国立感染症研究所

(2014年05月13日改訂)

海産魚介類の生食を原因とする寄生虫症の中でも,我が国で最も多発するものがアニサキス症である.日本人の食習慣からみて,アニサキス症は我が国でかなり古くからあった病気と考えられるが,原因となる虫種が確定されたのは1960年代である.当初は診断の方法がなく,激しい腹部症状から開腹して患部が切除され,病理学的に初めてアニサキス症であると証明された事例がほとんどであった.しかし1970年代以降には内視鏡検査の普及とともに,生検用鉗子での虫体摘出が可能となり,予想外に多数の本症例が発生していることが明らかにされた.このような診断技術の高度化に平行するように,生鮮食料品の輸送体系が近代化されてきたことが,現在に至るアニサキス症発生の増加と広域化の前提となっている.

(2020年01月10日掲載)

ヒトに感染するコロナウイルス

ヒトに蔓延している風邪のウイルス4種類と、動物から感染する重症肺炎ウイルス2種類が知られている。これらについては、それぞれの症状や感染経路などの特徴を表1に示した。

(2014年04月01日 改訂)

咽頭結膜熱(pharyngoconjunctival fever, PCF)は発熱、咽頭炎、眼症状を主とする小児の急性ウイルス性感染症であり、数種の型のアデノウイルスによる。夏期(小規模だが冬期)に地域で流行することもあり、小規模アウトブレイクとしても、散発的にも発生する。

疫学

本疾患の原因であるアデノウイルスは、特に季節特異性が少なく年間を通じて分離される。しかし、疾患としての咽頭結膜熱は通常夏期に地域全体で流行し、6月頃から徐々に増加しはじめ、7~8月にピークを形成する。本邦の感染症発生動向調査からみると、過去は夏期に流行の山がみられ、数年おきに流行規模が大小していたが、2003年から冬季にも流行のピークが明確にみられるようになった1)。季節を問わず、発生するが、病院や保育園や学校などでも報告されている。季節性流行の場合は、学童年齢の罹患が主であるとされているが、感染症発生動向調査での罹患年齢からは、5歳以下が約6 割を占めている。

感染経路は、通常飛沫感染、あるいは手指を介した接触感染であり、結膜あるいは上気道からの感染である。プールを介した場合には、汚染した水から結膜への直接侵入と考えられている。

病原体

アデノウイルスは正20面体構造をとる2本鎖DNA ウイルスであり、エンベロープを有しない。51種類の血清型が知られていたが、近年に52型以降が全塩基配列の決定による遺伝子型(genotype)として報告されるようになり現在67以上の型が報告されている2)。咽頭炎、扁桃炎、肺炎などの呼吸器疾患、咽頭結膜熱、流行性角結膜炎などの眼疾患、胃腸炎などの消化器疾患、出血性膀胱炎などの泌尿器疾患から、肝炎、膵炎から脳炎にいたるまで、多彩な臨床症状を引き起こす。

咽頭結膜熱の流行をおこすのは多くは3型であるが、4型、7型、また2型、11型など他の型による場合もみられる。逆に、これらの血清型のアデノウイルスが感染しても、必ずしも咽頭結膜熱の症状を来すとも限らない。乳幼児の急性気道感染症の10%前後がアデノウイルス感染症と言われ、アデノウイルスは小児で重要な病原体である3)

臨床症状

発熱で発症し、頭痛、食欲不振、全身倦怠感とともに、咽頭炎による咽頭痛、結膜炎にともなう結膜充血、眼痛、羞明、流涙、眼脂を訴え、3~5日間程度持続する。眼症状は一般的に片方から始まり、その後他方にも出現する。また、結膜の炎症は下眼瞼結膜に強く、上眼瞼結膜には弱いとされる。眼に永続的な障害を残すことは通常はない。また、頚部特に後頚部のリンパ節の腫脹と圧痛を認めることがある。潜伏期は5~7日とされている。ただし、生後14日以内の新生児に感染した場合は全身性感染を起こしやすいことが報告され、重症化する場合があることが報告されている4)

アデノウイルスの血清型のうち、7型は心肺機能低下、免疫機能低下等の基礎疾患のある人、乳幼児、老人では重篤な症状となり、呼吸障害が進行し、さらに細菌の二次感染も併発しやすいことがある。検査所見として特徴的なことは、血清LDH の異常高値、血球減少傾向、ならびに高サイトカイン血症である5)。アデノウイルスの特異的な治療法はなく、対症療法が中心となる。特異的な薬剤の開発も進められているが、抗アデノウイルス薬として入手可能な薬剤は今のところない。

病原診断

確定診断には、患者の鼻汁、唾液、喀痰、糞便、拭い液や洗浄液、胸水、髄液などを検査材料としてウイルス分離を行うか、あるいはウイルス抗原を検出する。イムノクロマトキットや酵素抗体(ELISA)法での抗原検出キットが市販され、早期診断に使用されているが、血清型別の判定はできない。しかしながら、PCR 法等による型別(molecular typing)が実施されるようになり迅速診断に有用で、簡便かつ迅速な型別判定に用いられている。

血清学的診断では急性期と回復期のペア血清を用い、赤血球凝集阻止反応(HI)、補体結合反応(CF)、中和反応(NT)などが行われる。CFは感度の点でやや劣り、しかも血清型の特定はできない。NT およびHI などは型特異的な測定法であるとされるが、実際には交叉反応があり、型の特定が困難なこともある。そのことと、近年の遺伝子型に対応するため、PCR-シークエンシングによる型別が多く用いられるようになりつつある。

