(2023年9月13日改訂)

  1. エルシニア属細菌の一種,ペスト菌(Yersinia pestis)感染に起因する全身性の侵襲性感染症.
  2. 動物由来感染症.げっ歯類を保菌宿主とし,節足動物(主にネズミノミ属のノミ)によって伝播される.ペスト菌感染動物を感染源とする直接感染もある.
  3. 肺ペスト患者から排出された気道分泌液により,ヒトーヒト間で飛沫感染する場合がある.
  4. 潜伏期間は通常1〜7日.感染ルートや臨床像によって腺ペスト,肺ペスト,および敗血症型ペストに分けられる.
  5. 治療薬として,フルオロキノロン系,アミノグリコシド系もしくはテトラサイクリン系の抗菌薬が使用され,その投薬期間は10〜14日間である.
  6. 適切な抗菌薬による治療が行われなかった場合,腺ペストでの死亡率は30〜60%である.肺ペストの場合はさらに死亡率は高まる.
  7. 抗生物質の発見前には全世界的な大流行が幾度か記録されており,特にヨーロッパでは黒死病として古くから恐れられてきた.近年の流行は,アフリカ,南米で報告がある.北米やアジアでも散発事例が報告されている.

2023年6月30日現在
国立感染症研究所
(2023年6月30日 更新)

マールブルグ病はマールブルグウイルスを原因とするウイルス性出血熱のひとつであり、別名ミドリザル出血熱(Vervet monkey hemorrhagic fever)とも呼ばれる。1967年、西ドイツ(現ドイツ)のマールブルグとフランクフルトおよびユーゴスラビア(現セルビア)のベオグラードで、ポリオワクチン製造用および実験用としてウガンダから輸入されたアフリカミドリザルの解剖にかかわった研究職員、清掃員および患者に接触した医療従事者や家族など合わせて32名が熱性疾患を発症し、7名が死亡した。この疾患は、最初に症例が確認された地名からマールブルグ病(Marburg disease)と称されるようになった。その後、アフリカのケニア、南ローデシア(現ジンバブエ)、コンゴ民主共和国、アンゴラ、ウガンダ、ギニアなどの国で症例が確認されている。自然界での宿主はオオコウモリと考えられており、洞窟などでオオコウモリの糞などに曝露した場合に感染すると推測される。

掲載日:2023年6月23日

English

オズウイルス(Oz virus, OZV)は、オルソミクソウイルス科 (Family Orthomyxoviridae) トゴトウイルス属 (Genus Thogotovirus) に分類されるRNAウイルスである。2018年に本邦でタカサゴキララマダニ (Amblyomma testudinarium)より分離同定され、オズウイルスと命名された。これまで国内のヒトにおける血清を用いた抗体検査の結果により、ヒトにおける感染の可能性が示唆されていたものの、世界的にヒトでの発症や死亡事例は確認されていなかった。2023年6月、ヒト感染症例(致死症例)が本邦から世界で初めて報告された(IASR速報)。

(2022年11月30日改訂)

梅毒は梅毒トレポネ−マ(学名:Treponema pallidum)による細菌性の性感染症で、世界中に広くみられる。梅毒は ”The Great Imitator (模倣の名人)” と呼ばれるように、全身に多彩な臨床症状をきたす可能性があり、適切な抗菌薬治療を受けなければ、深刻な健康上の影響が起こりうる。また、母子感染により、流産、死産、先天梅毒などを起こしうる。梅毒は、症例数が多いこと、治療に有効な抗菌薬があること、適切な抗菌薬治療により母子感染を防ぎうることなどから、公衆衛生上重点的に対策をすべき疾患として位置付けられている。

令和5年5月26日改訂
国立感染症研究所

エムポックスは、モンキーポックスウイルス(別名 エムポックスウイルス、以後エムポックスウイルスと表記)感染による急性発疹性疾患である。感染症法では4類感染症に位置付けられている。主にアフリカ中央部から西部にかけて発生しており、自然宿主はアフリカに生息するげっ歯類が疑われているが、現時点では不明である。稀に流行地外でも、流行地からの渡航者等に発生した事例がある。症状は発熱と発疹を主体とし、多くは2−4週間で自然に回復するが、小児等で重症化、死亡した症例の報告もある。

(2021年12月9日改訂)

波状熱やマルタ熱として知られるブルセラ症(Brucellosis)は、ブルセラ属菌(Brucella spp.)による人獣共通感染症である。世界的に注目されたのは、19世紀中頃のクリミア戦争でマルタ熱が流行したことによるが、紀元前400年頃のヒポクラテス著「Of the Epidemics」にブルセラ症と思われる疾患がすでに記載されており、ヤギなどの家畜化に伴い古くから流行していたと考えられる。現在でも、特に食料や社会・経済面で家畜への依存度が強く、家畜ブルセラ病が発生している国や地域を中心に、多くの患者が発生している。

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