国立感染症研究所

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福岡県のHIV/AIDS発生動向および保健所HIV検査陽性検体の解析

(IASR Vol. 39 p151-153: 2018年9月号)

1.2017年の新規HIV感染者およびAIDS患者報告数

福岡県で2017年に新たに報告されたHIV感染者は54名, AIDS患者は24名, 総数78名であり, 前年より14名減少したが過去2番目に多かった()。

2017年末までの累計は, HIV感染者・AIDS患者の総数866名であり, 国籍別では日本人男性807名(93.2%), 外国人男性18名(2.1%), 国籍不明男性1名(0.1%), 日本人女性35名(4.0%), 外国人女性5名(0.6%), 感染経路別では異性間性的接触216名(24.9%), 同性間性的接触542名(62.6%), その他・不明108名(12.5%) であった。

2.近年の発生動向

新規HIV感染者およびAIDS患者の総数は, 福岡県では全体的に増加傾向にあり, いきなりAIDS率は2014年以降全国平均の30%を上回り推移している(1)。検査件数は2008年の7,753件をピークに減少し6,000件前後で推移している。2017年は2016年の報道の影響か5,745件と前年より増加した。

新規HIV感染者およびAIDS患者のそれぞれの年齢区分別推移をみると, HIV感染者では20代~30代が多く, AIDS患者では30代~40代が多かったが, 2011年以降50代以上が急増している2)。一方で, HIV感染者およびAIDS患者において20歳未満の報告および2016年以降70代以上の報告があり, 感染年齢層の拡大が懸念される。

3.福岡県域(北九州市, 福岡市, 大牟田市および久留米市を除く)の保健所HIV検査陽性検体の解析

福岡県では, 13カ所の保健所等でHIVスクリーニング検査を行い, スクリーニング陽性検体について当研究所でHIV確認検査を行っている。同時に梅毒検査の受検が可能である。HIV検査陽性者の動向を把握するため, 2014~2016年にかけて実施したHIV確認検査の陽性検体17検体について, サブタイプ等の遺伝子解析およびBEDアッセイによる感染時期の推定を行った()。

サブタイプ判定の結果, 94%(16/17)がサブタイプB, 6%(1/17)が組換え流行株CRF_01AEであった。データベース検索の結果, サブタイプBの大半は日本で主に流行しているサブタイプBの類似株であり, 1名は韓国で検出されたサブタイプBの類似株, 組換え流行株CRF_01AEはベトナムで検出された株の類似株であった。BEDアッセイの結果, 感染初期に受検した者の割合は25%(4/16)であった。梅毒検査受検者のうち陽性であった者の割合は70%(7/10)であった。

4.まとめ

福岡県はアジアの玄関口であり, 出入国者数は毎年約550万人, 外国人入国者数は毎年約260万人, 外国人留学生は毎年1万5千人前後と国内で3番目に多く受け入れており, 国際化に伴う海外からのHIVの侵入が懸念される3)。実際に, HIV検査陽性検体のHIV遺伝子からアジア由来の株が検出された。2014年以降の県全体の外国籍の報告者数は8名であり, 外国籍の住民への対策も必要と考えられた2,4)。また, 保健所設置市を除く福岡県域の検査で, 感染初期に受検した者の割合は25%であり, 早期発見へ向けたさらなる啓発が必要であると考えられた。さらに, 梅毒検査陽性者は4割(7/17)おり, 女性の感染者の動向5)も含めて注視していく必要がある。

本県は首都圏や近畿圏に比べ流行規模は小さいものの, 様々な取り組みにもかかわらず感染拡大が続いている1)。今後の対策として, 各年齢層および外国人等, 多様化した感染リスク層について把握し, 各感染リスク層に応じた予防・啓発および利用者が受けやすい検査・相談機会の提供が必要であると考えられた。

倫理面への配慮

本研究は国立感染症研究所および福岡県保健環境研究所の倫理審査委員会で審査承認された上で実施した。

 

参考文献
  1. 平成28年エイズ発生動向年報, 2017
  2. 福岡県記者発表資料, 福岡県におけるHIV感染者・エイズ患者の状況
  3. ふくおか経済統計ハンドブック2017年改訂版
  4. IASR 38: 180-181, 2017
  5. Sex Transm Dis 45(3): 139-143, 2018

 

福岡県保健環境研究所
 中村麻子 吉冨秀亮 小林孝行 芦塚由紀 梶原淳睦
国立感染症研究所エイズ研究センター 松岡佐織

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