治療・予防

 特異的治療法はなく、対症療法が中心となる。眼症状が強い場合には、眼科的治療が必要になることもある。

予防としては、感染者との密接な接触を避けること、流行時にうがいや手指の消毒を励行することなどである。消毒法に関しては、手指に対しては流水と石鹸による手洗い、および90%エタノ-ル、器具に対しては煮沸、次亜塩素酸ソーダを用いる。消毒用エタノールの消毒効果は弱いことが知られている。逆性石鹸、イソプロパノールには抵抗性なので注意を要する。7型による感染症では、心肺機能に基礎疾患を有する小児で重症化の危険性が高く、特に院内感染対策上重要である。

プールを介しての流行に対してはプールの塩素濃度を適正(遊離残留塩素濃度が0.4mg/l以上、1.0mg/l以下)に維持することが対策となる。

感染症法における取り扱い

咽頭結膜熱は5類感染症定点把握疾患に定められており、全国約3,000カ所の小児科定点医療機関から毎週報告がなされている。報告のための基準は以下の通りとなっている。
 ○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の2 つの基準すべてを満たすもの

  1. 発熱・咽頭発赤
  2. 結膜充血

○上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの

学校保健法における取り扱い

学校安全法では、第二種伝染病に位置づけられており、主要症状が消退した後2日を経過するまで出席停止とされている。ただし、病状により伝染の恐れがないと認められたときはこの限りではない。

 

【文献】

  1. アデノウイルス感染症 2000~2007. 病原微生物月報.Vol.29 No.4, 2008
  2. Matsushima Y, Shimizu H et al. Genome sequence of a novel virus of the species human adenovirus d ssociated with acute gastroenteritis. Genome Announc. 2013 Jan;1(1). pii: e00068-12.
  3. White, D.O, et al. and Fenner, F.J. 1994.Picornaviridae, p.381-406 In Medical Virology, 4th ed, Academic Press, San Diego.
  4. Ronchi A et al. Neonatal adenoviral infection: a seventeen year experience and review of the literature. J Pediatr 2014; 164(3):529-535.
  5. アデノウイルス7型肺炎の全国調査結果. 病原微生物月報.Vol.19 No.7, 1998

 

(国立感染症研究所感染症疫学センター)

(2014年04月01日 改訂)

流行性角結膜炎(EKC:epidemic keratoconjunctivitis)は、主にD種およびE種のアデノウイルスによる疾患で、主として手を介した接触により感染する。以前は、本疾患患者を扱った眼科医や医療従事者などからの感染が多く見られたが、現在では、職場、病院、家庭内などの人が濃密に接触する場所などでの流行的発生もみられる。アデノウイルスは種々の物理学的条件に抵抗性が強いため、その感染力は強い。19 世紀後半、ドイツの労働者の間で流行したことが記載されている。その後米国で、"shipyard eye"と呼ばれる眼疾患が流行した。造船所の労働者が眼の外傷の治療のさい、医原病的に広がったものと考えられる。2007年ころまでは我が国では全国的にEKC がみられるが、年度によりD種の8、19、37型のいずれかの流行となっていると考えられていた。しかし、2007年頃からそれまでの血清型ではなく、アデノウイルスの完全長塩基配列の解読によるgenotypeが新型として報告され67型以上の新型が報告されている。それらのうち53、54および56型(遺伝子型)も日本国内でEKCの流行を引き起こしていることが明らかになっている。

(2013年06月19日改訂)

1989年にC型肝炎ウイルスの遺伝子断片が捉えられてから24年が経ち、治療法は大いに進歩してきた。遺伝子型1bで高ウイルス量症例に対しては従来のインターフェロン (IFN)とリバビリン(RVB)併用療法ではSustained virological response (SVR)が40-50%程度であったが、プロテアーゼ阻害剤の併用によりどこまで改善するか期待されている。さらに、近い将来導入されるNS5A阻害剤、ポリメラーゼ阻害剤により、IFNのない経口薬での治療で、HCVの撲滅も間近に迫っているといっても過言ではない。しかし、我が国にはいまだに約150万人、全世界には約1.7億人もの感染者が存在すると推定されており、HCVは感染後、持続感染により慢性肝炎をひき起こしやすく、さらに肝硬変、肝細胞癌へと進行することがあるので、公衆衛生上最も重要な病原ウイルスのひとつである。

(2013年06月19日改訂)

B型肝炎の原因ウイルスであるB型肝炎ウイルス(HBV)は、1964年Blumbergらによるオーストラリア抗原として発見された。発見当初は免疫血清学的手法を用いて研究されてきたが、1970年にHBVの本態であるDane粒子が同定され、さらに1979年ウイルス粒子から、そこに含まれるウイルスゲノムがクローニングされ、HBVおよびB型肝炎に関する知見は飛躍的に進展した。B型肝炎に対しては1985年に母子感染予防対策が確立し、2000年には核酸アナログ製剤が治療法として導入され、現在ではインターフェロン(IFN)製剤と核酸アナログ製剤を用いることで、B型肝炎はウイルス増殖を抑え、肝疾患の進展を防ぐことが可能になってきている。しかし、我が国でも欧米に多い遺伝子型Ae株の症例が増加しており、免疫・化学療法によってB型肝炎が再活性化する問題も明らかになっている。

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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