国立感染症研究所

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鹿児島県徳之島におけるムンプスの流行像

(IASR Vol. 37 p.191-192: 2016年10月号)

はじめに

徳之島は鹿児島市の南方450kmにある周囲89.1kmの島で, 徳之島町, 伊仙町, 天城町の3町からなる。人口は徳之島町11,619人, 天城町6,411人, 伊仙町7,074人, 徳之島全体25,104人(平成27年1月1日現在), 高齢化率は30.8%である。徳之島保健所は徳之島の他に沖永良部島, 与論島を管轄しており, 北は鹿児島県名瀬保健所, 南は沖縄県北部保健所と海を隔てて接している。

医療機関は, 徳之島町に3病院と3診療所, 伊仙町に1診療所, 天城町に2診療所あるが, 小児科専門医が常勤する医療機関はなく, 徳之島町内の1病院で島外の非常勤小児科医が診察を行っている。小児科定点医療機関は徳之島に2カ所(徳之島町, 天城町), 沖永良部島に1カ所(知名町)ある。

感染症発生動向調査(NESID)の定点報告によると, 2015年第40週頃より徳之島において流行性耳下腺炎(ムンプス)の流行がみられ, 2016年第10週をピークに2016年8月現在も患者発生が続いている(図1)。今回の流行に際し, 島内医療機関への積極的なムンプスの調査を実施したので, NESIDの集計とともに, 成人を含めた徳之島におけるムンプスの全体像を報告する。

方 法

徳之島の2カ所の小児科定点医療機関よりNESIDに報告された2015年第27週~2016年第26週までのムンプス症例に加え, 島内の2病院5診療所(精神科病院, 眼科診療所を除く)にご協力を頂き, 2015年7月1日~2016年6月30日の1年間にムンプスと診断された症例を対象にカルテの記載内容をもとに, 患者の詳細について情報を収集・分析した。また, 病原体診断を目的とした特殊なろ紙カード(FTAカード, GEヘルスケア・ジャパン)を用いた唾液の採取を徳之島徳洲会病院で行い, ウイルス学的な解析を国立感染症研究所ウイルス第三部にて行った。

結 果

NESIDでは2015年第27週~2016年第26週までに484例がムンプス患者として徳之島の小児科2定点機関から報告されていた(年齢別では10歳未満が72.7%を占めた)。

7医療機関による調査では, 2015年7月1日~2016年6月30日にムンプスと診断された患者は, 重複受診と考えられた6例を除き1,191例であった。住所別では徳之島町645例, 天城町334例, 伊仙町216例, その他6例であった。総人口における年齢別では0~4歳396例(年齢別人口の33.4%), 5~9歳495例(同39.8%),10~14歳171例(同13.2%),15~19歳27例(同2.4%),20~29歳39例(同2.6%),30~39歳39例(同1.6%),40~49歳20例(同0.8%),50歳以上4例(同0.1%未満)と, 乳児から学童が多かったが, 成人患者も多くみられた。合併症としては, 無菌性髄膜炎を合併した症例が24例みられ, うち18例が入院していた。難聴が疑われる症例は2例だった。精巣炎が8例みられ, うち3例が入院した。ムンプスワクチン既接種は7例で, すべて1回であった。

NESIDと医療機関による調査での流行曲線を比較したところ, 2016年3月にピークをみとめ, 同様の流行状況であった(図2)。

FTAカードから抽出したウイルスの解析結果として, 2016年5~6月にかけて7人の患者より採取された検体のうち6件がRT-PCR陽性であった。陽性例の年齢中央値は10歳(範囲:2-14歳)であった。検出されたムンプスウイルスの配列は100%同じであり, 遺伝子型はGに属した。系統的には2015年に沖縄県で流行していたウイルスと同じであった。

考 察

徳之島では2006年以来9年ぶりのムンプスの流行であったため, 感受性者が多く蓄積していた結果, 感染者数も多かったと思われる。隣接する名瀬保健所管内(奄美諸島など)では今回流行は起こっておらず, 一方, 2010年沖縄県, 2011年鹿児島県での流行の際には徳之島での流行は認めておらず, 離島であるためか必ずしも隣接する医療圏と流行が連動していない(図1)。

医療機関での調査により島全体で1,191例のムンプスと診断された患者が存在したことがわかった。これは島民の4.7%にあたり, 10歳未満の小児に限れば年齢別人口の3分の1以上が罹患していたことになる。小児科定点によるNESIDの報告ではシステム上成人報告例は少ないが, 今回は離島という比較的限られた地域での流行という特徴に加え, 島内医療機関の協力が得られたため患者のほぼ全体を把握できた。その結果, NESIDの結果よりさらに成人のムンプス患者がいることが明らかになった。一方で, ムンプスの動向はNESIDにおいて正確に捉えられていることも判明した。

無菌性髄膜炎の患者は24例で患者全体の2.0%であり, 過去の報告と比べれば少なかった。また, 難聴疑いの症例は多くはないものの, 積極的な聴力検査を行えば, さらに多くの患者がいるかもしれない。医療機関を受診していない患者や無症候性感染者も考慮に入れると, ムンプスの疾病負荷はさらに大きいものであると考えられる。なお, 今回の流行は, ムンプスワクチン接種が島全体として非常に低い状況での流行であった。症例の中で2回接種している症例はおらず, ワクチン接種により流行の規模を小さくし, 重症例を防ぐ公衆衛生的な意義は大きいと考えられた。

ウイルス学的な分析結果からは, 単一系統のムンプスウイルスが流行したこと, およびウイルスは沖縄県から伝播した可能性のあることが示唆された。

おわりに

離島におけるムンプスの流行を調査した。ムンプスの罹患, 流行を防ぐためには, 高いワクチン接種率を達成, 維持することが必要である。大きな流行を経験し, 今後定期接種としてムンプスワクチン導入に向けた検討を期待する。また, ウイルス学的な分析も重要である。

謝辞:本調査にご協力をいただいた島内医療機関(徳之島徳洲会病院, 宮上病院, いなだ整形・内科クリニック, 徳之島診療所, あまぎユイの里医療センター, 天城診療所, 伊仙クリニック)の皆さまに心より感謝申し上げます。


鹿児島県徳之島保健所長 亀之園 明
医療法人徳洲会徳之島徳洲会病院総合内科 美里周吾
国立感染症研究所感染症疫学センター
 砂川富正 神谷 元 松井佑亮(協力研究員)
国立感染症研究所ウイルス第三部 木所 稔

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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