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急性脳炎(脳症を含む)サーベイランスにおけるインフルエンザ脳症報告例のまとめ

(IASR Vol. 40 p103-104:2019年6月号)

はじめに 

インフルエンザに伴って発症する急性脳症の症状・所見は多様であり, 中には早期に死に至る重症例も存在する1,2)。またインフルエンザ脳症の報告は日本に多いが, その理由は分かっていない3)

日本では, 急性脳炎(脳症を含む)は感染症法に基づく感染症発生動向調査により, 2003年11月から全例を届け出ることが義務付けられている。このサーベイランスにおいてインフルエンザウイルスが原因病原体であると報告されたもの(以下, インフルエンザ脳症)のうち, 2014年第36週~2019年第15週(2019年4月18日時点)に診断された症例について以下にまとめた。なお本文中の各シーズンの期間は, X/YシーズンはX年第36週~Y年第35週まで, 2018/19シーズンのみ2018年第36週~2019年第15週までとした。 

インフルエンザ脳症報告例 

2014年第36週~2019年第15週の5シーズンに計845例の報告があった (図1)。シーズン別では2015/16シーズンは223例, 2018/19シーズン(2019年第15週まで)は220例と他3シーズンと比べて報告数が多かった。インフルエンザ脳症報告数の推移はインフルエンザ定点当たり報告数と類似しており, 例年11月末~12月にかけて増加し始め, 1月末~2月上旬にかけてピークとなることが多かった。 

型別ではA型が621例(73%)と多く, B型が138例(16%), 型不明が86例(10%)であった。B型は2015/ 16シーズンに65例(当該シーズンの29%), 2017/18シーズンに55例(同32%)が報告され, 他3シーズンと比べて多かった。なお, B型はシーズン中盤から後半にかけて報告されることが多く, 2018/19シーズンについては2019年第16週以降の報告および遅れ報告を確認する必要がある。また, インフルエンザ病原体サーベイランスに登録された亜型別報告数では, 各シーズンにおける主流の亜型は2014/15シーズンはA/H3, 2015/16シーズンはA/H1pdm09, 2016/17シーズンはA/H3, 2017/18シーズンはB/山型系統, 2018/19シーズンはA/H3(2019年5月13日時点)であった。 

年齢中央値は7歳, 四分位範囲は3~13歳で小児の報告例が多いが, 20歳以上の成人例も15~30%を占めた(図2)。またA型の年齢中央値は6歳, 四分位範囲は3~13歳であるのに対して, B型の年齢中央値は8歳, 四分位範囲は4~34歳とB型の方が年齢中央値が高く, より高年齢の報告が多かった。年齢群別に症状を比較すると, 頭痛・嘔吐は5歳以上の年齢群で多く, けいれんは0~4歳群で多かった。発熱は全年齢群で87~96%と高い割合で認められた。報告症例に占める届出時死亡例の割合は, 20歳未満の群では5%であったのに対して20歳以上の群では13%と成人例の方が高かった4))。 

制 約 

本サーベイランスではインフルエンザに関する検査の実施と結果の入力は必須ではなく, 病原体不明として届けられた症例の中にインフルエンザ脳症が含まれている可能性がある。また, 報告例の大半が迅速抗原検出キットにより診断されており, 亜型別情報が把握できないことが多い。届出後に死亡した症例の転帰を追加で報告する義務はないため, 前述の致命率は過小評価である可能性がある。 

謝辞:平素より感染症発生動向調査にご協力いただいている関係者の皆様に深謝いたします。

 

参考文献
  1. Mizuguchi M, et al., Acta Neurol Scand Suppl 186: 45-56, 2007
  2. 細谷聡史ら, IASR 40: 69-70, 2019
  3. Gu Y, et al., PLoS One 8: e54786, 2013
  4. Okuno H, et al., Clin Infect Dis 66: 1831-1837, 2018

 

国立感染症研究所感染症疫学センター 新橋玲子 多屋馨子

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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