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2017年に分離された腸管出血性大腸菌のMLVA法による解析

(IASR Vol. 39 p81-82: 2018年5月号)

国立感染症研究所(感染研)細菌第一部では2014年シーズンから腸管出血性大腸菌O157, O26およびO111についてmultilocus variable-number tandem-repeat analysis(MLVA)法による分子疫学サーベイランスを行っている。本稿では2017年に発生した主要な集団事例関連株, 広域株等を中心にMLVA法による解析結果をまとめた。2018年3月10日までに感染研に送付された2017年分離株は2,913(同時期前年比13%増)であり, このうちO157は1,619(同5.5%増), O26は696(同13%増), O111は128(同83%増)であった。これらの株をMLVA法によって解析した結果同定された型の数は, O157が597(前年比6.6%増), O26が250(同24%増), O111が54(同42%増)であった。それぞれのSimpson’s Diversity Index(SDI)は0.972(昨年0.990), 0.985(同0.985), 0.918(同0.969)であった。2017年は上記3血清群以外にO103, O121, O145, O165, O91について, プライマーを追加し解析した。それぞれの解析株数, 検出型数, SDIは, O103が144株, 46型, 0.909, O121が75株, 32型, 0.955, O145が43株, 19型, 0.859, O165が8株, 8型, 1, O91が41株, 33型, 0.988であった。表1に検出された菌株数が多かったMLVA型およびその各遺伝子座のリピート数を示す。

MLVAでは, リピート数が1遺伝子座において異なるsingle locus variant(SLV)など, 関連性が推測される型をコンプレックスとしてまとめる様式をとっている。2017年は113のコンプレックスが同定された。

2017年に発生した集団事例として, 8月に関東地方を中心に発生した事例においては後述の17c013に含まれる菌株が関与した。当該コンプレックスに含まれる菌株の分離地域およびMLVAに基づくminimum spanning treeをに示す。当該株のうち分離日の情報が得られたものは304株で, その96%は第31~35週に分離されていた。

MLVA法によって試験した菌株に関し, 送付地方衛生研究所(地衛研)等の情報に基づいて広域株の検索を行った。5以上の地衛研等で検出された広域コンプレックスは15種類, コンプレックスに含まれない広域型は11種類であり, 該当するコンプレックス/型および分離地域(ブロック)は表2に示すとおりである。このうち17c013株は25都府県36地衛研から15型315株, 17c201株は17都道府県20地衛研から10型53株検出された。17c013は2014年以後で最大のコンプレックスであった。

MLVA法により迅速な菌株解析が可能となったことで, 集団事例および家族内事例における菌株の同一性, 散発例も含めた事例間の関連性および広域性の有無などの情報がよりリアルタイムに還元できるようになってきている。MLVA法の結果に基づいて実施された自治体からの疫学情報の共有などから事例間のつながりが明らかにされるなど, 事例対応に有益であったことも少なからずあった。

2017年はO157, O26, O111に加え, O103, O121, O145, O165, O91に関してもMLVA法を用いて解析した。今後も迅速な菌株解析ならびに情報共有に努めていくので, 引き続き関係機関のご理解とご協力をお願いしたい。

多様性を表す指数の一つ。0-1の範囲で1に近いほど多様性が高く, 0に近いほど多様性が低いことを示す。

 

国立感染症研究所細菌第一部
 泉谷秀昌 李 謙一 伊豫田 淳 大西 真

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