
2014/15シーズンのインフルエンザ予防接種状況および2015/16シーズン前のインフルエンザ抗体保有状況―2015年度感染症流行予測調査より
(IASR Vol. 37 p.223-225: 2016年11月号)
はじめに
感染症流行予測調査事業は厚生労働省健康局結核感染症課を実施主体とする事業であり,感受性調査(抗体保有状況調査)に関しては2013年4月から予防接種法に基づく調査となった。
毎年,健康局長通知に基づいて全国の都道府県と国立感染症研究所が協力して実施しており,そのうちのインフルエンザ感受性調査は,インフルエンザの全国的な流行が始まる前にインフルエンザに対する国民の抗体保有状況を把握し,抗体保有率が低い年齢層に対する注意喚起等を目的としている。
対象と方法
2015年度のインフルエンザ感受性調査は,北海道,山形県,福島県,茨城県,栃木県,群馬県,千葉県,東京都,神奈川県,新潟県,富山県,石川県,福井県,山梨県,長野県,静岡県,愛知県,三重県,京都府,愛媛県,高知県,佐賀県,熊本県,宮崎県の24都道府県から各198名,合計4,752名を対象とし,2015年7~9月(インフルエンザの流行シーズン前かつワクチン接種前)の採血時期を原則として実施された(予防接種歴調査は上記都道府県の他,宮城県,山口県,福岡県でも実施された)。
インフルエンザに対する抗体価の測定は,対象者から採取された血清を用い,調査を実施した都道府県衛生研究所において赤血球凝集抑制試験(HI法)により行われた。2015年度の調査株は2015/16シーズンのインフルエンザのワクチン株として選ばれた以下の4つであり,HI法には各インフルエンザウイルスの卵増殖株を由来としたHA抗原を測定抗原として用いた。
・A/California/7/2009[A(H1N1)pdm09亜型]
・A/Switzerland/9715293/2013[A(H3N2)亜型]
・B/Phuket/3073/2013[B型(山形系統)]
・B/Texas/2/2013[B型(Victoria系統)]
なお,本稿では抗体保有率として,感染リスクを50%に抑える目安と考えられているHI抗体価1:40以上について示した。
結 果
1)2014/15シーズンにおけるインフルエンザ予防接種状況
2015年度の調査において2014 /15シーズン(前シーズン)の予防接種状況について調査が行われ,7,988名の結果が得られた。図1には1回接種者,2回接種者,回数不明接種者,未接種者,接種歴不明者の割合を年齢あるいは年齢群別に示した(上段:接種歴不明者を含む,下段:接種歴不明者を含まない)。接種歴が不明であった者はすべての年齢層で1~2割程度存在し,これら接種歴不明者を除いた6,955名についてみると,1回以上の接種歴を有していたのは全体で53%(1回接種者:28%,2回接種者:14%,回数不明接種者:11%)であり,2014年度調査 (2013/14シーズン接種歴調査)の結果と同程度であった(n=6,745,全体51%:1回28%,2回13%,回数不明10%)。年齢あるいは年齢群別にみると,0歳はほとんどが未接種者であり,1歳でも約6割は未接種者であった。しかし,2歳以降は多くの年齢層で半数以上の者に1回以上の接種歴があった。また,2回の接種が推奨されている1~12歳において,接種回数が明らかな者(1回および2回接種者)のうち2回接種者の割合をみると、68~95%が2回接種者であり,他の年齢層(5~47%)と比較して高かった。
2)インフルエンザ抗体保有状況の比較
2015年度(2015/16シーズン前)のインフルエンザ抗体保有状況と前年度(2014/15シーズン前)との比較を図2に示した。
2015年度は合計で6,584名の対象者について結果が報告された。0歳以降5歳ごとの各年齢群における対象者数は,0~4歳群で約800名,5歳~30代の各年齢群で約500~600名,40代~60代前半の各年齢群で約300~400名であったが,60代後半および70歳以上の年齢群では100名前後の対象者数であった。
A(H1N1)pdm09亜型については2014年度と2015年度で同じ調査株が用いられた。両年度の抗体保有率は,ほぼ同程度の抗体保有率であった。2015年度の5歳~20代の各年齢群の抗体保有率(68~84%)は,その他の年齢群と比較して高かった。30~50代の各年齢群は概ね40~50%の抗体保有率であったが,0~4歳群および60歳以上の各年齢群は40%未満(25~33%)であった。
A(H3N2)亜型については2014年度と2015年度で調査株が異なっていた。2015年度は2014年度と比較して,0~4歳群以外のすべての年齢群で抗体保有率が10ポイント以上低かった。2015年度の5~14歳の各年齢群の抗体保有率(61~64%)は,その他の年齢群の抗体保有率より高かった。一方,60歳以上の各年齢群の抗体保有率(24~25%)は他の年齢群と比較して低かった。
B型(山形系統)については2014年度と2015年度で異なる調査株が用いられた。2015年度の抗体保有率は70歳以上群を除くすべての年齢群で2014年度と比較して低かった。2015年度の調査では,20代の抗体保有率(60%)が他の年代より高かった。一方,10歳未満および55歳以上の各年齢群の抗体保有率(14~27%)は他の年齢群より低かった。
B型(Victoria系統)の調査株は2014年度と2015年度で異なっていた。2015年度の抗体保有率は2014年度と比較してすべての年齢群で低かった。2015年度の抗体保有率は,35~44歳の各年齢群以外,すべての年齢群で30%未満であり,とくに0~4歳群および55歳以上の各年齢群の抗体保有率(11~14%)は低かった。
まとめ
2015年度の調査の結果,他の年齢層と比較して高い抗体保有率を示した年齢層はA(H1N1)pdm09亜型では5~29歳,A(H3N2)亜型では5~14歳,B型(山形系統)では20~29歳,B型(Victoria系統)では35~44歳であり,抗体保有率が相対的に高い年齢層は型・亜型・系統により異なっていた。しかし,0~4歳群および60代以上の年齢群における抗体保有率は,いずれの調査株に対しても相対的に低い傾向がみられた。
本調査結果については,2015/16シーズンの全国的な流行開始前に速報としてWeb上に掲載し,当該シーズンのワクチン株に対して抗体保有率が低い年齢層に対する注意喚起を行った。しかし,流行シーズン前の抗体保有率とその後の流行状況との関連等についてはさらなる検討が必要であり,今後の課題である。
最後に,本調査にご協力頂いた都道府県ならびに都道府県衛生研究所をはじめ,保健所,医療機関等,関係機関の皆様に深謝申し上げます。