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髄膜炎菌同定検査2件における検査結果の比較-秋田県

(IASR Vol. 33 p. 338: 2012年12月号)

 

髄膜炎菌(Neisseria meningitidis )は、0.6~0.8μmのグラム陰性の双球菌で、くしゃみなどによる飛沫感染により伝播し、気道を介して血中に入り菌血症(敗血症)を起こし、さらに髄液にまで侵入することにより髄膜炎を起こすことが知られている。今回、2012(平成24)年2月(検体名:2/21-No.65)と7月(検体名:7/26-No.40)の泌尿器科領域の検体から髄膜炎菌を疑う菌株が分離され、その同定をcapsular transport gene(ctrA )とCu-Zn superoxide dismutase gene(sodC )を対象にしたTaqMan Real-time PCRおよび16S rRNA遺伝子の相同性解析により行った。

にそれぞれの検査結果をまとめた。2/21-No.65はctrA およびsodC を対象にしたReal-time PCRにおいて両方とも陽性判定であり、16S rRNA遺伝子の相同性解析においても、N. meningitidis  strain M8860(accession No. AY132109)と99.9%の高い相同性を示したことから髄膜炎菌と同定した。一方、7/26-No.40はReal-time PCRのうちctrA が陰性判定であったが、sodC については陽性判定であり、16S rRNA遺伝子の相同性解析でも、N. meningitidis  strain M7892(accession No. AF382303)と100%一致したことから髄膜炎菌と同定した。

今回、2件の髄膜炎菌同定検査のうちの1件において、ctrA を対象にしたReal-time PCRによる偽陰性と考えられる事例を経験した。ctrA は、PCRによる髄膜炎菌の検出に最もよく利用される遺伝子であるが、遺伝子の多型性による偽陰性の報告が数例あるほか(Cavrini F, et al ., JCM 48: 3016-3018, 2010; Jaton J, et al ., JCM 48: 4590-4591, 2010)、ctrA を含む莢膜遺伝子群は再構成されやすく、ctrA を欠く場合がある。一方、sodC はナイセリア属菌の中では髄膜炎菌に特異的に存在し、ctrA よりも高い検出能を有することが報告されている(Dolan Thomas J, et al ., PLoS ONE 6: e19361, 2011)。

髄膜炎菌と似た菌に淋菌(N. gonorrhoeae )があるが、従来、両菌種による感染様式には著しい違いがあり、淋菌は尿路・性器感染症、髄膜炎菌は上気道感染の後に髄膜炎を起こすと考えられてきた。わが国における髄膜炎菌の保菌率は0.4%程度であり、欧米の5~20%に比べると極めて低く、髄膜炎菌による感染症の発生は比較的少ないといわれている。しかしながら、性行為の多様化により、オーラルセックス等が原因と考えられる淋菌性咽頭炎や、髄膜炎菌による尿道炎の事例が散見されるようになってきており、今後、そういった症例の増加が懸念される(八木橋ら, 泌尿紀要 53: 717-719, 2007)。髄膜炎菌による尿路・性器感染症は臨床症状では判別できない。また、髄膜炎菌および淋菌はどちらも形状が似ており、臨床の現場で汎用されるグラム染色だけでは鑑別は困難である。Real-time PCRは感度および特異性が高く、臨床検体からの直接検出も見込めることから、髄膜炎菌検出の有用な手法として期待される。しかしながら、ctrA のように菌株によって配列に違いの多い遺伝子を対象にした場合、陰性と誤判定してしまう可能性があり注意が必要である。今回、我々はReal-time PCRに加え、16S rRNAの相同性解析を平行して行っていたことにより誤判定をせずに済んだ。また、sodC を対象にしたReal-time PCRはctrA で同定できなかった菌株にも有効であったことから、sodC ctrA に代わる髄膜炎菌検出の対象遺伝子として有用であると考えられる。

 

秋田県健康環境センター保健衛生部
今野貴之 八柳 潤 高橋志保 熊谷優子 和田恵理子 千葉真知子 齊藤志保子
秋田県総合保健事業団児桜検査センター
齋藤 敦 佐々木志緒 深井聡子 三浦美奈子

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