ここでは、学術雑誌に掲載された感染研の研究者の論文や報道等のあった研究成果の要約を公開することで、感染研が行っている研究業務を紹介していきます。

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genome 2024 01
Distribution of antimicrobial resistance and virulence genes within the prophage-associated regions in nosocomial pathogens

Kohei Kondo, Mitsuoki Kawano, Motoyuki Sugai

mSphere
doi: 10.1128/mSphere.00452-21

薬剤耐性遺伝子や病原性遺伝子がプラスミドによって水平伝播することはよく知られているが、プロファージがそのような機能を担うかについての包括的な研究はほとんど存在しなかった。

我々は、病院内の薬剤耐性菌として問題となる7種の細菌のゲノム配列をNCBIから収集し、プロファージ様エレメント配列領域とその周辺に存在する薬剤耐性遺伝子および病原性遺伝子の分布を調べたところ、アミノグリコシドとβ-ラクタムの耐性遺伝子が比較的多く検出された。さらに、グラム陰性菌においてプロファージとインテグロンの隣接した配列が薬剤耐性遺伝子を共有する構造を見出した。

本論文は、米国微生物学会の2023年 Top-Cited Authorに選出された。

本研究は,独立行政法人日本医療研究開発機構(AMED)の「新興・再興感染症研究プログラム」(助成番号:20fk0108132j0001 and 21fk0108604j0001)の支援を受けて実施された。

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imm 2022 02
Machine learning-based motion tracking reveals an inverse correlation between adhesivity and surface motility of the leptospirosis spirochete

Keigo Abe, Nobuo Koizumi, Shuichi Nakamura

Nature Communications 14: 7703, 2023.

病原微生物の細胞上や組織内での動態を解析するためには,微生物に蛍光マーカーを付けて細胞と区別する手法が一般的ですが,蛍光物質による生理機能阻害の可能性があり,使える微生物種は限られます.本研究では,腎臓細胞上の細菌(レプトスピラ)の動きを,蛍光標識を使うことなく,機械学習で自動追跡する手法を開発しました(図Ⅰ)(https://youtu.be/HnGkaJcm_AU).これにより,保菌動物であるラットの腎臓細胞に感染したレプトスピラの多くは細胞への付着性が高い一方でクロウリング運動性が低く,重症化しやすい犬の腎臓細胞に感染したレプトスピラは付着性が低い一方でクロウリング運動性が高い傾向にあり,レプトスピラの付着性とクロウリング運動性が逆相関の関係にあることがわかりました.

本研究は東北大学と感染研の共同で,科研費(JP19K07571, JP21H02727, JP22K07062)およびAIEの助成により行われました.

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Rapid and sensitive on-site detection of SARS-CoV-2 RNA from environmental surfaces using portable laboratory devices

Kouichi Kitamura, Minami Kikuchi Ueno, Hiromu Yoshida

Microbiology Spectrum, e00456-23, 2023

感染者のくしゃみ等で排出されテーブルなど物体表面に付着した新型コロナウイルスは、感染性が失われたあともウイルスRNAとして長期に残ることが報告されています。本研究では、物体表面上のウイルスRNAをポータブル機器のみで検出する手法の検討を行いました。その結果、疑似ウイルス拭き取り検体溶液をモバイル型リアルタイムPCR機でそのまま検査する直接検出法と、ポータブル実験機器によりRNA抽出を行う高感度検出法を開発しました(下図)。これらのオンサイトPCR検査技術は、検査ラボへのアクセスが困難な施設などでのリスク評価および早期感染対策への活用が期待できます。

本研究は、厚労省科研費、AMEDの研究支援を受け実施しました。

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epi 2023 02
Protective effect of previous infection and vaccination against reinfection with BA.5 Omicron subvariant: a nationwide population-based study in Japan

Noriko Kitamura, Kanako Otani, Ryo Kinoshita, Fangyu Yan, Yu Takizawa, Kohei Fukushima, Daisuke Yoneoka, Motoi Suzuki, Taro Kamigaki

