国立感染症研究所

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日本におけるSFTS患者の疫学:2017年現在

(IASR Vol. 40 p113-114:2019年7月号)

背 景

重症熱性血小板減少症候群(Severe fever with thrombocytopenia syndrome: SFTS)は2013年3月4日より感染症法に基づく4類感染症として診断した医師に報告が義務づけられている。日本医療研究開発機構(AMED)研究班「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に対する診断・治療・予防法の開発及びヒトへの感染リスクの解明等に関する研究」(以下本研究班)において, 私たちは2013年4月~2014年9月までの49例についての疫学や臨床情報, 予後リスク因子等について報告した1)。本研究では同研究班で収集された情報に2014年9月~2017年10月までの患者情報を新たに加え, SFTS症例の疫学解析を行った。

方 法

2014年9月~2017年10月までに発症し感染症発生動向調査(NESID)に届出されたSFTS患者の報告医師に対して, 研究参加への同意書, 質問紙等を送付し, 患者の基本属性, 社会歴, 発症2週間前までの屋外活動歴, また初診時や入院時の症状, 検査結果等の回答を依頼した。また, 基本属性の一部についてはNESIDに報告されている情報を利用した。傾向分析にはスピアマンの順位相関分析, ヨンクヒール=タプストラ検定を, 生存と死亡患者間の比較には, ピアソンのカイ二乗検定, ウィルコクソンの順位和検定, ロジスティック回帰分析を利用した。

結 果

2013年4月~2017年10月までにNESIDに届出されたSFTS患者は303例であった。本研究において計133例の患者情報が収集された。

NESIDに届出された303例について, 年間の届出数はそれぞれ2013年40例, 2014年61例, 2015年60例, 2016年59例, 2017年83例だった。患者は西日本を中心とした23府県から届出されており, 4~10月の発症が比較的多かった。また, 発症から初診まで期間は中央値3日(四分位範囲:2-5日)であり, 各年での有意な違いはみられなかった。一方で初診から診断までの期間は各年について中央値[四分位範囲]は2013年11.5日[7.25-15.75日], 2014年11日[8-23日], 2015年8日[5-12日], 2016年4日[2-7日], 2017年3日[1- 5日]と経年的に有意に減少していた。

303例のうち本研究班の質問票に回答があった133例(43.9%)については, 年齢中央値は73歳(四分位範囲:65-82歳)であった。患者数に男女差はなく, 併存疾患として, 高血圧47例(35%), 糖尿病27例(20%), 脂質代謝異常症15例(11%), 悪性腫瘍9例(7%), 併存疾患なしが36例(27%)であった。うち悪性腫瘍の併存は有意に死亡患者に多かった。

109例(82%)が発症2週間以内に屋外活動をしており, 70例(53%)が農作業をしていた。55例(41%)で実際にダニ咬傷痕が確認された。

初診時の臨床症状として, 発熱109例(82%), 消化器症状113例(85%), 倦怠感87例(65%), 神経学的症状80例(60%)を主に認めた。神経学的症状のうち振戦の出現は有意に死亡患者に多かった。

また, 初診時の検査値(中央値)の正常範囲の逸脱は, 白血球減少, 血小板減少, 肝逸脱酵素(AST, ALT, LDH)上昇, APTT延長に認められた。肝逸脱酵素(AST, ALT, LDH)上昇, APTT延長は死亡患者に有意に認められた。

研究期間中の全症例における死亡は, 36例(致命率27%)であり, 各年で致命率の有意な変化は認めなかった。

上記で生存患者と死亡患者で有意差を認めた項目のうち, 正常範囲を大きく逸脱している項目, また, 過去の報告から予後因子として報告されている項目について多変量解析を実施したところ, 血小板の減少, 悪性腫瘍の合併および初診時の振戦の出現が有意に死亡患者に多く認められた。

考 察

本研究によって示された, SFTS患者の致命率は, 当初Kato H, et al.,により報告された31%と変わらず, 27%と高く, また有意な経年的な変化は認められなかった。一方でNESIDによる報告では, 致命率が2013年35%, 2014年26%, 2015年18%, 2016年14%, 2017年13%と減少しているが, これは届出時点での転帰を示しているに過ぎない。急激な転帰をとることの多い本疾患ではあるが, 初診から診断までの期間が経年的に短くなっている傾向から, 近年では転帰が判明する以前にNESIDに報告されている可能性がある。また, 2016年4月よりSFTSの治療薬として臨床治験が進められている抗ウイルス薬ファビピラビルについては, SFTSウイルス感染マウス実験において, 早期投与が生存率の向上に寄与することが示されており, 診断のタイミングが早くなっている傾向は今後の治療方法の確立において, 非常に重要であると考えられる2,3)

予後リスク因子としては, 単変量解析で示された年齢や肝酵素上昇, APTT延長がKato H, et al.,や他の研究等過去の報告で示されている点は同様であった4-7)。多変量解析で示された血小板減少についても過去に報告されている。悪性腫瘍の併存と初診時の振戦出現については本研究で新たに示された結果であるが, その意義については今後の研究が待たれる。

SFTSの国内症例が確認されて6年以上が経過し, 様々な疫学情報や臨床情報が蓄積されてきた。しかし, 致命率の高い疾患であることに変わりはなく, 早期の治療方法の確立が待たれるところである。

謝辞:本研究にあたり, ご協力いただきました医療機関, 全国の保健所, 地方衛生研究所, 研究班等の関係者の皆様には深謝申し上げます。

 

参考文献
  1. Kato H, et al., PLoS One, 2016
  2. Tani H, et al., mSphere 1(1), 2016
  3. 安川正貴, 日本化学療法学会雑誌 65(4): 558-563, 2017
  4. Liu W, et al., Clin Infect 57(9): 1292-1299, 2013
  5. Chen Y, et al., Oncotarget 8(51): 89119-89129, 2017
  6. Sun J, et al., Sci Rep 6: 33175, 2016
  7. Li H, et al., Lancet Infect 18(10): 1127-1137, 2018

 

埼玉県狭山保健所(兼 保健医療部保健医療政策課) 
 小林祐介
国立感染症研究所感染症疫学センター
 島田智恵 山岸拓也 松井珠乃
同ウイルス第一部
 下島昌幸 西條政幸
富山県衛生研究所 
 大石和徳

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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