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男性同性愛者間で感染した侵襲性髄膜炎菌感染症事例、2012年10月~2013年5月―ドイツ

(IASR Vol. 34 p. 240: 2013年8月号)

 

侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)は稀だが重篤な疾患で、小児を中心に罹患を起こすが、年齢が上がるとともに重症化傾向がある。2013年7月2日までにドイツで報告された 208例(例年と大きな違いはない)中、ベルリンで報告された17例のうち3例の男性同性愛者(MSM)がC群髄膜炎菌(MenC)に罹患した。

髄膜炎菌の12の血清群のうちドイツではBとCが多く、年間のIMD 罹患率は2010~2012年まで平均して人口10万人当たり0.45、若年成人(20~29歳)では0.65。致死率は2012年で 9.3%、MenCは最も高く13%だった。ドイツでは2006年からMenCワクチンが1歳時に定期接種勧奨され、キャッチアップ接種も勧奨されているが具体的な接種促進策は行われていない。2010年の小学校入学時のMenCワクチンカバー率は53~90%と、州ごとにばらつきがある。勧奨されたワクチンについて接種費用は無償だが、それ以外で医師に処方される場合は有料での接種となる。

MSM 間の3例については、症例1は20代前半の男性で、悪寒、発熱および激しい腹痛を2月初旬に訴え入院したが、緊急腹部手術中に死亡した(入院の10時間以内)。血液培養からMenC陽性。発症前日には複数のゲイバーへ立ち寄っていた。症例2と症例3はいずれも20代なかばで、5月に同じゲイ向けナイトクラブに行き夜をともにした。2日後に症例2は発熱、嘔気、嘔吐、易刺激性、頸部硬直をきたし、入院のうえ集中治療室で加療された。生存こそしたものの、脳に不可逆な後遺症を残した。症例3は1日後に易刺激性、発熱、嘔気をきたしたが医療機関を受診しないまま自宅で翌日に死亡。解剖により敗血症性ショックとDIC による死亡と診断され、髄液からMenCを検出。喫煙およびゲイバー以外にリスク要因は見つからず、HIV 陽性の診断もなく、MenC予防接種歴もなかった。症例2と症例3の関連は想像できるが、症例1とこの2例との関連は不明で、過去にMSM 間での流行が見られたパリやニューヨークとの関連も不明。

分子タイピングの結果、この3例ともMenCのST11、ET15とわかり、ドイツで1998年から頻繁に小流行を起こしていた株であった。PorAとFetAはET15で従前より関連していることが知られているため、porB と fHbppenA のタイピングが追加で行われた。いずれも同一と分かり、上記3例の関連を示唆した。

後ろ向き疫学調査として、発生動向調査に報告された症例のうちMSM の事例を検索し、2例が追加で同定された(発症は2013年2月と2012年10月)。いずれも20代後半で、2012年10月の症例は敗血症から死亡。検体はいずれも髄膜炎菌のレファレンスラボで検査され、同じくST11だった。追加の分子タイピングでは、2013年2月の症例は上記3例とは異なる株と示唆され、複数の流行系統が示唆された。

公衆衛生的な対応としては、ベルリンでの2012年10月~2013年6月までのMSM コミュニティでのMenCによるIMD 罹患率が調べられた。10万人当たり 6.3症例で、エピデミックとは認められなかった(ドイツでは3カ月以内に特定の地域で10万人当たり10症例以上をエピデミックと定義)が、全血清型の罹患率と比べても同世代の期待値(0.65)からは10倍の高さであった。

MSM 間でのIMD の集積はドイツの感染症サーベイランスネットワークとベルリンの医療従事者に通報され、症例の積極的探索が勧められた。AIDS患者支援団体はウェブサイトでIMDに関する情報をMSM 向けに発信し、HIV 陽性者は無料で髄膜炎菌予防接種が勧奨されていることを周知した。地域での流行の際には勧奨の拡大が可能であり、MSMのIMD症例のなかでHIV 陽性者が今のところいないことから、より広範なMSMに対する髄膜炎菌予防接種を検討している。

(Euro Surveill. 2013;18(28):pii=20523 )
Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan