ここでは、学術雑誌に掲載された感染研の研究者の論文や報道等のあった研究成果の要約を公開することで、感染研が行っている研究業務を紹介していきます。

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imm 2022 02
CD62L expression marks SARS-CoV-2 memory B cell subset with preference for neutralizing epitopes

Taishi Onodera, Nicolas Sax, Takashi Sato, Yu Adachi, Ryutaro Kotaki, Takeshi Inoue, Ryo Shinnakasu, Takayuki Nakagawa, Shuetsu Fukushi, Tommy Terooatea, Mai Yoshikawa, Keisuke Tonouchi, Takaki Nagakura, Saya Moriyama, Takayuki Matsumura, Masanori Isogawa, Kazutaka Terahara, Tomohiro Takano, Lin Sun, Ayae Nishiyama, Shinnya Omoto, Masaharu Shinkai, Tomohiro Kurosaki, Kazuo Yamashita, and Yoshimasa Takahashi

Science Advances, 14 Jun 2023 Vol 9, Issue 24 | DOI: 10.1126/sciadv.adf0661

SARS-CoV-2の中和抗体は主にスパイク受容体結合ドメイン (RBD) を標的としていますが、RBD結合抗体を持つ記憶B細胞でも細胞ごとに中和活性はバリエーションに富んでいます。本研究では、記憶B細胞のシングルセルプロファイリングと抗体の機能評価を組み合わせることで、新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) の回復者において強力な中和抗体を保有する記憶B細胞の表現型を明らかにしました。強力な中和活性を持つ記憶B細胞サブセットはCD62Lを高発現しており、それらの特徴的なエピトープ選好性とVH(免疫グロブリン重鎖可変領域) 遺伝子が強力な中和活性に関与していました。また感染回復者の血中のCD62L陽性サブセットの頻度と中和抗体価には相関が認められ、COVID-19の重症度によってCD62L陽性サブセットの動態に差があることも明らかになりました。本研究における記憶B細胞プロファイリングは強力な中和活性を持つ記憶B細胞サブセットの表現型を明らかにし、今後の液性免疫の理解を更に深めるものです。

本研究はAMEDの支援を受けて実施されました。

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The C10orf76–PI4KB axis orchestrates CERT-mediated ceramide trafficking to the distal Golgi

Mizuike A, Sakai S, Katoh K, Yamaji T, and Hanada K

J Cell Biol, 222:e202111069, (2023). doi.org/10.1083/jcb.202111069

ゴルジ体などで合成される脂質であるホスファチジルイノシトール 4-一リン酸(PI4P)は宿主細胞だけでなく、様々な病原体が細胞に感染する際にも利用されています。

PI4Pはセラミド輸送タンパク質CERTのゴルジ体局在化にも必要です。セラミドは小胞体で合成されたのちにゴルジ体においてグルコシルセラミド(GlcCer)とスフィンゴミエリン(SM)に変換されるのですが、後者のみがCERTを介したセラミド供給に依存するという不思議な現象が知られていました。私たちは、PI4P合成酵素PI4KBがゴルジ体に局在するためにACBD3依存的な機序とC10orf76依存的な機序が並行して存在していること、そして、C10orf76はゴルジ体の中でもSM合成酵素の局在する遠位側に主に分布することを見出しました。これらのことから、C10orf76–PI4KB依存的なPI4P生産が小胞体―遠位ゴルジ体近接ゾーンにCERTを導き、小胞体で合成されたセラミドを効率的にSM合成場に転送していることが明らかとなりました。本内容は、感染研の品質保証・管理部、細胞化学部、及び産総研の共同研究の成果です。

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Development of serological assays to identify Helicobacter suis and H. pylori infections.

