証等をもって接種歴を確認することが追記された。

(4)第3期および第4期の定期接種の時限措置の終了と今後の新たな対策
5年間の時限措置の実施により、10代の年齢層に2回目の接種機会が与えられ、多くの者が接種を受けた。その結果、当該年齢層の麻しん発生数の大幅な減少と大規模な集団発生の消失、抗体保有率の上昇を認めたことから、時限措置を行った当初の目的はほぼ達成することができたと考えられる。

新たな指針では、時限措置は当初の予定どおり平成24年度をもって終了し、今後は、麻しん患者が1例でも発生した場合に、感染症法第15条に基づく積極的疫学調査の迅速な実施や、周囲の感受性者に対して予防接種を推奨することも含めた対応を強化する対策が必要としている。

(5)国際貢献
麻しんウイルスの検査結果から、最近のウイルス株のほとんどは海外由来であることが判明している。麻しんの流行国の麻しん対策を推進することは、国際保健水準の向上に貢献するのみならず、海外で感染し、国内で発症する患者の発生を予防することにも寄与することになる。

新たな指針では、国は、世界保健機関等と連携しながら、国際的な麻しん対策の取り組みに積極的に関与する必要があるとしている。

(6)排除認定会議の設置
麻しんが排除され、その後維持されているかを判定し、世界保健機関に報告するため、新たな指針では、麻しんの排除認定会議を設置することとなった。

(7)普及啓発の充実
正確な麻しんの発生状況を把握し、適切に対処するためには、麻しんの現状を適宜情報提供することで国民に引き続き高い関心を持ってもらうことが必要である。

新たな指針では、厚生労働省は、文部科学省や報道機関等の関係機関との連携を強化し、国民に対し、麻しんとその予防に関する適切な情報提供を行うよう努めることとしている。

3.その他
指針の改正にあわせて、麻しん排除に向けた積極的疫学調査ガイドライン、医師による麻しん届出ガイドライン等の改訂を行う予定である。

 

厚生労働省健康局結核感染症課

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