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基幹定点医療機関におけるペニシリン耐性肺炎球菌感染症の推移, 2008~2017年

(IASR Vol. 39 p111-112: 2018年7月号)

ペニシリン耐性肺炎球菌(penicillin-resistant Streptococcus pneumoniae: PRSP)感染症の発生に対しては, 1999年4月施行の感染症法に基づく感染症発生動向調査(NESID)として, 毎月の基幹定点医療機関(全国約500カ所の病床数300以上の医療機関)からの届出・報告への監視が行われている (届出基準・届出様式:https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-37-01.htmlkansenshou11/01-05-37-01.html)。

本稿においては, 2008~2017年の10年間のPRSP感染症の基幹定点医療機関における報告についてまとめるものである。なお, 基幹定点とは, 2次医療圏ごとに1カ所以上の患者を300人以上収容する施設を有し, 内科および外科を標榜する病院(小児科医療と内科医療を提供しているもの)とされ, 対象患者がほとんど入院患者であるとされている。なお, 各年12月分の報告を行った基幹定点数は, 2009年470, 2011年463, 2013年470, 2015年475, 2017年475であった(毎月の報告を行った基幹定点数はIDWR月報に掲載:https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr.htmlgo.jp/niid/ja/idwr.html)。

2008年1月~2017年12月までの10年間に全国の基幹定点医療機関から報告されたPRSP感染症の年別・年齢群別報告数推移を図1に示す(2018年6月5日と6日にNESIDシステムよりダウンロード)。2008~2011年には年約5,000例の報告数であったが, 2012年以降は年4,000例の報告数を下回り, 2015年以降は年2,000例程度と2011年以前の半数以下で推移し, 10年間の年平均報告数は3,543例となった(総報告数は35,429例)。報告数の著明な減少に伴い, かつて毎年みられていた, 5~6月頃, 11~12月を中心とした季節性の増加はほぼみられなくなり(https://www.niid.go.jp/niid/ja/10/2097-monthlygraph/1676-14penicillin.html/2097-monthlygraph/1676-14penicillin.html), 2017年は, 月平均166.8例(範囲145~205例)の報告数で推移した。PRSP感染症の10年間における年齢群別(0歳, 1~4歳, 5~14歳, 15~64歳, 65歳以上)報告数は, 4歳以下(0歳, 1~4歳)が, 全体として最多であった2010年(3,484例)から, 直近の2017年(751例)へと78.4%の減少を認めた(図1)。65歳以上においては, 2010年(1,271例)から2017年(904例)への減少と, 28.9%の減少に留まった。

また, PRSP感染症として報告された症例のうち, 感染症の種類については報告項目とはなっていないが, 検体採取部位について血液あるいは髄液の記載があった, いわゆる侵襲性PRSP感染症と考えられる症例はそれぞれ1,153例, 200例であり〔計1,353例(重複無し)〕, この10年間に報告されたPRSP感染症全体の3.8%を占めた。この割合は10年間の間で大きく変化は無かった(3.1~4.9%/年)。なお, 本サーベイランスにおける侵襲性PRSP感染症の推移は, PRSP感染症とほぼ同様であり(図2), 特に2012年においては111例と大きく減少したが, 以後は2015年の77例を最低値としていったんは減少傾向であったが, 特に2016年からは漸増している(図2)。10年間における年齢群別(0歳, 1~4歳, 5~14歳, 15~64歳, 65歳以上)報告数は, 4歳以下(0歳, 1~4歳)が, 全体として最多であった2009年(120例)から, 直近の2017年(19例)へと84.2%の減少を認めた(図2)。65歳以上においては, 2010年(62例)から2017年(47例)への減少と, こちらも24.2%の減少に留まった。2015年以降の65歳以上における報告数は36例(2015年), 45例(2016年), 47例(2017年)とほぼ横ばいである。

わが国では小児用の7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)は, 2010年2月から任意接種として接種可能となり, 同年11月からは, 市町村が実施主体となって公費補助で接種が行われてきた。また, わが国では2013年11月にPCV7から13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)に切り替えられた。高齢者の肺炎球菌ワクチンとしては, 定期接種として23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチンが用いられている。本まとめにおいて注目すべき基幹定点医療機関におけるPRSP感染症の推移は, 特に乳幼児における報告数がPCV7の導入とタイミングを同じくして減少したということである。65歳以上の高齢者においても減少しているものの, 観察される状況は乳幼児とは異なる。また, PRSPによる侵襲性感染症においても同様な傾向がみられたことは注目すべき所見であり, 抗菌薬による治療に大きな制約のあるPRSP感染症に対するワクチンの効果を評価するうえでも, 発生動向を引き続き注視していく必要がある。

(注)PRSPの耐性機構は主にペニシリン結合蛋白(penicillin-binding protein: PBP)の遺伝子変異による。感染症法上の定義では, PRSPはペニシリンのMIC値が≧0.125 μg/mLまたは, オキサシリンの感受性ディスク(KB)の阻止円の直径が19 mm以下とされている。一方, 2008年のClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)の基準では, PRSPの判定基準は髄膜炎由来株はペニシリンGのMIC値が≧0.12μg/mL, 非髄膜炎由来株はペニシリンGのMIC値が≧8μg/mLとなった。CLSIのPRSPの判定基準は国内の医療機関でも標準的に利用され, 国立感染症研究所の病原体検出マニュアルも本基準に準拠している。従って, PRSP感染症の基幹定点医療機関報告では, 非髄膜炎由来株の判定基準がCLSIと異なっている点に留意が必要である。

 
 
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