国立感染症研究所

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SFTS発症動物について(ネコ, イヌを中心に)

(IASR Vol. 40 p118-119:2019年7月号)

2017年3月以前は重症熱性血小板減少症候群ウイルス(SFTSV)に感染した動物で発症するのはヒトだけだと考えられていた。しかし, 2017年4月にSFTS発症ネコ, 2017年6月にSFTS発症イヌ, 2017年7月にSFTS発症チーターがたてつづけにみつかった。日本医療研究開発機構(AMED)研究事業「愛玩動物由来人獣共通感染症に対する検査及び情報共有体制の構築」の調査により, これまでネコ120頭, イヌ7頭, チーター2頭でのSFTS発症が確認されている。致命率が高くネコで60-70%, イヌで29%, チーターで100%と, 獣医領域でも非常に問題になりつつある。さらに, 発症動物からの飼い主, 獣医療関係者への感染がみつかり公衆衛生学的にも問題となっている。

ネコにおけるSFTS

2017年4月に和歌山県にてSFTS発症ネコが発見され, 世界で初めてのSFTS発症動物の確認例となった。その後, 厚生労働省によるSFTS発症ネコに関する通知があり, ネコにおけるSFTSの存在が広く知られることとなった。現在までに, 120頭のSFTS発症ネコが確定している。

症 状

ヒトとほぼ同じ症状であると考えられる()。元気・食欲消失(100%), 黄疸(95%), 発熱(78%), 嘔吐(61%)に認められたが, 下痢は7%にのみ認めた。ネコでは黄疸が多いこと, 下痢が少ないことがヒトと異なる臨床症状と考えられている。血液学的検査ではCK/CPK上昇(100%), 血小板減少(98%), 総ビリルビン(T-Bil)上昇(95%), 肝酵素AST/GOT上昇(91%), 白血球減少(81%)などが多くの発症ネコで観察された(表)。致命率は約60%と非常に高い。以下の点に注意する必要がある。

1)原因は不明だがマダニ予防を定期的に実施していたネコでも発症例があった。

2)すべての年齢で発症がみられた。高齢ネコだけではない。

3)ネコ-ネコ感染が起こっている可能性がある。

4)ネコ-ヒト感染が咬傷あるいは濃厚接触により起こっている。特に, 獣医療関係者・飼い主はリスクが高い。発症ネコの唾液・糞便・尿中からウイルスが排泄されており, すべての体液に注意が必要である。

イヌにおけるSFTS

中国のSFTS流行地における動物の抗SFTSV抗体保有率を調べた報告1)によると, 反芻動物であるヒツジ(70%)やウシ(60%), 次いでニワトリ(47%), イヌ(38%)の順で抗体保有率が高かった。また5.3%のイヌの個体の血清からウイルス遺伝子が検出され, うち1頭からは1mL当たり107コピーの遺伝子が検出されている。我々も, 2013年に全国の動物病院に来院したイヌの抗体保有調査を実施した結果, 山口, 熊本, 宮崎の飼育イヌから抗SFTSV抗体を検出した。山口県の飼育イヌでは, 136頭中5頭(4%)から抗体, 2頭(1.5%)から遺伝子を検出した。過去も含めてすべてのイヌでSFTS様症状は認められなかったため, SFTSVは多くのイヌで不顕性感染すると考えられていた。しかし, 2017年6月に徳島県にて世界で初めてSFTS発症イヌが発見され, 状況が変わった。

症 状

ヒトとほぼ同じ症状であると考えられる。元気・食欲低下(100%), 発熱(100%), 白血球減少(100%), 血小板減少(100%), 肝酵素ALT/GPT上昇(100%), 消化器症状(75%), 黄疸(2頭中1頭), 総ビリルビン上昇(4頭中2頭)で観察された。致命率は29%である。SFTSV流行地の動物病院に来院したイヌとネコの抗体陽性率を比較すると, IgM抗体保有率がネコの約5%に対し, イヌでは0%であった。ネコではSFTS発症により来院し, イヌではSFTS発症による受診は少ないのかもしれない。以下, イヌにおけるSFTSV感染の注意事項である。

1)SFTS発症イヌから飼い主・獣医療関係者への濃厚接触により感染が発生している。

2)ネコと同じくマダニ予防をしていても発症した個体がいる。

おわりに

2017年4月にSFTS発症ネコがみつかって以降, 発症動物からヒトへの感染がみつかってきた。迅速な発症動物の診断と隔離などが求められている。高い致命率であることから予防・治療法の開発が待たれている。マダニ媒介感染症としてマダニが注目されがちだが, 動物によるSFTSVの感染拡大は公衆衛生上の問題である。SFTSVは様々な生物を巻き込んだ感染症であり, ヒトだけでなく, 動物, 節足動物の研究者が協力して総合的な対策を検討するべきである。

 

参考文献
  1. Niu G, et al., Emerg Infect Dis 19(5): 756-763, 2013

 

山口大学共同獣医学部
 前田 健(現国立感染症研究所)野口慧多 立本完吾 坂井祐介
 下田 宙 高野 愛
岡山理科大学獣医学部 森川 茂
鹿児島大学共同獣医学部 松鵜 彩
宮崎大学農学部 桐野有美 岡林環樹
長崎大学感染症共同研究拠点 早坂大輔
東京農工大学 水谷哲也
北海道大学獣医学部 松野啓太
なぎさ動物病院 沖見朝代
おおしま動物病院 大島寛彰

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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