国立感染症研究所

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おたふくかぜワクチンについて

(IASR Vol. 37 p.201-202: 2016年10月号)

おたふくかぜについて

おたふくかぜ(流行性耳下腺炎, ムンプス)はムンプスウイルスによる感染症であり, 基本的な感染経路は唾液を介した飛沫によるヒト-ヒト間の感染である。耳下腺腫脹の6日前~9日後までの間に唾液中へのウイルスの排泄があり, 感染源となりうる。感染から発症までの潜伏期間は12~24日で, 主に発熱と耳下腺の腫脹と疼痛をもって発症する。感染力は比較的強く(基本再生産数11~14), 死亡することは稀であるが, 合併症として無菌性髄膜炎の頻度が高い(1~10%)。その他の合併症として, 難聴や膵炎, 精巣炎, 卵巣炎等がある。おたふくかぜには特異的な治療法はなく, 対症療法が行われ, 無菌性髄膜炎や精巣炎等の合併症を併発した場合には, 入院加療を行う場合が多い。また, おたふくかぜには不顕性感染があり, 発症者の隔離では流行を阻止することができない。

予防接種について

〇目的

おたふくかぜによる無菌性髄膜炎の頻度は1~10%と比較的頻度が高いものの予後は良好な合併症であり, 脳炎の合併を除くと, おたふくかぜは生命予後が良好な感染症である。しかしながら脳炎の合併率は0.02~0.3%, 脳炎例の致命率は1.4%であり, 難聴も早い時期に出現すると, その後の言語の発達に悪影響を及ぼす可能性がある。本邦の調査では難聴の発症率は0.1~0.25%である1)。おたふくかぜワクチンは, これらの観点から, おたふくかぜの発症と重篤な合併症を予防することが目的である。

〇有効性

わが国では現在, 星野株おたふくかぜワクチンと鳥居株おたふくかぜワクチンが任意接種として使用されている。いずれのおたふくかぜワクチンもほぼ同様の性状を示し, 抗体陽転率は12~20か月児で92~100%になる2)

星野株おたふくかぜワクチンの有効性については, ワクチン接種した乳幼児241例を対象におたふくかぜ発症阻止効果(接種後1~12年)の調査が行われており, 接種後におたふくかぜが発症した症例は1症例だけであり, 高い発症阻止効果が確認された3)。鳥居株おたふくかぜワクチンの有効性については, おたふくかぜ流行時, 家族内小児同胞237例を対象に, ワクチン接種群および未接種群の家族内二次感染・発病阻止調査が行われ, 家族内二次感染防御について算定したワクチンの予防効果率は94.3%であった4)

〇安全性

おたふくかぜワクチンの軽度な副反応として, 接種部位の痛み, 微熱あるいは軽度の耳下腺腫脹を呈する場合がある。入院加療が必要なおたふくかぜワクチンの副反応として, 無菌性髄膜炎が起こり得る。無菌性髄膜炎の発生頻度は概ね接種されたワクチン株によって決まり, 添付文書によると, 星野株ワクチンでは2,300人に1人程度, 鳥居株ワクチンでは1,600人に1人程度発生する3,4)。一方, 中山らの報告によると星野株ワクチンでは10,000人に1人, 丸山らの報告によると鳥居株ワクチンでは12,000人に1人, 無菌性髄膜炎が発生する1,5,6)。その重症度は自然感染例とワクチン接種例で変わらず, 一般に予後はどちらも良好である。また重篤な副反応として, 脳炎・脳症, 感音性難聴, 血小板減少性紫斑病, 精巣炎, 膵炎等が起こることもあるが, 頻度は0.1%未満である。

海外での状況

おたふくかぜは20世紀までは世界中でみられる病気であった。米国では1967年からワクチンの使用が始まり, 1977年からは1歳以上の幼児の定期接種に組み入れられ, 1986~1987年に起きた流行を契機として, ワクチンの2回接種が実施されるようになり, 21世紀に入ってからの患者数は年間300例以下まで抑えこむまでになった7)。また1982年から14年間MMRワクチンを使用したフィンランドでは1996年に国内発生件数0を達成した8)

2015年には世界121カ国でMMRワクチンなどの定期接種が行われるようになり9), ほとんどの国で2回接種が行われている10)。それに伴い世界的におたふくかぜの発生件数は激減しており, おたふくかぜの流行を繰り返しているのはエジプト, リビア以外のアフリカ諸国と日本を含む東アジア地域の一部の国に限られてきつつある11)

日本における状況

わが国では1981年より国産おたふくかぜワクチンが任意の予防接種として使用されている。1989年には, 麻しんワクチンの定期接種時にMMRワクチンを選択することが可能となったが, ワクチン接種後の無菌性髄膜炎等の問題があり, 1993年に国産MMRワクチンの定期接種は中止された。

おたふくかぜワクチンはその後, 単独の任意接種ワクチンとして利用されているが, 第7回感染症分科会予防接種部会における, 予防接種法の対象となる疾病ワクチンの検討において, おたふくかぜワクチンも検討されることとなり, 2012年5月に厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会がとりまとめた 「予防接種制度の見直しについて(第二次提言)」 では, 「広く接種を促進していくことが望ましい」 7つのワクチンの1つとされ, 2013年3月の予防接種法改正の参議院附帯決議において, 「定期接種の対象とすることについて検討し, 平成二十五年(2013年)度末までに結論を得ること。」とされた。

これを受けて2013年7月の厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会第3回予防接種基本方針部会において, おたふくかぜワクチンの技術的事項における論点が議論され, 「仮に広く接種をするに当たっては, より高い安全性が期待出来るワクチンの承認が前提であり, 新たなMMRワクチンの開発が望まれる」 とされた。その後厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会第5回研究開発及び生産・流通部会において, 開発優先度の高いワクチンについて議論され, MRワクチンを含む混合ワクチンが開発優先度の高いワクチンとして定められており, 2013年12月にワクチン産業協会の会員企業に対し, MRワクチンを含む混合ワクチンの開発要請を行った。現在のところ, 新たなMMRワクチンは承認されておらず, おたふくかぜは定期の予防接種の対象疾患となっていない。

 

参考文献
  1. おたふくかぜワクチン作業チーム報告書(第6回感染症分科会予防接種部会ワクチン評価に関する小委員会 報告書)
  2. おたふくかぜワクチンに関するファクトシート(第11回感染症分科会予防接種部会 資料2)
  3. 乾燥弱毒生おたふくかぜワクチン(星野株)添付文書
  4. 乾燥弱毒生おたふくかぜワクチン(鳥居株)添付文書
  5. Nakayama T, Onoda K, Vaccine 25: 570-576, 2007
  6. 丸山 浩, 富澤一郎, 臨床とウイルス22: 77-82, 1994
  7. Anderson LJ, Mumps Outbreak, United States 2006, NVAC meeting, CDC, 2006
  8. Mumps virus vaccines", WHO position paper, Weekly Epidemiological Record 76(45): 346-355, 2001
  9. http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs 378/en/
  10. http://www.who.int/immunization/wer8207mumps_Feb07_position_paper.pdf?ua=1
  11. Galazka AM, Robertson SE, Kraigher A, Bulletin of the World Health Organization, 77: 3-14, 1999
厚生労働省健康局健康課予防接種室

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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