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性感染症としてのアメーバ赤痢の国内疫学,2000~2013年

(IASR Vol. 37 p.241-242: 2016年12月号)

アメーバ症は,Entamoeba histolyticaの感染により引き起こされる感染症である。大半は,無症候か軽症であるが,感染者のうち症状を示すのは5~10%とされ,死亡する可能性もある1)。侵襲性アメーバ症は,汚染された食品や水から感染し発病するだけでなく,性感染症として,特に男性と性交する男性(MSM)において発病する2,3)。わが国においては,アメーバ赤痢は,全数届出が義務付けられており,国内感染例の報告が近年増加している4)。我々は,報告数の増加が著明であった2010~2013年に焦点をあて,2000~2013年の国内感染例を解析した。

 2000~2013年に,合計9,946例,うち国内例7,403例が感染症発生動向調査システム(NESID)に報告された。国内例の割合が65%から85%と増加し,報告率は0.30/10万人(2000年,報告数381例)から0.82/10万人(2013年,報告数1,047例)と毎年増加した。症例の大半は男性で,毎年85~91%を占めた。性的接触については,2008年に男性の異性間接触が同性間接触を上回った()。確定診断の方法は顕微鏡が最も多かった(80%,診断方法に重複あり)。

2010~2013年の期間,87%が男性で,50歳以上の割合が微増した()。無症候例(自覚症状が無いが紅斑,浮腫,白滲出液,潰瘍といった特異的な大腸粘膜病変を有する症例)の割合が6%から19%に,大腸内視鏡検査で診断された症例は65%から73%に増加した()。男性においては,推定感染経路不明の割合と異性間性的感染が増加した。女性においては,ほとんどが異性間であった()。症候例の割合(女性94%,男性86%)と50歳未満の割合(女性76%,男性50%) は女性が高かった。男女ともに,無症候例は大腸内視鏡検査で診断される例が多かった(男性98%,女性96%)。

大半の症例を占める男性においては,無症候例と症候例を単変量,多変量ロジスティック回帰分析で比較した。単変量分析では,無症候のオッズは,大腸内視鏡検査,そして同性間性的感染と比較して異性間性的感染,非性的感染,感染経路不明が有意に高かった。年齢,大腸内視鏡検査,感染経路で多変量解析を行ったところ,無症候のオッズは,大腸内視鏡検査(オッズ比31.5,95%信頼区間14.0-71.0),推定感染経路不明(オッズ比2.2,95%信頼区間1.3-3.9)が有意に高かった。

近年は,異性間性的接触もしくは推定感染経路不明の男性例の報告の増加がみられ,大腸内視鏡検査で診断された無症候例による影響の可能性が示唆された。男性の異性間性行為感染例の増加は,これまで注目されておらず,公衆衛生上の課題である。MSMステータスを調整しても経口-肛門性交渉はアメーバ症と関連を認めた報告もあり5),日本で性風俗従事者を含む女性の症例報告がある4,6)

本解析の制限として,まず,感染経路情報は自己申告のデータであり,不正確かもしれない。また,2011年より,臨床症状の一覧の中から “大腸粘膜異常所見” を選択することができるようになったため,大腸内視鏡検査による診断の報告が増加する機会になったかもしれない。さらに,病原性はないが,E. histolyticaと顕微鏡では鑑別がつかないE. disparが含まれている可能性がある。ただし,日本においては,E. disparは限られているとされており5)E. histolyticaとE. disparをPCR,血清抗体,ELISAの何れかの診断に限定した825例で分析を行ったところ,依然として無症候例は,大腸内視鏡検査と推定感染経路不明と相関を認めた7)

本解析は,日本のアメーバ赤痢疫学の理解に繋がると考えられる。これらの結果を還元し,さらなる研究によって日本のアメーバ赤痢の予防に関与することが期待される。

謝辞:感染症発生動向調査にご協力いただいている全国の地方感染症情報センター,保健所,衛生研究所,医療機関に感謝申し上げます。

 

参考文献
  1. Debnath A,et al.,Nat Med 2012; 18: 956-960
  2. Takeuchi T,et al.,J Infect Dis 1989; 159: 808
  3. James R,et al.,Am J Trop Med Hyg 2010; 83: 914-916
  4. IASR 35: 223-224,2014
  5. Hung CC,et al.,Am J Trop Med Hyg 2011; 84: 65-69
  6. Nagata N,et al.,Emerg Infect Dis 2012; 18: 717-724
  7. Ishikane M,et al.,Am J Trop Med Hyg 2016; 94(5): 1008-1014

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