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動物におけるSFTSV感染の疫学調査

(IASR Vol. 40 p116-117:2019年7月号)

SFTSウイルスの感染環(図1

重症熱性血小板減少症候群ウイルス(SFTSV)はマダニにおけるすべてのステージを経ること(経ステージ), ならびに経卵性伝播することが知られている(マダニサイクル)。これらウイルス保有マダニにヒトを含む各種の哺乳動物が咬まれる際にヒトや動物がウイルスに感染する。ウイルスに感染した動物の一部はウイルス血症になり, ウイルス血症になっている動物を咬んだマダニはウイルスを獲得する(動物サイクル)。マダニサイクルでは一匹のウイルス保有雌マダニの産卵により数多くのウイルス保有幼ダニが生まれ, 動物サイクルでは1頭のウイルス血症を示した動物から多数のウイルス保有マダニが生じる。条件さえ整えば, 地域でSFTS保有マダニが確実に増えると考えられる。

ネコにおけるSFTS発生状況

ネコにおけるSFTS発生地はこれまで, 西日本に限られている。長崎県(32件), 鹿児島県(20件), 宮崎県(15件), 佐賀県(10件)で多くの発生が報告されている(図2)。発生地はSFTS患者発生地とほぼ重なるが, 愛媛県や高知県などのSFTS患者の多い地域で, いまだにネコでの発症に関する情報は報告されていない。獣医療関係者へのさらなる注意喚起が必要かもしれない。

SFTS発症ネコの確認から, まだ2年しかたっておらず情報は少ないが, 季節的には3月頃から発生数が増え始め, 4月をピークとして11月までが発生の多い時期と考えられる。2019年は2月に10件の発生に関する情報があり, ヒトでの発生が少ない冬でも注意が必要である。

野良ネコにおける抗SFTSV抗体保有状況の調査によると, 九州広域で451頭中3頭(0.7%)が抗SFTSV IgG抗体を保有していた。これらは過去の感染を意味しているが, 陽性率は非常に低く, 野良ネコでの抗SFTSV抗体保有率は低いと考えられる。一方で, SFTSV感染が多くの野良ネコを死亡させた結果による可能性もある。

イヌにおけるSFTS発生状況

これまでイヌにおけるSFTS発生の報告は7頭あるが西日本のみである(図2)。1頭は猟犬であった。7頭の発生のみの確認であるため, イヌに関する詳細な発生状況は不明であるが, ネコと同様であると考えて良いと思われる。

その他の動物におけるSFTSV感染

マダニに咬まれるすべての哺乳動物が感染しうると考えられる。しかし, 発症動物については, ヒト, イヌ, ネコ, チーター以外はみつかっていない。感染動物について和歌山県では, 捕獲されるほぼすべての野生動物が感染していた。また中国や韓国では, ウシ, ブタ, ヒツジ, ヤギ, ウマなどの多くの生産動物(産業動物)も感染していた1)。しかし, 同じ地域でも動物間で抗体保有率に大きな違いがある。反芻獣であるウシやヒツジと比較して, 特に豚の陽性率が低いことが中国で報告され, 国内における調査でも, 同一地域の野生のシカでの陽性率(47%)が高かったことに比べて, イノシシの陽性率(21%)と低かった。鳥類に関しては今後の解明が待たれる。

分布域

ヒトやイヌ・ネコでのSFTSの発生は, これまでのところ西日本に限られている。日本全国のイノシシとシカを調査すると, 中部地方や関東地方のシカで10%以上の抗SFTSV抗体保有率となっている地域が存在した。しかし, 東日本や北日本では抗SFTSV抗体保有率は低い。さらに, 北海道のエゾシカではSFTSVに対する抗体を保有している個体はみつかっていない2)。東北地方や北海道地方にはSFTSVは, ほとんど侵入していない可能性が考えられる。最近では, 関東地方でもシカの陽性率が上昇している地域がみつかっている。

現在SFTSが流行している西日本において, アライグマでの抗体陽性率は2007年の0%から2013年以降急激に上昇し, 2015年以降はプラトーに達している(図3)。この地域では2012~2015年にかけて急速にSFTSVが拡大したことを示唆する。2013年に初めて患者が報告され, 2017年にはネコで世界初の発症も観察された。条件さえ整えば, SFTSVが蔓延することを示しているとともに, SFTSVが徐々に西から東に分布域を拡大していることを意味している。さらに, 東日本のアライグマの2.3%の血清からSFTSVが検出されている。

おわりに

野生動物でのSFTS発症はみつかっていない。本当に野生動物は発症していないのか, 今後の解明が待たれる。また, 発症せずにウイルスに感染した動物は, その行動範囲の広さからウイルス保有マダニの拡散に結び付くことが考えられる。感染動物の排泄物からはウイルス遺伝子が検出されていることから野生動物によるSFTSVの拡大には今後も注意が必要である。さらに, 野生動物でのSFTSVの感染状況は, 曝露を受けるヒトへのリスクと関連している。野生動物での抗体保有率は季節による大きな影響を受けるため, 一年を通じての検体採取を実施するなど, 野生動物での調査を通してヒトを含めた地域のリスクを知ることが重要である。

 

参考文献
  1. Niu G, et al., Emerg Infect Dis 19(5): 756-763, 2013
  2. Uchida L, et al., J Vet Med Sci 80(6): 985-988, 2018

 

山口大学共同獣医学部
 前田 健(現国立感染症研究所)野口慧多 立本完吾
 坂井祐介 下田 宙 高野 愛
岡山理科大学獣医学部 森川 茂
鹿児島大学共同獣医学部 松鵜 彩
宮崎大学農学部 桐野有美 岡林環樹
長崎大学感染症共同研究拠点 早坂大輔
東京農工大学 水谷哲也
北海道大学獣医学部 松野啓太
シラナガ動物病院 白永伸行
田辺市ふるさと自然公園センター 鈴木和男

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