国立感染症研究所

国立感染症研究所 実地疫学研究センター
感染症疫学センター
細菌第一部
2024年8月19日現在
(掲載日:2024年9月12日)

髄膜炎菌Neisseria meningitidis) による感染症は、1999年から髄膜炎菌性髄膜炎が感染症発生動向調査(National Epidemiological Surveillance of Infectious Diseases: NESID)の報告対象疾患とされていた。2013年4月1日からはN. meningitidis による髄膜炎に加えて敗血症なども報告の対象となり、侵襲性髄膜炎菌感染症(Invasive Meningococcal Disease: IMD)として五類全数把握疾患に位置づけられた1,2。2016年11月21日からは血液、髄液のほか「その他無菌部位」から髄膜炎菌が検出された症例も報告対象となった。髄膜炎菌は莢膜多糖体の糖鎖の違いにより少なくとも12血清群に分類され、侵襲性感染の大部分はA, B, C, Y, W群によるものである。このうちA, C, Y, W群を含む4価ワクチンが国内で承認されている3。国内におけるIMDの発生動向について感染症発生動向調査に基づく情報のまとめを2024年6月診断分まで更新した。

2013年4月1日から2024年6月30日までに診断され、IMDとして感染症発生動向調査システムに報告があった320例(2024年8月19日時点; 以下IMD報告例、または報告例)について記述した。届出票の症状欄に示されている「髄膜炎」または髄膜炎を疑う症状(「頭痛」、「嘔吐」、「意識障害」、「項部硬直」、「大泉門隆起」のいずれか)が記載された症例は髄膜炎として分類した。血清群については感染症発生動向調査システムに登録された情報と、国立感染症研究所細菌第一部で判定された結果を含めて集計した。

2013年4月1日から2024年6月30日までに診断されたIMD報告例数の推移を図1に示す。2014年から2019年までは年間20~40例程度の報告があったが、2020年から2022年は年間1~13例と報告数が減少し、その後2023年は年間21例、2024年は6月時点で29例と増加した。明らかな季節性は認めなかった。

mlst 20240912 f1

報告例の性別・年齢分布を図2に、症例の特性をに示す。男性が56%(178/320)、年齢中央値は54歳(四分位範囲32-71歳)であった。15歳以上の報告例が全体の92%(292/319、年齢不明の1例を除く)を占めたが、10歳代、20歳代の若年層でも報告があった。報告時点での死亡は36例(11%;36/320)あった。推定感染地域が国内であった報告例は295例で、国外であった報告例は10例、不明は15例であった。髄膜炎菌ワクチン接種状況が報告されていた86例のうち、接種歴があったのは5例のみであった。寮や社会福祉施設での共同生活ありと記載されていたのは16例であった。血清群別では、Y群が59%(148/251)と半数以上を占めた。菌検出検体は血液が71%(228/319、検体不明の1例を除く)、血液及び髄液が12% (38/319)、髄液が13% (43/319)、その他の無菌部位が2% (6/319)、血液及びその他の無菌部位が1% (4/319)であった。症状に基づき髄膜炎と分類された報告例は63%(200/320)であった。

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mlst 20240912 t1

2013年4月から2020年3月までに診断された報告例について、257例中198例で血清群の情報が得られ、Y群が62% (122/198)、B群が20% (39/198)であった。一方、2020年4月から2024年6月までに診断された報告例では、63例中53例で血清群の情報が得られ、Y群が49%(26/53)、B群が36%(19/53)と、B群の割合が増加した。2013年4月から2020年3月までと2020年4月から2024年6月までに診断された報告例の年齢分布を比較(図3)すると、15歳以上の割合は同程度(91%(234/256)vs 92%(58/63))であったが、20歳代の報告例の割合が増加(8%(21/256)vs 17%(11/63))した。感染地域が国外であった報告例は2013年4月から2020年3月までで全体の2%(6/257)、2020年4月から2024年6月までで全体の6%(4/63)と海外での感染が推定される報告例の割合が増加した。報告時点の致命率は2013年4月から2020年3月では13%(33/257)、2020年4月から2024年6月では5%(3/63)であった。

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国内のIMD報告数は2020年の COVID-19流行開始後に減少したが、2023年以降は流行開始前の水準に戻りつつある。また、2020年4月から2024年6月までに診断された報告例では、2013年4月から2020年3月までと比べ、血清群はB群の割合が増加し、20歳代の割合が増加した。

国内で、国際的なマスギャザリングイベントに関連したIMDの発生が報告されている4。2025年に開催される日本国際博覧会(大阪・関西万博)でも、様々な国からの訪日客が大きく増加することが見込まれること、また会場等において一定の場所・期間に多くの者が集まることから、IMDの集団発生が懸念される。引き続きIMDの発生動向に注視が必要である。

謝辞:感染症発生動向調査に御協力いただきました保健所、地方衛生研究所、自治体本庁、医療機関の皆様に深く感謝申し上げます。

 

参考資料
  1. 感染症法に基づく医師及び獣医師の届出について「12 侵襲性髄膜炎菌感染症」 厚生労働省
    https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-09-01.html
  2. 侵襲性髄膜炎菌感染症 2013年4月~2017年10月. IASR Vol. 39 p1-2: 2018年1月号
  3. 侵襲性髄膜炎菌とは,国立感染症研究所
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/405-neisseria-meningitidis.html
  4. 世界スカウトジャンボリー(山口県)に関連したスコットランド隊員およびスウェーデン隊員の髄膜炎菌感染症事例について.IASR Vol. 36 p178-179: 2015年9月号

 


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