国立感染症研究所

IASR-logo
 

中国・韓国・ベトナムにおけるSFTS流行状況:更新情報

(IASR Vol. 40 p115:2019年7月号)

中国におけるSFTS

中国のCDC(疾病対策予防センター)により, 2011~2016年の重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の報告数や季節性, 発生地域等について傾向の解析が行われた1)。報告数は年々増加し, 2016年は1,300人以上であった。99%以上が河南省, 山東省, 湖北省, 安徽省, 浙江省, 遼寧省, 江蘇省の7省からの報告であった。患者の98%が4~10月に発生するが南部の省ほど早く, そして長く発生する傾向がみられた。患者の年齢は中央値61~63歳と大きくは変動していない。88%が農業従事者であることにも変動は認められていない。高齢であるほど致命率が高いが, 年ごとに致命率は減少している。発症から診断までの日数は年ごとに長くなっており, 農村部の病院におけるSFTSの実験室診断能力の向上が必要であると指摘している。

SFTSの最初の発見は2008~2009年に発生した原因不明の熱性疾患の調査の結果であったが2,3), 後方視的調査で2006年には発生していたとされていた4)。近年, 別の調査報告があり, そのさらに10年前に既に発生していたことが示唆されている5)。これは, 江蘇省のある家族および関わった医師らが1996年に原因不明の発熱や血小板減少を示し, その際に採材され保存されていたサンプルについてSFTSの発見後に血清学的検査を実施したというものである。6人がSFTSウイルスに対する抗体検査で陽性(ELISA法でIgM陽性, うち1名は間接蛍光抗体法(IFA)でIgGも陽性)を示した。このうち4人については発症から14年後の2010年に採血が行われ, 80~640倍のIgG陽性反応が認められている。いずれのサンプルからもSFTSウイルスの遺伝子は検出されていない。

韓国におけるSFTS

韓国におけるSFTSの季節性や発生地域, 患者年齢, 主症状や検査結果等の傾向の詳細な解析や報告は行われていない。韓国では2012年の死亡者がSFTSであったことが後方視的調査から2013年に初めて報告され6), それ以降の年間報告患者数は36人(2013年), 55人(2014年), 79人(2015年), 165人(2016年), 272人(2017年), 259人(2018年)と増加傾向を示し7), 近年の韓国の年間報告患者数は日本のそれよりも多い。さらなる複数の後方視的調査から, 2008年に2人, 2010年に2人, 2012年に2人のSFTS患者が発生していたことが分かり8,9), 2008年の患者が現在把握されている韓国のSFTS患者の最も早い事例である。

ベトナムにおけるSFTS

これまでSFTSの報告は中国・韓国・日本の3カ国のみであったが, 後方視的調査でベトナムにおけるSFTSの国内発生があったことが報告された10)。Hue大学病院で2017年10月~2018年3月の間に熱性疾患で入院した80人について, 血清からSFTSウイルスの遺伝子を検出したところ, 中国・韓国・日本への渡航歴のない2人が陽性であった。遺伝子配列では日本型のJ3に該当する11)。うち1人はIgM抗体も陽性であった。2人は29歳の女性と27歳の男性で, 血小板減少や白血球減少, 発熱, 頭痛, 血中肝酵素値上昇等のSFTS患者で頻繁に認められる症状や検査結果のいくつかを示していた。いずれも回復している。ベトナムにはSFTSウイルスを媒介しうるマダニAmblyomma testudinariumが生息しているが, 渡り鳥によりウイルスが流行地から運ばれた可能性が指摘されている12)

 

参考文献
  1. Sun J, et al., Sci Rep 7: 9236, 2017
  2. Yu XJ, et al., N Engl J Med 364: 1523-1532, 2011
  3. Xu B, et al., PLoS Pathog 7: e1002369, 2011
  4. Liu Y, et al., Vector Borne Zoonotic(2): 156-160, 2012
  5. Hu J, et al., PLoS Negl Trop: e0006603, 2018
  6. Kim KH, et al., Emerg Infect: 1892-1894, 2013
  7. 韓国CDC
    http://www.cdc.go.kr/cdc_eng/
  8. Kim KH, et al., J Korean Med Sci 33: e319, 2018
  9. Kim YR, et al., Emerg Infect: 2103-2105, 2018
  10. Tran XC, et al., Emerg Infect: 1029-1031, 2019
  11. Yoshikawa T, et al., J Infect: 889-898, 2015
  12. Yun Y, et al., Am J Trop Med Hyg 93: 468-474, 2015

 

国立感染症研究所ウイルス第一部
 下島昌幸

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version