国立感染症研究所

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第31回日本エイズ学会学術集会・総会をふりかえって

(IASR Vol. 39 p158-159: 2018年9月号)

2017年11月24日から3日間, 第31回日本エイズ学会学術集会・総会が開催された。中野駅を降りると, JRの改札口には横断幕がかかり, 続く商店街にも3カ所, そして中野区役所庁舎には幅7.2m, 縦12.6mの巨大なレッドリボンがエイズ学会の開催を歓迎していた(写真)。

第31回日本エイズ学会学術集会・総会は無事に, 3日間のスケジュールを終え, 盛会のうちに幕を閉じることができた。ここに, 主な実施概要を報告する。

日本エイズ学会学術集会は, 基礎系, 臨床系, 社会系の研究者, 臨床や活動の現場で携わる人たちが, 年に1度集い報告し合う学術集会だ。

私は社会系の大会長として理事会で選出された。こうした3分野の研究者などによる学術集会の開催は, この疾病と向き合うためには, 社会的な背景を踏まえることが重要であることを意味する。啓発などに取り組む現場の人たちも巻き込むことは, より有効な対策につながるためだ。

1994年アジアではじめて横浜で開催された国際エイズ会議, 2005年に神戸で開催されたICAAP(アジア・太平洋地域エイズ国際会議)などの国際会議が日本で開催された際に, この会議に参加した国内の研究者たちが, こうした会議のスタイルの重要性に気づき, 国内会議にもそれが引き継がれているのだ。

日本エイズ学会学術集会では, 30年にわたる歴史の中で, 3人の社会系の大会長を選出している。第20回:池上千寿子〔女性で非営利団体(NPO)代表〕, 第23回:市川誠一(疫学の研究者), 第26回:樽井正義(人権・倫理の研究者)であった。今回4人目は生島(NPOの代表でゲイ男性)であった。

会議のテーマは「未来へつなぐケアと予防Living Together」に据えた。部門長は臨床系:岡 真一(国立国際医療研究センター), 基礎系:俣野哲朗(国立感染症研究所), 社会系:生島 嗣(ぷれいす東京)で, 臨床分野(12人), 基礎分野(10人), 社会分野(9人)のプログラム委員たちがプログラムの編成にあたった。

会場は, JR中野駅周辺の2施設, 中野サンプラザ, コングレスクエア中野において, 7つの口演会場, 2つのポスター会場にて会員による演題発表がなされた。

シンポジウム:9(基礎:1, 臨床:3, 社会:4, 合同:1), ワークショップ:6(基礎:2, 臨床:1, 社会:3), 一般演題口演:220, 一般演題ポスター:80, 認定講習会:4(医師, 薬剤師, 看護師向け), 市民公開講座:1, その他, 共催によるシンポジウム, ランチョン・イブニングセミナーや, 関連団体による認定講習会も行われた。

参加登録者数は, 1,444名(会員/非会員1,365名, 学生79名)で, 市民公開講座の参加者は152名であった。

海外からの招聘者は6名(タイ・台湾・中国・ドイツ・スイス)。プレナリーレクチャー(全大会)では, 国連合同エイズ計画(UNAIDS)のLuiz Loures事務局次長が「グローバルな視点からみた日本のHIVに対する対応:AIDSのない未来へ向けての動き」と題して日本への期待を語り, チュラロンコン大学(タイ)のKiat Ruxrungtham教授が「ARTの適量化とPrEP: トライアルから本格実施へ」, 特別教育講演では, タイ赤十字エイズ研究センターのNittaya Phanuphak予防医学部長に「キーポピュレーションにおいてAIDSを終息させるための革新的戦略」と題して話していただいた。このおふたりからはタイ国内の曝露前予防内服(PrEP)も含めた具体的な予防施策について語っていただいた。また, デュースブルク・エッセン大学HIV研究所(ドイツ)のHendrik Streeck博士には, 「慢性HIV感染症患者のT細胞活性化機能における細胞内代謝遮断機構の役割」と題して話していただいた。

さらに, 国内からは松本俊彦氏(国立精神・神経医療研究センター)が「薬物依存症は孤立の病―安心して『やめられない』といえる社会を目指して」というタイトルで, 薬物使用者とその背景について概説を行い, 理解が深まった。

『アジアのMSMとHIV~国を超えた連携を模索する』というシンポジウムでは, 台湾のWen-Wei Ku氏が, 国内の検査キットの配布, PrEPの状況について報告, 中国からは, Bluedという世界最大のゲイ向け出会い系アプリ(会員3,000万人)のCEOであるGeng Le氏が中国政府, NPOと連携したHIV検査へのアクセス改善の取り組みについて紹介した。また, タイから参加したAPCOMのMidnight Poonkasetwattana氏は東南アジアの都市ごとに実施しているHIV検査キャンペーンについて報告した。

これらの5セッションにおいては, 同時通訳を入れ, 海外の知見を幅広い参加者と共有する機会を創出することができた。

本学会で新たな試みとして実施されたプログラムが二つある。その一つ, 次世代を担う医療者・支援者向けのユース・プログラムでは34人の次世代の若者が医師, 薬剤師, 看護師などの先輩医療者の話, そして男女のHIV陽性者の経験談に耳を傾けた。また, HIV陽性者による「ポジティブトーク」では6人の当事者が自身の経験を披露した。そのうちの一人は, 体調不良のため, そのメッセージを司会者である高久陽介氏(特定非営利活動法人 日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス)が朗読した。この2プログラムはいずれも好評で, 次回以降の学術集会にも引き継がれていく予定だと聞いている。

学会開催直前には日本記者クラブにて会見を行い, 日本ではあまり情報発信が行われていないPrEPについてなど, 新たな時代の予防やケアについて情報発信を行い, いくつかのメディアで紹介された。

また, 学会開催と同時期にTOKYO AIDS WEEKS 2017が多数のNPO, 本学会, 中野区との共催で中野区産業振興センターを中心に開催され, 全22プログラムに, のべ1,700人の市民が参加した。学会の会場にて, Gay Men’s Chorus 30人のメンバーによる合唱が行われ, 大変に盛況であった。

非公式プログラムであったが, LIVING TOGETHER 交流会が会場近くの居酒屋で開催され, 分野を越えて, 100人以上が参加した。

そして, プレナリーセッションの一つでは, 基礎, 臨床, 社会の3部門長トークも初めて試みた。「今後の科学の進歩と治療」, 「未来へのケアと予防について」, それぞれの立場から意見交換を行った。今後も, 立ち位置を超えて, 相互に連携をしていきたいと願う。

 

第31回日本エイズ学会学術集会・総会
 会長 生島 嗣
     特定非営利活動法人 ぷれいす東京代表

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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