ここでは、学術雑誌に掲載された感染研の研究者の論文や報道等のあった研究成果の要約を公開することで、感染研が行っている研究業務を紹介していきます。

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Neutralizing-antibody-independent SARS-CoV-2 control correlated with intranasal-vaccine-induced CD8+ T cell responses

Ishii H, Nomura T, Yamamoto H, Nishizawa M, Hau TTT, Harada S, Seki S, Nakamura-Hoshi M, Okazaki M, Daigen S, Kawana-Tachikawa A, Nagata N, Iwata-Yoshikawa N, Shiwa N, Suzuki T, Park ES, Maeda K, Onodera T, Takahashi Y, Kusano K, Shimazaki R, Suzaki Y, Ami Y, Matano T.

 Cell Rep. Med. 3: 100520, 2022

現行の新型コロナワクチンは、スパイク抗原(S)に対する中和抗体反応誘導を目的とするものであるが、中和抗体抵抗性S変異株の出現によりワクチン有効性が半減することが問題となっている。T細胞誘導効果も期待されているが、その感染制御効果は明らかとなっていなかった。本研究では、動物実験にて、S以外の抗原(N、M、E)を発現する経鼻ワクチンの新型コロナウイルス感染制御効果を解析した。その結果、ワクチン接種群では、経鼻チャレンジ後の鼻咽頭ぬぐい液中ウイルス量が有意に低下し、その感染制御効果はワクチン誘導CD8陽性T細胞反応と相関することが明らかとなった。本研究成果は、ワクチン誘導CD8陽性T細胞の新型コロナウイルス感染制御効果を初めて示すものであり、S変異株に対するワクチン開発に結びつくことが期待される。

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vir 2022-01
Lewis fucose is a key moiety for the recognition of histo-blood group antigens by GI.9 norovirus, as revealed by structural analysis

Tomomi Kimura-Someya, Miyuki Kato-Murayama, Kazushige Katsura, Naoki Sakai, Kazutaka Murayama, Kazuharu Hanada, Mikako Shirouzu, Yuichi Someya

FEBS Open Bio, 2022, 12(3), 560–570.
https://febs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/2211-5463.13370

ノロウイルスはヒトのウイルス性胃腸炎の主たる原因ウイルスであり、その感染には組織血液型抗原(HBGA)が重要と考えられている。GI.9ノロウイルスはGIノロウイルスの中で最も新しい遺伝子型である。VLPを用いてHBGA結合アッセイを行ったところ、GI.9ノロウイルスはABH抗原ではなく、ルイス抗原に結合することが明らかになった。更に、ルイス抗原存在下でVP1キャプシドタンパク質のPドメイン領域のX線結晶構造解析を行い、ルイス抗原中のルイスフコース(α1–3/4フコース)残基が主にPドメインに認識されることを見出した。このことからルイス抗原がノロウイルスの感染成立に極めて重要であることが示唆される。本研究の成果はノロウイルスに対する治療薬やワクチンのデザインに有用と期待される。

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vir 2021 09
SARS-CoV-2 Omicron-neutralizing memory B-cells are elicited by two doses of BNT162b2 mRNA vaccine

Ryutaro Kotaki†, Yu Adachi†, Saya Moriyama†, Taishi Onodera†, Shuetsu Fukushi, Takaki Nagakura, Keisuke Tonouchi, Kazutaka Terahara, Lin Sun, Tomohiro Takano, Ayae Nishiyama, Masaharu Shinkai, Kunihiro Oba, Fukumi Nakamura-Uchiyama, Hidefumi Shimizu, Tadaki Suzuki, Takayuki Matsumura, Masanori Isogawa, Yoshimasa Takahashi († These authors contributed equally)

Science Immunology (2022), DOI: 10.1126/sciimmunol.abn8590

mRNAワクチン2回接種後に、オミクロン株に対して中和活性を有する抗体が記憶B細胞に保存されていることを見出しました。今回の発見により、3回接種やブレークスルー感染によってオミクロン中和活性をもつ抗体が血液中に産生されるメカニズムの解明につながることが期待されます。

