国立感染症研究所

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レジオネラ症-最近の多様な感染源

(IASR Vol. 34 p. 169-170: 2013年6月号)

 

2008年12月、超音波加湿器による新生児集団感染がキプロスの私立病院(8新生児ベッド)で発生した1)Legionella pneumophilaに汚染された水道水が、新しく設置された超音波加湿器に補給されていた。加湿器は沐浴の場所の隣に設置され、補給水からは5.5×10CFU/L[血清群(SG)2が2割、SG3が8割]の菌が検出された。新生児室で、28%(9/32)が重症の肺炎(6例)あるいは軽い非定型症状(3例)を示し、致命率は33%(3/9)であった。剖検によりL. pneumophila SG1(遺伝子型ST1、モノクローナル抗体型Oxford/OLDA)とSG3(ST93)の菌が分離された。尿中抗原陽性は8/9であった。給水系の微生物検査はそれまで実施されていなかった。移植患者や新生児のようなハイリスク群の環境では水の定期的な培養検査が必要である。日本でもかつて同様の新生児院内集団感染事例(東京都、1996年)があり、加湿器による成人の市中散発例も報告されている(IASR 29: 19-20, 2008)。

2011年2月にイタリアの82歳の女性が、歯の治療で感染した2)。女性に基礎疾患はなく、シプロフロキサシンの投与を受けたが、2日後に敗血症で死亡した。潜伏期間中にレジオネラに曝露される機会は他にはなかった。環境調査では、自宅から菌は検出されなかったが、歯科診療所の水道蛇口(1.5×10CFU/L)、dental unit waterlineの歯を削る高速タービン(6.2×104 CFU/L)からL. pneumophila SG1が検出された。気管支吸引物や歯科治療環境から分離された株は、ともにST593、モノクローナル抗体型Benidormで一致した。高濃度塩素、12%過酸化水素で消毒され、菌は検出されなくなった。日本ではまだ同様の事例は報告されていない。

2012年7月2日~8月1日に英国Stoke-on-Trent市にある小売店に展示してあった循環式浴槽(spa pool)により21人がレジオネラ肺炎を発症し、うち2人が死亡した3)。起炎菌はL. pneumophila SG1で、遺伝子型は新規のST1268であった。展示浴槽と患者からの分離菌株の遺伝子型が一致して感染源が確定した。展示された浴槽からの感染は、日本では報告がないが、オランダや米国でもかつて報告されている。

2010年2~3月に米国ウィスコンシン州の病院玄関ロビーの修景水を感染源として8人発症した4)。患者の内訳は、外来患者3人、薬局利用者3人、配達人1人、待ち合わせした人1人であった。水が流れ落ちる幅2.4m、高さ1.5mの壁は、2008年に設置され、水から4,100 CFU/100 mL、下部の丸い敷石を載せていたスポンジからも多数のL. pneumophila SG1が検出された。週1回消毒されていたものの、照明による発熱とスポンジで増殖しやすい環境になっていた。その後の米国病院技術協会の指針では、ヘルスケア施設等の閉鎖空間では、噴水や開放的な修景水の設置は不適切であるとされた。2012年7~8月に米国シカゴのホテルでもメインロビーの噴水や水泳プール、ロッカールームの水がレジオネラで汚染されていて、10人の集団感染事例があった。その後、それまで水質検査されていなかったその噴水が撤去されている5)

2012年7月に冷却塔を感染源とするカナダ最大の集団感染事例(181例、うち13例死亡)がケベック州で発生した6)。疑われた地域の129の冷却塔が検査され、あるビルの屋上の冷却塔で高濃度の菌が検出された。その冷却塔ではレジオネラの検査がされていなかった。患者9人とその冷却塔から分離されたL. pneumophila SG1株の遺伝子型が一致した。州政府は1997年に冷却塔の設置されているビルの登録を勧告していたが、その後の新しい規制では、ビルの所有者は冷却塔を清浄に保つこととし、点検が義務化された。同様に、2012年5月に英国のエディンバラで冷却塔が感染源として疑われるレジオネラ肺炎の集団感染事例(101例;53例確定、48例疑い、うち3例死亡)が発生している7)

 

参考文献
1) Yiallouros PK, et al. Clin Infect Dis, Epub ahead of print, 2013
2) Ricci ML, et al., Lancet 379(9816): 684, 2012
3) Coetzee N, et al., Euro Surveill 17(37): 6-8, 2012
4) Haupt TE, et al.,Infect Control Hosp Epidemiol 33:185-191, 2012
5) Chicago Tribune NEWS, Sep 11, 2012; CNN.com Sep 1, 2012
6) CBC News Dec 6, 2012; The Montreal Gazette Aug 26, 2012; ProMed Sep 9, 2012
7) McCormick D, et al., Euro Surveill 17(28): 6-9, 2012

 

国立感染症研究所細菌第一部 倉 文明 前川純子

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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