国立感染症研究所

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腸管出血性大腸菌の分子型別

(IASR Vol. 35 p. 129-130: 2014年5月号)

 

疫学調査において腸管出血性大腸菌(EHEC)の菌株の同一性を確認するためには、血清型、毒素型に加えて分子型別を実施する必要がある。パルスフィールド・ゲル電気泳動法(pulsed-field gel electrophoresis; PFGEを利用した、制限酵素XbaI によるゲノムDNA切断パターンは、同一血清型、毒素型であっても多様性を示すことから菌株の異同を示す際に有用である。特に集団事例解析の際に、症例間に疫学的な関連があり、かつ分離株のPFGE型が同一、あるいは2~3本のDNA断片の違いであれば同一の集団事例株として考えて良いとされる1)。これは、1度のgenetic event(DNAの点変異、欠失、挿入)により、制限酵素切断パターンにおける2~3本のDNA断片の有無が形成される可能性があることに基づいている()。

近年、菌株の異同をあきらかにする分子型別として反復配列多型解析法(multiple-locus variable-number tandem-repeat analysis; MLVA法)が多様な病原細菌を対象に開発されてきた。細菌ゲノムには単一配列がタンデムにリピートする領域が複数存在し、かつ比較的頻繁にリピート数が変化することが知られている。これらのリピート数の違いを基に菌株を型別する方法である。基本的な実験手技は、当該領域をPCRで増幅し、シークエンサーにより増幅産物の大きさを測ることで各部位のリピート数を同定する。EHECに関しては、これまでO157、O26、O111を対象としたMLVA法が開発されている2)

MLVA法の利点は、迅速に多検体を処理することが可能であること、また、結果が各部位のリピート数として表すことが可能であることである。加えて、EHEC O157、O26、O111に関してはPFGE型別と同等の解像度があることが確認されている。国立感染症研究所(感染研)に収集されている国内分離株の解析では、PFGEで1,038種類の型に分類されるEHEC O157 1,966株がMLVAでは971型に分類された。Simpsonの多様度指数は、PFGE、MLVAそれぞれ0.994、0.996を示し、ほぼ同等の解像度を示した(すべての株が異なる型を示す時にSimpsonの多様度指数は1となり、1に近い値が得られる手法は解像度が高いと考えてよい)。また、EHEC O26(817株)およびO111(443株)に対するMLVAの多様度指数は0.993および0.987であり、十分な解像度があることが示されている。

PFGEによる2~3本のDNA断片の違いは1回のgenetic eventで起こりうる変化であるが、これに相当するMLVA型の変化は、1部位のみリピート数が異なるものとなる()。

感染研においては、同一の菌株による広域散発事例をより一層迅速に把握するため、今後EHEC O157、O26、O111の分子型別にMLVAを積極的に利用する。

 

参考文献
1) Tenover FC et al., J Clin Microbiol 33: 2233-2239, 1995
2) Izumiya H, et al., Microbiol Immunol 54: 569-577, 2010

 

国立感染症研究所細菌第一部 石原朋子 泉谷秀昌 伊豫田 淳 大西 真 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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