オミクロン株は多くのアミノ酸変異によりmRNAワクチン2回接種後に誘導される血液抗体から強く逃避しますが、3回接種やブレークスルー感染後の血液にはオミクロン中和抗体が誘導されることが報告されています。本研究では、mRNAワクチン2回接種後に誘導された記憶B細胞を取り出し、この細胞に保存されている抗体を解析しました。すると、中和活性をもつ抗体のうち、約30%の抗体がオミクロン株への中和活性を保持していることを明らかとしました。ワクチン3回接種やブレークスルー感染後には、これら記憶B細胞が反応してオミクロン株に対する中和抗体を血液中に産生する可能性が示唆されます。

本内容はAMEDの研究支援を受けて実施しました。

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vir 2022-01
Dasabuvir Inhibits Human Norovirus Infection in Human Intestinal Enteroids

Tsuyoshi Hayashi, Kosuke Murakami, Junki Hirano, Yoshiki Fujii, Yoko Yamaoka, Hirofumi Ohashi, Koichi Watashi, Mary K Estes, Masamichi Muramatsu

mSphere. 2021 Dec 22;6(6):e0062321.
https://journals.asm.org/doi/10.1128/mSphere.00623-21
doi: 10.1128/mSphere.00623-21.

ヒトノロウイルス (HuNoV) は、嘔吐、下痢などを主症状とするウイルス性の感染性胃腸炎の主要病原体である。公衆衛生上重要な病原体であるが、有効な治療薬・予防薬は存在しない。

我々は、幹細胞から作製した腸管エンテロイドを用い、HuNoVを試験管内で安定的に増殖させる系を確立した。本研究では当該培養系を駆使して、326種の化合物のHuNoV増殖に対する阻害能を評価した。その結果、C型肝炎ウイルス治療薬として開発されたダサブビルがHuNoV増殖を効果的に抑制することを示した。また、当該化合物は、ヒトロタウイルス、および新型コロナウイルスの腸管エンテロイドでの増殖も抑制した。本研究の成果が、今後のHuNoV治療薬開発において重要な知見となることが期待される。

本研究は、JSPSおよびAMEDの研究支援を受けて実施された。

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A lethal mouse model for evaluating vaccine-associated enhanced respiratory disease during SARS-CoV-2 infection

Iwata-Yoshikawa N, Shiwa N, Sekizuka T, Sano K, Ainai A, Hemmi T, Kataoka M, Kuroda M, Hasegawa H, Suzuki T, Nagata N

 Science Advances Volume 8, Issue 1, January 2022

COVID-19のワクチン開発における安全上の懸念の1つに「ワクチン関連呼吸器疾患増強現象」が挙げられますが、これは感染動物モデルにおいて好酸球性の免疫病理として特徴付けられており、Th2に偏った免疫応答と感染防御に不十分な中和抗体誘導に起因するとされています。今回研究グループは、SARS-CoV-2マウス継代株を用いて、感染動物モデルを確立し、新規ワクチンの有効性とワクチン関連呼吸器疾患増強現象のリスクを検証するための新しい評価系を開発いたしました。近交系マウスを用いるこの評価系の利点としては、免疫から感染に至る一連の宿主応答に関するTh1/Th2バランス等の免疫学的評価、SARS-CoV-2抗原特異的抗体価と中和抗体価等の評価を容易にし、さらに、感染後の疾患増強のリスク評価が可能となったことが挙げられます。よって、この感染動物モデルは現在までに進められてきたCOVID-19ワクチン開発において、その設計思想が正しいことを証明するだけでなく、さらには安全性の高い次世代COVID-19ワクチン開発や新規治療法開発、COVID-19の病態を理解する上で新しい知見をもたらすことが期待されます。

本研究は、AMEDの研究支援を受けて実施いたしました。

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vir 2022-01
MARCH8 targets cytoplasmic lysine residues of various viral envelope glycoproteins

Yanzhao Zhang, Seiya Ozono, Takuya Tada, Minoru Tobiume, Masanori Kameoka, Satoshi Kishigami, Hideaki Fujita, and Kenzo Tokunaga.