Lancet Regional Health – Western Pacific
DOI: 10.1016/j.lanwpc.2023.100911

SARS-CoV-2のオミクロン変異株は、免疫逃避能を持つことが知られる。ワクチン及び既感染から得られる免疫の理解は、効果的な感染制御戦略につながる。2022年9月25日までにHER-SYSに登録された全症例を対象にBA.5再感染に対する先行感染の予防効果を症例人口対照研究を用いて推定した。再感染予防効果は、武漢株で46%、アルファ株で35%、デルタ株で41%、BA.1/BA.2亜型で74%であった。さらに、年齢、性別、先行感染の変異株、および最終ワクチン接種からの期間で調整したコックス比例ハザードモデルにより推定されたワクチン接種の再感染予防効果は、1回接種と比較して、2回、3回、4回接種でそれぞれ7%、33%、66%であった。本研究により、過去に感染した集団における将来の再感染予防には、効果が持続する期間内でのワクチン追加接種が推奨されうることが示唆された。

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imm 2023 02
Structural basis for cross-group recognition of an influenza virus hemagglutinin antibody that targets postfusion stabilized epitope

Keisuke Tonouchi, Yu Adachi, Tateki Suzuki, Daisuke Kuroda, Ayae Nishiyama, Kohei Yumoto, Haruko Takeyama, Tadaki Suzuki, Takao Hashiguchi, Yoshimasa Takahashi

PLoS Pathogens, 2023 Aug; 19(8): e1011554. | doi; 10.1371/journal.ppat.1011554

インフルエンザウイルスの抗原変異に対応可能な交差防御抗体に注目が集まり、その誘導を目的とした新規ワクチンの開発が世界的に進められています。しかし、A型インフルエンザには遺伝子系統的に大きく異なる2つのグループの株が存在しており、両グループに有効な交差防御抗体を誘導できるワクチンの実現には至っておりません。

当センターでは、先行研究により複数のヒト交差抗体の単離に成功しており、本研究では2つのグループを跨いだ交差防御能を示す優れた抗体が存在することを見出しました。抗体-抗原複合体の結合様式について構造解析を行った結果、ウイルス感染時に生じる特殊なヘマグルチニン抗原部位を標的とした抗体であることを明らかにしました。

本研究で見出した新しい抗体と抗原部位に関する情報は、今後、抗原変異に対応可能な新しいワクチンの開発に活用されます。

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HTLV-1 Proliferation after CD8+ Cell Depletion by Monoclonal Anti-CD8 Antibody Administration in Latently HTLV-1-Infected Cynomolgus Macaques

Nakamura-Hoshi M, Nomura T, Nishizawa M, Hau TTT, Yamamoto H, Okazaki M, Ishii H, Yonemitsu K, Suzaki Y, Ami Y, Matano T

Microbiol. Spectr., 11, e0151823, 2023

ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)は慢性潜伏感染を引き起こす。潜伏感染者体内でプロウイルスは検出されるが、ウイルス複製・増殖は認められない。本研究ではHTLV-1感染カニクイザルモデルを構築し、慢性感染下でのモノクローナル抗CD8抗体投与によるCD8陽性細胞枯渇実験でプロウイルス量と抗HTLV-1抗体価の上昇が起きることを明らかにした。本結果はCD8陽性細胞非存在下で潜伏感染状態からHTLV-1増殖が可能であることを示しており、HTLV-1複製・増殖抑制にCD8陽性細胞が中心的役割を担っていることを示すevidenceを提供するものである。

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Potential Anti-Mpox Virus Activity of Atovaquone, Mefloquine, and Molnupiravir, and Their Potential Use as Treatments

Akazawa Da, Ohashi Ha, Hishiki Tb, Morita Tb, Iwanami Sc, Kim KSc, Jeong YDc, Park ES, Kataoka M, Shionoya K, Mifune J, Tsuchimoto K, Ojima S, Azam AH, Nakajima S, Park H, Yoshikawa T, Shimojima M, Kiga K, Iwami S, Maeda K, Suzuki T, Ebihara H, Takahashi Y, Watashi K (abcequally contributed)

The Journal of Infectious Diseases
Mar 9 (2023) Online ahead of print
doi: 10.1093/infdis/jiad058

2022年5月に国際的アウトブレイクが発生したエムポックスに対しては、国内で承認された治療薬が存在しない。本研究では抗ウイルス・抗真菌・抗寄生虫/原虫薬を含む132種の既承認薬のエムポックスウイルスへの効果を感染細胞系で検証し、経口投与可能な高活性化合物3種を見出した。メフロキンはウイルスの細胞侵入を、アトバコンおよびモルヌピラビルはウイルス複製を阻害すると考えられた。これらの抗ウイルス活性と、既知の臨床薬物動態、感染患者の血中ウイルス量情報を基にした数理モデル解析より、特にアトバコンが最も臨床で抗ウイルス効果が期待できると推定された。アトバコンは核酸生合成酵素であるDHODHの活性を阻害することで抗ウイルス活性を示すと示唆された。本研究成果はエムポックス治療薬創出に有用な知見を提供するものである。

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Identification of IMP Dehydrogenase as a Potential Target for Anti-Mpox Virus Agents

Hishiki T#, Morita T#, Akazawa D$, Ohashi H$, Park ES, Kataoka M, Mifune J, Shionoya K, Tsuchimoto K, Ojima S, Azam AH, Nakajima S, Kawahara M, Yoshikawa T, Shimojima M, Kiga K, Maeda K, Suzuki T, Ebihara H, Takahashi Y, Watashi K (#$equally contributed)

Microbiology Spectrum (in press)
doi: 10.1128/spectrum.00566-23.

エムポックスウイルス(MPXV)感染細胞実験でのスクリーニングから、Gemcitabine、Trifluridine、Mycophenolic acidなどの化合物が抗MPXV活性を有することが明らかとなった。Mycophenolic acidが阻害するのはMPXVの細胞侵入後の過程であり、その標的分子の一つであるIMP dehydrogenase(IMPDH)およびこれが制御するプリン生合成経路がMPXV複製に必要であることを見出した。IMPDHを阻害する化合物はいずれも抗MPXV活性を示し、その中にはMycophenolic acidよりも明らかに強い抗ウイルス活性をもつものが見出されたことより、今後IMPDHは抗MPXV薬開発の有効な創薬標的となる可能性が示唆された。

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A bivalent outer membrane vesicle-based intranasal vaccine to prevent infection of periodontopathic bacteria

Ryoma Nakao, Satoru Hirayama, Takehiro Yamaguchi, Hidenobu Senpuku, Hideki Hasegawa, Tadaki Suzuki, Yukihiro Akeda, Makoto Ohnishi.

 Vaccine, 2023 Jun 9; S0264-410X(23)00619-9. doi: 10.1016/j.vaccine.2023.05.058

歯周病の制圧は、有史以来人類の願いである。本論文では、歯周病原細菌P. gingivalis (Pg) とA. actinomycetemcomitans (Aa) が放出する外膜小胞 (OMVs) による経鼻ワクチンの効果と安全性について、マウスモデル等で検討を行なった。Pg OMVsはAa OMVsと較べ内毒素活性・免疫誘導活性が弱く単体ではワクチンとして機能しないが、Pg とAaの両方のOMVs (二価ワクチン) を経鼻投与することで、両菌に対する特異的な血清IgGと唾液IgAが強く誘導された。口腔感染実験では、二価ワクチンを投与するとPgとAaの口腔内菌数は有意に減少した。また、二価ワクチンのマウス脳内攻撃による中枢神経系毒性は認められなかった。二価OMVsワクチンの経鼻投与で口腔からPg やAaを排除できる可能性が示された。

本研究はJSPS、AMEDの支援を受けて実施された。

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imm 2022 02
Genotyping of Mycoplasma pneumoniae strains isolated in Japan during 2019 and 2020: spread of p1 gene type 2c and 2j variant strains

Kenri T, Yamazaki T, Ohya H, Jinnai M, Oda Y, Asai S, Sato R, Ishiguro N, Oishi T, Horino A, Fujii H, Hashimoto T, Nakajima H, Shibayama K

Front. Microbiol., 19 June 2023

肺炎マイコプラズマ(Mp)は遺伝子型によって1型と2型の系統に分類できる。2つの系統間では感染性に必須な細胞接着タンパク質P1とP40/P90にも違いがある。2019年と2020年に国内で分離された118株のMp を調べると、2型系統が優位であり(75%, 89/118)、その大部分は2c型か2j型のP1を持つ株だった。P1が2c型と2j型の株は近年国内で検出割合が増加している(図)。2c型と2j型のP1とP40/P90は90年代に多かった古典的な2型と比べると、分子表面のアミノ酸残基に置換が見られる。これらが細胞接着タンパク質の抗原性を変化させ、2c型と2j型のMpが増加する要因となった可能性も考えられる。2型系統株のマクロライド耐性率も微増傾向にあり、今後もMp分離株の調査が必要である。

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan