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国立感染症研究所 実地疫学研究センター
感染症疫学センター
細菌第一部
2023年4月5日現在
(掲載日:2023年4月19日)

髄膜炎菌Neisseria meningitidis) による感染症は、1999年から髄膜炎菌性髄膜炎が感染症発生動向調査(National Epidemiological Surveillance of Infectious Diseases: NESID)の報告対象疾患とされていた。2013年4月1日からはN. meningitidis による髄膜炎に加えて敗血症なども報告の対象となり、侵襲性髄膜炎菌感染症(Invasive Meningococcal Disease: IMD)として五類全数把握疾患に位置づけられた1,2。2016年11月21日からは血液、髄液のほか「その他無菌部位」から髄膜炎菌が検出された症例も報告対象となった。髄膜炎菌は莢膜多糖体の糖鎖の違いにより少なくとも12血清群に分類され、侵襲性感染の大部分はA, B, C, Y, W群によるものである。このうちA, C, Y, W群を含む4価ワクチンが国内で承認されている。今般、国内におけるIMDの発生動向についてNESIDに基づきまとめたので報告する。

2013年4月1日から2023年3月31日までに診断され、IMDとしてNESIDシステムに報告があった274例(2023年4月5日時点)について記述した。届出票の症状欄に示されている「髄膜炎」または髄膜炎を疑う症状(「頭痛」、「嘔吐」、「意識障害」、「項部硬直」、「大泉門隆起」のいずれか)が記載された症例は髄膜炎として分類した。血清群についてはNESIDシステムに登録された情報と、国立感染症研究所細菌第一部で判定された結果を含めて集計した。

2013年4月1日から2023年3月31日までに報告されたIMDの診断年月別推移を図1に示す。2014年から2019年までは年間20~40例程度の報告があったが、2020年は13例、2021年は1例、2022年は8例の報告のみであった。明確な季節性は認められなかった。

性別・年齢群別の報告数を図2に、症例の特性をに示す。男性が55% (150/274)、年齢中央値は55歳(四分位範囲32-71歳)であった。15歳以上の症例が全体の91%(248/273、年齢不明の1例を除く)であり、小児の割合は少なかった。報告時点での死亡は33例(12%; 33/274)で、2020年以降、報告時点での死亡例はなかった。

感染地域が国内であったのは257例(都道府県不明を含む)で、国外であった症例は6例のみであった。髄膜炎菌ワクチン接種状況が報告されていた70例のうち、接種歴があったのは4例のみであった。寮や社会福祉施設での共同生活ありと記載されていたのは14例であったが、このうちワクチン接種歴を有する症例はなかった。

2013年4月から2018年12月までの報告症例(199例)のうち、血清群の情報が得られた155例では、Y群が64% (99/155)、B群が15% (23/155)であった。2019年1月から2023年3月までの報告例では75例中58例で血清群の情報が得られ、Y群が47% (27/58)、B群が41%(24/58)であった。

菌検出検体は血液が72%(197/273、検体不明の1例を除く)、血液及び髄液が13% (36/273)、髄液が12% (32/273)、その他の無菌部位が2% (5/273)、血液及びその他の無菌部位が1% (3/273)であった。症状に基づき髄膜炎と分類された症例は61% (167/274)であった。

mlst 20230419 f1

 

mlst 20230419 f2

 

mlst 20230419 t1

 

2020年以降、国内のIMD報告数は減少したが、海外でも同様の傾向となっている3。性感染症など他の疾患では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行下における受診控えや医療機関からの報告漏れによる過小評価の可能性が指摘されている4。重篤な症状を呈する症例が多いIMDについては、受診行動の変化や報告漏れによる影響は一般的に少ないと考えられる。また、COVID-19の感染拡大防止を目的としたソーシャルディスタンスの確保や集団での社会活動の制限といった対応がとられたことで、髄膜炎菌の感染伝播の機会が減少した可能性が推測された。なお、海外での感染が推定されるIMD報告数はCOVID-19流行以前から少なく、年間0-3例(2013-2019年)であった。COVID-19流行下では海外での感染が推定される症例はさらに減少し、年間0-1例(2020年-2022年)であった。このためCOVID-19への水際対策のため渡航が制限され、海外での感染や持ち込みの機会が減少したことによる影響も考えられた。今後、COVID-19予防対策の緩和に伴い、人どうしの接触頻度や海外から病原体が持ち込まれる機会が増えることは必至である。再びIMDが増加する可能性が懸念されるため、今後の動向を注視する必要がある。

血清群別ではY群が優位であったが、近年ではB群の割合が増加傾向にあった。国内では2015年から4価ワクチン(A/C/Y/W群)が販売されているが、B群は含まれていない。血清群の情報は、アウトブレイク対応等に影響を及ぼすため、患者発生時に検体を確保し、血清群の発生動向を適時に評価していくことが重要である。

謝辞:感染症発生動向調査に御協力いただきました保健所、地方衛生研究所、自治体本庁、医療機関の皆様に深く感謝申し上げます。

 

参考資料
  1. 感染症法に基づく医師及び獣医師の届出について「12 侵襲性髄膜炎菌感染症」 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-09-01.html
  2. 侵襲性髄膜炎菌感染症 2013年4月~2017年10月. IASR Vol. 39 p1-2: 2018年1月号
  3. Mark R Alderson, et al., J Infect 84(3): 289-296. 2022.
  4. Sentís, Alexis, et al., BMC Public Health 21.1. 1-7. 2021

 


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