IASR-logo

ノロウイルスの迅速簡易検出法(イムノクロマト法)

(IASR Vol. 38 p.11-12: 2017年1月号)

ノロウイルスの診断法は遺伝子診断法(RT-PCR, リアルタイムPCR, LAMPなど)とともに抗原・抗体反応による抗原診断(イムノクロマト法, 酵素抗体法, BLEIA法など)がある。外来・ベッドサイドで迅速・簡易診断とするならイムノクロマト法(IC法)が一番扱いやすい。

 最初のICキットはGII.4 Loadsdale株のウイルス様粒子(VLP)を家兎に免疫したポリクローナル抗体を用いた。RT-PCRに比較し感度は73%に落ちるが, 特異度は91%であった1)。その後, マウスのモノクローナル抗体でGI, GII両方あるいはそれぞれに反応する抗体を用いてGI, GIIを1つのラインで, またはそれぞれのラインで判定するキットが出現し, 感度・精度は向上した。さらにロタウイルスとノロウイルスを同一キットで同時に調べ得るキットが市販された。わが国では現在のところ6社によるキットがある。GEテストイムノクロマト-ノロ, クイックナビ-ノロ2, クイックチェイサー-Noro, イムノキャッチ-ノロ, ラピッドエスピー-ノロ, IPライン-デゥオ「ノロ・ロタ」がある。また海外ではRIDAクイック-ノロウイルスがある2)

市販のキットで, ウイルスRNA濃度と比較した論文は多くはないが, 1010コピー数/mL以上あればICキットでほぼ確実に検出可能である。106~109コピー数/mLでは概ね検出が可能だが, 105コピー数/mLでは半数程が検出できない (表1)。IC陰性は特定の遺伝子型によりみられた。

ノロウイルスのICキット作製に当たって次のような難しさがある。(1)ノロウイルスは細胞培養が難しく, バキュロウイルスを用いた人工的なVLPを抗原としている。現在GII.4 variantが頻度では多いので, GII.4を中心に, GII.3, GII.6など比較的頻度が多い遺伝子型にも反応する, できればより広い遺伝子型の抗原に反応するモノクローナル抗体を得る。(2)より少ないノロウイルス抗原と反応を示す反応系を用いる。RIDAクイック-ノロウイルスは反応にビオチン・ストレピトアビジンを用いている。(3)試薬によっては, 直腸便・浣腸便でも検出できるとしているが, 直腸便ではウイルス量が十分に取られていなく偽陰性, 浣腸便ではグリセリンによる偽陽性のことがあるので, できるだけ直接に便からが望ましい。重要な検体では遺伝子診断法で確認する。(4)吐物に存在するウイルス量は105/mL程度であるため, 現時点では吐物からノロウイルスを診断するICキットはない。

2014~2015年にアジアを中心に新型GII.17がみられるようになった。上海では2014年12月以降~2015年にかけ, GII.17がGII.4より多くみられた3)。わが国のノロウイルス食中毒としてはGII.17の割合が従来のGII.4と拮抗しているが, 我々の6都市の小児科クリニックの状況ではノロウイルス遺伝子型の10%に過ぎない(Thongprachum A私信)。ノロウイルスに繰り返し罹患した症例ではGII.17罹患の前のGII.4の時にGII.17の血清IgG, IgA抗体も上昇していた (Ushijima H私信)。また, 下水の中にはGII.17が頻繁に見出されていることから, 今後ノロウイルスの主流になることも否定できない。

GII.17の症例に市販のICキットを用いて診断したところ, 検出感度が他の遺伝子型と比較し, 偽陰性となることがあるとわかった4-6)。通常GII.4は107コピー数/g以上存在すればICキットで陽性になるが, GII.17の場合は108-9コピー数/g以上でなければ検出できなかった。わが国のICキットでは, お互いでの差は少なかったが, RIDAクイック-ノロウイルスが感度において良かった(表2)。このことは, 厚生労働省からの通達でノロウイルス感染症の迅速診断法の注意点の中に含まれている。なお海外の試薬は, 輸入の認可を求めていないので市販されていない。早急にGII.17に対してもGII.4並みの感度のキットが望まれる。

2016年の10月以降のノロウイルスからはGII.4, GII.17以外のGIIもみられ, イムノクロマト反応の評価を続ける必要がある。

 

参考文献
  1. Okame M, et al., Kansenshogaku Zasshi 77(8): 637-639, 2003
  2. Ushijima H, et al., The Norovirus, Academic Press, pp155-162, 2016
  3. Pan L, et al., Gut Pathog 8: 49, 2016
  4. Khamrin P, et al., Euro Surveill. 2015; 20 (28): pii=21185
  5. Th´ery L, et al., Euro Surveill. 2016; 21(4): pii= 30115
  6. Ushijima H, et al., JJID(in press)

日本大学医学部病態病理学系微生物学分野
 牛島廣治 Aksara Thongprachum 沖津祥子

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan