国立感染症研究所

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焼肉店の利用客における腸管出血性大腸菌O157の集団食中毒事例―滋賀県

(IASR Vol. 38 p.97-98: 2017年5月号)

2016(平成28)年7月11日に滋賀県A保健所管内の医療機関から腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症患者の届出があった。A保健所の調査により, 7月2日に本患者とともにX焼肉店を利用した合計8名のうち, 4名が消化器症状を呈していたことを確認した。さらに, X焼肉店を利用した別のグループのEHEC感染症患者が, 7月12日にAおよびB保健所へ届出された。届出された2例の患者に, EHECの検出, 症状およびX焼肉店の利用が共通したこと, および医師から食中毒の届出があったことにより, A保健所は食中毒事例としてX焼肉店に営業停止を命令した。また, 7月1日~12日にX焼肉店を利用した298グループ(918名)のうち, 連絡が可能であった45グループ(290名)を対象として調査を行った結果, 滋賀県および3府県に在住する13グループ(合計78名)のうち, 42例の消化器症状発症者を認めた。

「検便検査よりEHEC O157 VT1&VT2(O157)を検出した確定例(19例)」および「O157不検出もしくは検便検査を実施していない者のうち3回以上の血便もしくは下痢便を認めた疑い例(20例)」を併せて症例(39例, 男性24例および女性15例, 年齢中央値39歳)とした。また, 検便検査によりO157を検出したが, 症状を認めない者を無症状病原体保有者(9例)とした。症例は7月2日~13日(X焼肉店での喫食後1~5日)に発症(図1)し, 下痢(39例), 血便(7例), 嘔吐(3例)などの症状を認めた。しかしながら, 少なくとも滋賀県在住者において, 溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症した者はなかった。滋賀県の確定例由来株および他府県の確定例由来株はすべて類似のパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)パターン(図2)を示した。厨房内の包丁, まな板および作業台などの施設内ふき取り検査および使用水の検査を実施したが, すべてO157は不検出であった。

原因メニューを推定するために, 症例を「確定例と疑い例」および対照を「非発症者かつ無症状病原体保有者でない者」として症例対照研究を行った結果, 鶏肉, 焼野菜, 飲用水, 大根サラダの順にオッズ比が2を上回ったが, 統計学的に有意なものは無かった()。

X焼肉店には同一経営者が経営する牛舎や豚舎等が近接しており, 利用客へ提供する飲用水および調理やサラダとして提供される野菜の洗浄等に利用する水は, 牛舎横にある堀井戸を水源とする井戸水が利用されていた(X焼肉店では上水道は利用されていない)。また, 保健所による立ち入り調査時に, 本堀井戸から敷地内各施設への配水管の途中にある薬品タンクに次亜塩素酸ナトリウムはなく, 同店厨房内の調理用シンク蛇口から採取した水の残留塩素濃度は0ppmであった。さらに, 同店調理従事者6名のうち日常的に井戸水を飲用していた4名(1名は7月6日に発症)から, 利用客と同一のPFGEパターンを示すO157が検出された。

以上の調査結果より, 本事例は汚染された井戸水の飲水, および井戸水を介して汚染された食材の喫食を主な感染経路とする食中毒事例であった可能性が考えられる。発症との関連性を示した喫食メニューの一つである「大根サラダ」を担当した2名の調理担当者は日常的に井戸水を飲用せず, かつO157は検出されていなかったことは, 本考察を支持する所見の一つかもしれない。A保健所はX焼肉店に, 施設の清掃, 消毒等の指導および衛生管理等の教育とともに, 井戸水の定期的な残留塩素濃度の確認および水質検査等を指導した。

本事例の調査にご協力いただいた大阪府・大阪市・枚方市・和歌山県・岡山県・岡山市および分子疫学解析をご支援いただいた国立感染症研究所細菌第一部の皆様に深謝いたします。

 

滋賀県衛生科学センター
 鈴木智之 梅原成子 河野智美 青木佳代 坂口初美 南 真紀 小嶋美穂子
 井下英二 苗村光廣
高島保健所
 太田 要(現:滋賀県健康医療福祉部生活衛生課食の安全推進室) 丸田真治
 寺脇桂子(現:滋賀県長浜保健所) 浅田朋彦

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