Microbiol Spectr. 2022 Jan 12:e0061821.

https://journals.asm.org/doi/10.1128/spectrum.00618-21
DOI: 10.1128/spectrum.00618-21

我々は以前、宿主膜蛋白質MARCH8が水胞性口炎ウイルスGおよびHIV-1エンベロープのウイルス粒子への取込みを阻害する抗ウイルス宿主因子であることを報告した(Nature Medicine, 21:1502-7. 2015, eLife, 9:e57763, 2020)が、今回、様々なウイルスエンベロープ糖蛋白質に対するMARCH8の抗ウイルス活性を検討した。狂犬病ウイルスG、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスGP、SARSコロナウイルス及び新型コロナウイルスのスパイク、ロスリバーウイルス及びチクングニアウイルスE2の各細胞質領域にあるリジン残基が、MARCH8の標的となってユビキチン化され、ダウンレギュレーション後にリソソーム分解されること、さらに一部のウイルスエンベロープ糖蛋白質はMARCH8のチロシンモチーフ依存的にダウンレギュレーションされることを明らかにした。本研究結果はMARCH8が幅広い抗ウイルススペクトラムを有することを示すものである。

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Nasal alum-adjuvanted vaccine promotes IL-33 release from alveolar epithelial cells that elicits IgA production via type 2 immune responses

Eita Sasaki, Hideki Asanuma, Haruka Momose, Keiko Furuhata, Takuo Mizukami, Isao Hamaguchi

PLoS Pathog. 2021 Aug 30;17(8):e1009890. doi: 10.1371/journal.ppat.1009890.

アルミニウム塩は、ワクチンの有効性を増強させる”アジュバント”と呼ばれる添加物として、古くから使用されている。しかしながら、粘膜免疫におけるアルミニウム塩による自然免疫活性化機構は十分に明らかにされてこなかった。

本成果では、経鼻接種ワクチンでアルミニウム塩が自然免疫を活性化する新しい分子機構として,肺胞上皮細胞の細胞死によって放出されるインターロイキン (IL)-33を介した免疫制御機構を見い出した。放出されたIL-33は、2型自然リンパ球や抗原提示細胞の活性化などにより、抗原特異的なIgA抗体産生を誘導することが明らかになった。これらの成果は、IL-33が経鼻ワクチンにおけるアジュバント作用に重要であることを示しており、今後のアジュバント設計における重要な知見となりうると考えられる。

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vir 2021 12
M-Sec induced by HTLV-1 mediates an efficient viral transmission

Masateru Hiyoshi, Naofumi Takahashi, Youssef M. Eltalkhawy, Osamu Noyori, Sameh Lotfi, Jutatip Panaampon, Seiji Okada, Yuetsu Tanaka, Takaharu Ueno, Jun-ichi Fujisawa, Yuko Sato, Tadaki Suzuki, Hideki Hasegawa, Masahito Tokunaga, Yorifumi Satou, Jun-ichirou Yasunaga, Masao Matsuoka, Atae Utsunomiya, Shinya Suzu.

PLOS Pahogens. 2021 Nov 29;17 (11): e1010126. https://doi.org/10.1371/journal.ppat.1010126

ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-1)は、一度感染すると生涯にわたって体内から排除されず、感染者の数%に成人T細胞白血病(ATL)等を発症させます。

私たちは、HTLV-1感染には感染T細胞が発現するM-Secが重要であることを明らかにしました。注目すべきことに、M-Secは正常T細胞では発現せず、HTLV-1によってT細胞で異常に発現されて細胞の性質を変化させます(図中の1〜3)。また、私たちが独自に見いだしているM-Sec機能阻害剤NPD3064はHTLV-1感染を抑制しました。今後、NPD3064のHTLV-1の薬としての可能性を更に検証していきます。

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vir 2021 09
A SARS-CoV-2 Antibody Broadly Neutralizes SARS-related Coronaviruses and Variants by Coordinated Recognition of a Virus Vulnerable Site

Taishi Onodera, Shunsuke Kita, Yu Adachi, Saya Moriyama, Akihiko Sato, Takao Nomura, Shuhei Sakakibara, Takeshi Inoue, Takashi Tadokoro, Yuki Anraku, Kohei Yumoto, Cong Tian, Hideo Fukuhara, Michihito Sasaki, Yasuko Orba, Nozomi Shiwa, Naoko Iwata, Noriyo Nagata, Tateki Suzuki, Jiei Sasaki, Tsuyoshi Sekizuka, Keisuke Tonouchi, Lin Sun, Shuetsu Fukushi, Hiroyuki Satofuka, Yasuhiro Kazuki, Mitsuo Oshimura, Tomohiro Kurosaki, Makoto Kuroda, Yoshiharu Matsuura, Tadaki Suzuki, Hirofumi Sawa, Takao Hashiguchi, Katsumi Maenaka, and Yoshimasa Takahashi

Immunity 2021 Oct 12;54(10):2385-2398.e10. doi: 10.1016/j.immuni.2021.08.025.

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株やSARSコロナウイルスなどのコロナウイルスに広く有効な新しいヒト抗体を単離し、構造決定及び病理評価を行うことに成功し、その高い中和活性と交差反応性のメカニズムを解明しました。今回研究グループは、完全型ヒト抗体を作るマウス(TC-mAbマウス)から、SARS-CoV-2に対して強い中和活性を有し、変異株やその他のコロナウイルスも中和できる抗体NT-193を単離しました。このNT-193抗体は、定常領域がIgG3タイプであることにより中和活性を増強するユニークな抗体であるとわかりました。さらに,IgG3タイプのNT-193抗体は他のSARS類縁コロナウイルスに対しても強い中和活性を示したことから、広くSARS類縁ウイルスに対して有効な抗体であると示唆されました。NT-193抗体はスパイクタンパク質の受容体結合部位(RBD)と高い結合活性を示すことから、NT-193とRBDとの複合体の立体構造をX線結晶構造解析により決定することができました。その結果,受容体ACE2結合領域とコロナウイルスの保存性の高い領域の両方のほぼ全てを認識する抗体であることを特定し、それぞれの領域が中和活性とコロナウイルス交差反応性に寄与することが明らかになりました。さらに、ハムスターを用いた感染実験からこれまでに臨床応用されている抗体医薬品と比較して,遜色のない優れた予防・治療効果を示すことがわかりました。

本内容は、北海道大学前仲勝実教授の研究グループとの共同成果であり、AMEDの研究支援を受けて実施しました。

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vir 2021 12
Seroprevalence of Flavivirus Neutralizing Antibodies in Thailand by High-Throughput Neutralization Assay: Endemic Circulation of Zika Virus before 2012

Atsushi Yamanaka, Mami Matsuda, Tamaki Okabayashi, Pannamthip Pitaksajjakul, Pongrama Ramasoota, Kyoko Saito, Masayoshi Fukasawa, Kentaro Hanada, Tomokazu Matsuura, Masamichi Muramatsu, Tatsuo Shioda, and Ryosuke Suzuki

mSphere Vol. 6, No. 4, e0033921. 2021 https://journals.asm.org/doi/10.1128/mSphere.00339-21

タイでは古くからデングウイルス(DV)や日本脳炎ウイルスなどのフラビウイルスが蔓延しているが、2015年に南米で流行が拡大したジカウイルス(ZIKV)がいつ頃からタイで流行していたのかは不明であった。本研究では黄熱ウイルス遺伝子を用いた一回感染性ウイルス(SRIP)中和抗体測定系を用い、タイ4都市で2011-2012年に採取された健常人血清のフラビウイルス中和抗体保有率を調査した。その結果、タイでは主に1型および2型 DVが流行しており、さらに17%の人がZIKVに対して最も高い中和抗体価を示した事から、2012年においてZIKVが既に蔓延していたことが強く示唆された。本研究により、SRIPを用いた中和試験はフラビウイルスのサーベイランスに役立つ事が示された。

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan