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エボラウイルス、エボラウイルス病とは

(IASR Vol. 36 p. 96: 2015年6月号)

2013年の12月にギニアで始まったとされるエボラウイルス病の流行は、その後のウイルス解析によりザイールエボラウイルスによることが確認された。エボラウイルスはこれまで1976年に初めてその存在が確認されて以来、中央アフリカでのみ流行してきたウイルスである。本特集にあたり、ウイルス学的側面からこれまで明らかになっていることを概説する。

エボラウイルスは、マイナス1本鎖RNAをウイルス遺伝子として持ち、フィロウイルス科エボラウイルス属に分類される。フィロウイルス科には他にマールブルグウイルス属があり、マールブルグウイルスの1種だけが知られているが、エボラウイルス属の場合、これまで5種類の存在が知られている。ザイールエボラウイルス(Zaire ebolavirus)、スーダンエボラウイルス(Sudan ebolavirus)、ブンディブギョエボラウイルス(Bundibugyo ebolavirus)によるエボラウイルス病はアフリカ中央部で流行してきたが、主にザイールエボラウイルスとスーダンエボラウイルスが流行の原因ウイルスとなっている。ブンディブギョエボラウイルスは2007年にウガンダでの流行時に初めて新規エボラウイルスとして確認された。ザイール、スーダン、ブンディブギョエボラウイルスによる流行では、致命率がそれぞれ80~90%、約50%、約30%である。さらにフィリピンで飼育されていたサルの間で致死的感染症が発生し、その時に分離されたレストンエボラウイルス(Reston ebolavirus)は、ヒト以外の霊長類に病原性を示すが、ヒトには病原性を示さないと考えられている。またタイフォレストエボラウイルス(Taï forest ebolavirus)が、西アフリカに位置するコートジボワールでその存在が確認されていたエボラウイルスである。1994年にコートジボワールのタイフォレスト国立公園で死亡していたチンパンジーの解体を担当した獣医師が感染・発症したが、回復した。西アフリカにエボラウイルスが存在することは知られていたが、ヒトからヒトへの感染連鎖による流行が発生することは予想されていなかった。

エボラウイルスは、ヒトに対する非常に強い病原性のため、エボラウイルス病の流行は深刻な問題と考えられてきたが、現時点では臨床的に使用できるエボラウイルス病に対する有効な治療法やワクチンがない。患者の血液等の体液を介して、粘膜や傷口から体内に侵入したウイルスは、初めに単球/マクロファージおよび樹状細胞等で増殖する。その後全身の血管内皮細胞や臓器の実質細胞に感染が広がり、そこでもウイルスが増殖することで細胞の機能障害、ひいては全身の各臓器の機能的障害を引き起こす。血液系の異常として、血液凝固系の異常が出現する。播種性血管内凝固症候群(DIC)がしばしば観察され、血管内皮細胞の障害と相まってより出血傾向が強まると考えられる。しかしながら、今回の西アフリカにおける流行時の観察によれば、一部の患者でしか出血症状が認められないということもあり、高い病原性の原因には出血凝固系の異常を含む多臓器不全が関与していると考えられる。エボラウイルスが感染したマクロファージからは様々なサイトカイン等が大量に放出される。感染により血液凝固系の異常な活性化が認められ、過剰に産生されたtumor necrosis factor-α (TNF-α)、interleukin(IL)-1β、IL-6などの炎症性サイトカインと相乗効果を生み、血液凝固系の破綻、血漿漏出や多臓器不全が起こる可能性が考えられている。

病原性は様々な因子により規定される。ウイルスが細胞に侵入するためには、その細胞にエボラウイルスに結合する受容体が発現していなければならない。また、侵入後にウイルスが感染した宿主細胞で増殖するには、免疫から逃れる必要がある。ウイルスは、感染初期にはインターフェロンに代表される自然免疫から逃れる機構を一般的に有しているが、エボラウイルスも培養細胞を用いた実験からいくつかの免疫回避機構を有することが知られている。これらのこともエボラウイルスの高い病原性の原因のひとつと考えられる。エボラウイルスの高い病原性には、様々な因子が複雑に関与していることが推察される。レストンエボラウイルスはヒトに対して病原性を示さない可能性が示唆されているが、その理由も、レストンエボラウイルスがヒト細胞に感染しにくくなる、なんらかの原因があると考えられる。現時点では、病原性におけるレストンエボラウイルスと他の4種のエボラウイルスとの相違は明らかではない。

エボラウイルスを含むフィロウイルス科ウイルスの生態・自然界における存在様式についても不明な点が多く、自然宿主からヒトへの感染がどのような経緯で起こるかは多くの場合よく分かっていない。今後の感染対策のためにも、これら不明な点について明らかにしていく必要があると考えられる。

 

国立感染症研究所
 ウイルス第一部 黒須 剛 西條政幸

 

 

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