Matsui H*, Rimbara E*, Suzuki M, Tokunaga K, Suzuki H, Sano M, Ueda T, Tsugawa H, Nanjo S, Takeda A, Sasaki M, Terao S, Suda T, Aoki S, Shibayama K, Ota H, Mabe K (*equal contribution)

 iScience  VOLUME 26, ISSUE 4, 106522, APRIL 21, 2023

ヘリコバクター・スイスはブタなどを自然宿主とするが、時にヒト胃に感染し、胃MALTリンパ腫や胃・十二指腸潰瘍の原因となる。ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)感染率の低下に伴い、ヘリコバクター・スイス感染の臨床的重要性が増しているが、ヘリコバクター・スイスはピロリ菌感染診断法では検出されないため、臨床で用いることのできる非侵襲的感染診断法の開発が求められている。本論文では世界で初めてヘリコバクター・スイス感染の血清抗体価測定(ELISA)を報告した。PCR法を基準検査法とした場合、開発したELISAの検出感度は100%、特異度は92.6%であり(図)、これまで見逃されていたヘリコバクター・スイス感染を高感度で検出できる診断法として、今後の臨床での活用が期待される。

本研究はAMED、JSPSの支援をうけて北里大学などとの共同研究で行われた。

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Saturation time of exposure interval for cross-neutralization response to SARS-CoV-2: implications for vaccine dose interval

Sho Miyamoto, Yudai Kuroda, Takayuki Kanno, Akira Ueno, Nozomi Shiwa-Sudo, Naoko Iwata-Yoshikawa, Yusuke Sakai, Noriyo Nagata, Takeshi Arashiro, Akira Ainai, Saya Moriyama, Noriko Kishida, Shinji Watanabe, Kiyoko Nojima, Yohei Seki, Takuo Mizukami, Hideki Hasegawa, Hideki Ebihara, Shuetsu Fukushi, Yoshimasa Takahashi, Maeda Ken, Tadaki Suzuki.

 iScience. 2023 Apr 106694.

免疫逃避能の高いSARS-CoV-2オミクロン系統への中和抗体を誘導するためには十分なワクチン接種間隔が必要である。しかしながら、2回目から3回目ワクチン(ブースター)接種の間隔は世界保健機関(WHO)で4〜6ヶ月と推奨されているものの、科学的な裏付けは限定されている。私達は2回ワクチン接種後から感染までの曝露間隔が多様なブレークスルー感染者(ワクチン接種後感染者)血清を用いて、交差中和反応の誘導に必要な時間を推定した。曝露間隔が異なるオミクロン流行前と流行期ブレークスルー感染者血清の中和抗体価を用いて交差中和反応の上昇と飽和に至る時間を推定した。

オミクロン系統に対する交差中和反応の飽和には2回ワクチン接種後から2〜4ヶ月の間隔が必要であると推定され、その日数は祖先株から抗原性が遠い系統ほど延長した。様々なSARS-CoV-2オミクロン系統を中和する交差中和反応を最大化するためには、2回目から3回目のワクチン接種間隔を4ヶ月以上とすることが重要であると示唆された。

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Dose-sparing effect of Sabin-derived inactivated polio vaccine produced in Japan by intradermal injection device for rats

Eriko Itoh, Sakiko Shimizu, Yasushi Ami, Yoichiro Iwase, and Yuichi Someya

 Biologicals, Vol. 82, 2023.

世界的に不活化ポリオワクチンの接種がなされるようになり、ワクチンの不足が懸念されている。不活化ポリオワクチンは通常筋肉内もしくは皮下に接種されるが、強毒株由来不活化ポリオワクチン(ソークワクチン)の皮内接種の検討により、1回の接種用量を1/5に削減することが実証されており、ワクチン不足への対策のひとつとなりうる。本研究では、セービン株由来不活化ポリオワクチンについて、皮内接種により同様の効果が認められるか、ラットを用いて検証した。皮内接種はテルモ株式会社が開発した皮内注射デバイス、イムサイスをラット用に改造した専用デバイスを用いた。セービン株由来不活化ポリオワクチンの1ヒト用量を筋肉内に接種する群と1/5ヒト用量を接種した群とを比較したところ、同等の中和抗体価を得たことから、セービン株由来不活化ポリオワクチンにおいてもソークワクチンと同様に、皮内接種により1/5量まで投与量を削減することができることが示された。

本研究はテルモ株式会社との共同研究契約に基づき実施された。

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Monitoring Enteroviruses and SARS-CoV-2 in Wastewater Using the Polio Environmental Surveillance System in Japan

Kazuhiro Kitakawa , Kouichi Kitamura , Hiromu Yoshida

Applied and Environmental Microbiology, 89, e01853-22, 2023
https://doi.org/10.1128/aem.01853-22

世界ポリオ根絶計画の一環として、下水等からウイルスを検出するポリオ環境水サーベイランスが国内外で実施されています。ポリオが根絶されている日本ではポリオウイルス以外のエンテロウイルスが毎年検出されてきました。このサーベイランスシステムを活用し下水中新型コロナウイルスRNAの検出も行った結果、(1) COVID-19パンデミック後のエンテロウイルス関連疾患の減少と同時期に下水中エンテロウイルスの検出頻度も大きく減少し、(2) 下水中新型コロナウイルスRNA量と地域のCOVID-19新規陽性者数との間に相関が見られ、既存のポリオ環境水サーベイランスシステムが下水中エンテロウイルス及び新型コロナウイルスの監視に活用しうることが示されました。

本研究は、厚労省科研費、AMEDの研究支援を受け実施しました。

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National seroepidemiological study of COVID-19 after the initial rollout of vaccines: Before and at the peak of the Omicron-dominant period in Japan

Takeshi Arashiro*, Satoru Arai*, Ryo Kinoshita, Kanako Otani, Sho Miyamoto, Daisuke Yoneoka, Taro Kamigaki, Hiromizu Takahashi, Hiromi Hibino, Mai Okuyama, Ai Hayashi, Fuka Kikuchi, Saeko Morino, Sayaka Takanashi, Takaji Wakita, Keiko Tanaka-Taya, Tadaki Suzuki†, Motoi Suzuki
(*These authors contributed equally; †corresponding author)

Influenza and Other Respiratory Viruses doi: 10.1111/irv.13094

新型コロナワクチン導入後のオミクロン流行前(2021年12月)およびオミクロン(BA.1/BA.2)流行のピーク(2022年2-3月)に、5都府県16,296名を対象として人口ベースの血清疫学調査が行われた。抗N抗体(感染のみで誘導)保有割合はオミクロン流行前には2.2%(95% CI 1.9-2.5)、BA.1/BA.2のピークには3.5%(3.1-3.9)であった。オミクロン流行前の我が国の抗体保有割合は、米国(33%)、英国(25%)、世界(45%)と比較して1/10未満であったが、多くの者がワクチンにより抗体(抗S抗体)を獲得していた。全体の疾患負荷は低かったが、都心居住者、若年者、ワクチン未接種、特定の職種(介護従事者・保育従事者・飲食業従事者)等は累積感染歴と高い相関を示した。

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Non-Omicron breakthrough infection with higher viral load and longer vaccination-infection interval improves SARS-CoV-2 BA.4/5 neutralization

Sho Miyamoto, Takeshi Arashiro, Akira Ueno, Takayuki Kanno, Shinji Saito, Harutaka Katano, Shun Iida, Akira Ainai, Seiya Ozono, Takuya Hemmi, Yuichiro Hirata, Saya Moriyama, Ryutaro Kotaki, Hitomi Kinoshita, Souichi Yamada, Masaharu Shinkai, Shuetsu Fukushi, Yoshimasa Takahashi, Tadaki Suzuki.

 iScience. 2023 Feb 17;26(2):105969.

COVID-19症例におけるSARS-CoV-2オミクロンなどの変異ウイルスに対する免疫応答は、ワクチン接種や感染の有無など様々な要因に影響される。既存の免疫力を有するCOVID-19症例におけるSARS-CoV-2に対する中和活性の向上の要因を解明することは、オミクロンなどの抗原性の異なる変異ウイルスに対する幅広い中和抗体を誘導するブースターワクチンの改良に役立つ。

本研究により、ブレークスルー感染後のオミクロンに対する血清中和活性の大きさと幅は、主に上気道ウイルス量とワクチン接種から感染のインターバルによって誘導されることが明らかとなった。抗原性の離れたオミクロンBA.5亜系統までカバーする広い血清中和活性は、高ウイルス量かつ長いインターバルの症例で観察された。抗原地図を描くことで、変異ウイルスに対する中和の幅を広げる上で,インターバルが重要な役割を担っていることを明らかにした.この成果は、変異ウイルスに対する耐性を持つブースターワクチンの開発において、抗原設計と同様に投与間隔の最適化が重要であることを示している。

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Discovery of super–insecticide-resistant dengue mosquitoes in Asia: Threats of concomitant knockdown resistance mutations

Kasai S, Itokawa K, Uemura N, Takaoka A, Furutani S, Maekawa Y, Kobayashi D, Imanishi-Kobayashi N, Amoa-Bosompem M, Murota K, Higa Y, Kawada H, Minakawa N, Tran CC, Nguyen TY, Tran VP, Keo S, Kang K, Miura K, Ng, LC, Teng HJ, Dadzie S, Subekti S, Mulyatno KC, Sawabe K, Tomita T, Komagata O.

 Science Advances 8, eabq7345, 2022

ベトナムで採集されたネッタイシマカ(デング熱の主要な媒介蚊)がピレスロイド系殺虫剤に著しく強い耐性を示すことを見出し、その原因を突き止めました。ベトナムのネッタイシマカの多くで作用点ナトリウムチャネルの遺伝子上に重要なアミノ酸置換(L982W)をもたらす突然変異を確認しました。別のアミノ酸変異(F1534C)も同時に保有する個体も発見し、この二重変異は解毒酵素との組合わせで、桁外れに強い耐性(野生型の1000倍以上)をもたらすことを殺虫試験および分子モデリング解析で明らかにしました。さらにカンボジアのプノンペンでは、この多重変異を有する超耐性ネッタイシマカが70%以上を占めていました。2022年までにL982Wをもつネッタイシマカは周辺国から報告されていませんが、今後、人流・物流とともに分布が世界に拡大すれば、デング熱のコントロールにとって重大な脅威となりうると考察されました。

本研究はAMEDの支援を受けて長崎大、東京大ほかとの共同で実施されました。

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A highly immunogenic vaccine platform against encapsulated pathogens using chimeric probiotic Escherichia coli membrane vesicles

Nakao R, Kobayashi H, Iwabuchi Y, Kawahara K, Hirayama S, Ramstedt M, Sasaki Y, Kataoka M, Akeda Y, Ohnishi M.

 NPJ Vaccines, Nov 26;7(1):153, 2022

感染症に対するワクチンは、年齢や疾病の有無を問わず安全に投与でき (安全性)、かつ防御免疫を付与できる (ワクチン効果) ことが望ましい。本論文では、プロバイオティクスが放出するナノ粒子である膜小胞 (MVs)を活用した新しいワクチン法を報告した。遺伝子組換え技術により、病原体を覆う莢膜抗原をプロバイオティクス大腸菌MVsの最外層に発現させたワクチンを作製した。このキメラ型MVsの特長として、熱に対する高い安定性、長期にわたる免疫誘導能力、さらに高齢個体においても強力に免疫を付与できることが明らかとなった。既存の感染症、また将来起こりうる感染症への備えとして、当該 MVsワクチンのプラットフォームの活用が期待される。

本研究はJSPS、AMEDの支援を受けて実施された。

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan