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大阪府における侵襲性肺炎球菌感染症由来菌株の血清型分布, 2014~2017年

(IASR Vol. 39 p110-111: 2018年7月号)

侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)は, 菌血症, 菌血症を伴う肺炎, 髄膜炎など肺炎球菌が無菌部位検体から検出される感染症で, 2013年4月1日に感染症法の定める5類全数把握疾患に追加された。現在, その予防としてワクチンの接種が推奨されており, 5歳未満の小児には肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)〔2010年に7価PCV(PCV7)導入, 2013年に13価PCV(PCV13)に切り替え〕, 65歳以上の高齢者には23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)が定期接種化されている。これらワクチンの効果検討のため厚生労働省による流行予測調査事業の一環としてIPDの感染源調査が行われており, 大阪府では2013年8月より当該事業に参画して菌株の収集および解析を実施してきた。今回は, 2014~2017年に大阪府内で発生したIPD由来株の血清型別について解析したので報告する。

対象と方法

2014年1月1日~2017年12月31日までに大阪府内で届出されたIPD症例を対象とし, 0~4歳を小児, 65歳以上を高齢者とした。そのうち, 医療機関等から分離菌株の提供を受けたものについて, デンカ生研およびStatens Serum Institut製の抗血清を用いて血清型別を実施した。

結 果

2014~2017年の大阪府内のIPD届出件数は774件で, 2014年以降増加傾向にあった(図1)。このうち, 菌株を収集して解析できたのは429件(55.4%)で, 年ごとの推移は届出数と同様であった。収集した株の内訳を世代別にみると, 高齢者由来株の割合は55.0~62.9%で増減はあるもののほぼ横ばいであった。一方, 小児由来株では2014年以降, 減少傾向にあったが, 2017年には増加に転じていた。

全菌株の血清型別の結果を図2に示す。全世代を通じて多かった血清型は, 19A, 3, 12F, 22F, 15A型の順で, 高齢者では3型, 小児では24Fが最も多かった。接種対象世代別のワクチンカバー率は, 小児に対するPCV13では9.0%, 高齢者に対するPPSV23では68.8%となった。小児のPCV13含有型分離例(8例)の内訳は, PCV13接種歴ありの症例は3型(1例)のみ, PCV7接種歴ありではPCV7非含有型である19A型(3例)と1型(1例), ワクチン接種歴なしで19A型(3例)であった。一方, 高齢者においては, ワクチン接種歴ありの28例のうち対応血清型が分離されたのが24例で, 多い順に3型(10例), 10A型(4例), 19A型(3例), その他 (7例) となった。

上位5種類の血清型について年次推移についてみたところ, 図3に示したように, 12F型が増加しており, 特に2017年にその増加が顕著であった。これは, 3型がやや増加傾向にあったものの, 他の血清型がほぼ横ばいから減少傾向にあったのと対照的であった。また, 12F型の増加は全世代を通じて共通の傾向であった。

考 察

小児においては2016年までのIPD症例の減少傾向と原因菌のカバー率の低さ(9%)からワクチンの効果が現れていることが推察された。2011~2013年におけるPCV13のカバー率が64.4%であったことが報告されており1), PCV13の普及とともにワクチン含有型から非含有型への血清型置換が生じたものと考えられた。一方, 高齢者においては, 調査期間を通じてIPDの発生数はほぼ横ばいで, PPSV23のカバー率も以前の報告2)とほぼ変わっておらず, 2014年以降のワクチンの効果は明確には認められなかった。また, 以前より19A型などのワクチン非含有型による流行が懸念されているが1), 今回新たに12F型の増加が認められた。イスラエルでもワクチン導入後に12F型によるIPD症例の増加が認められ, 特に小児で顕著だったとの報告がある3)。これは12F型がPCV13に含まれていないことが要因として考えられ, 日本においてもこの血清型によるIPD症例の増加に注意が必要である。

謝辞:本調査研究に対する医療機関, 臨床検査機関, 関連自治体のご協力に感謝申し上げます。

 

参考文献
  1. 常 彬ら, IASR 35: 234-236, 2014
  2. 河原隆二ら, IASR 35: 179-181, 2014
  3. Rokney A, et al., Emerging Infect Dis 24: 453-461, 2018

 

大阪健康安全基盤研究所微生物部細菌課
 河原隆二 山口貴弘 勝川千尋 川津健太郎
大阪府感染症情報センター
 本村和嗣 西村公志
大阪府健康医療部保健医療室医療対策課
 瀧井雄基 折井 郁 河原寿賀子 木下 優
 田邉雅章

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