国立感染症研究所

vir 2022-01
Dasabuvir Inhibits Human Norovirus Infection in Human Intestinal Enteroids

Tsuyoshi Hayashi, Kosuke Murakami, Junki Hirano, Yoshiki Fujii, Yoko Yamaoka, Hirofumi Ohashi, Koichi Watashi, Mary K Estes, Masamichi Muramatsu

mSphere. 2021 Dec 22;6(6):e0062321.
https://journals.asm.org/doi/10.1128/mSphere.00623-21
doi: 10.1128/mSphere.00623-21.

ヒトノロウイルス (HuNoV) は、嘔吐、下痢などを主症状とするウイルス性の感染性胃腸炎の主要病原体である。公衆衛生上重要な病原体であるが、有効な治療薬・予防薬は存在しない。

我々は、幹細胞から作製した腸管エンテロイドを用い、HuNoVを試験管内で安定的に増殖させる系を確立した。本研究では当該培養系を駆使して、326種の化合物のHuNoV増殖に対する阻害能を評価した。その結果、C型肝炎ウイルス治療薬として開発されたダサブビルがHuNoV増殖を効果的に抑制することを示した。また、当該化合物は、ヒトロタウイルス、および新型コロナウイルスの腸管エンテロイドでの増殖も抑制した。本研究の成果が、今後のHuNoV治療薬開発において重要な知見となることが期待される。

本研究は、JSPSおよびAMEDの研究支援を受けて実施された。

vir 2022-01
MARCH8 targets cytoplasmic lysine residues of various viral envelope glycoproteins

Yanzhao Zhang, Seiya Ozono, Takuya Tada, Minoru Tobiume, Masanori Kameoka, Satoshi Kishigami, Hideaki Fujita, and Kenzo Tokunaga.

Microbiol Spectr. 2022 Jan 12:e0061821.

https://journals.asm.org/doi/10.1128/spectrum.00618-21
DOI: 10.1128/spectrum.00618-21

我々は以前、宿主膜蛋白質MARCH8が水胞性口炎ウイルスGおよびHIV-1エンベロープのウイルス粒子への取込みを阻害する抗ウイルス宿主因子であることを報告した(Nature Medicine, 21:1502-7. 2015, eLife, 9:e57763, 2020)が、今回、様々なウイルスエンベロープ糖蛋白質に対するMARCH8の抗ウイルス活性を検討した。狂犬病ウイルスG、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスGP、SARSコロナウイルス及び新型コロナウイルスのスパイク、ロスリバーウイルス及びチクングニアウイルスE2の各細胞質領域にあるリジン残基が、MARCH8の標的となってユビキチン化され、ダウンレギュレーション後にリソソーム分解されること、さらに一部のウイルスエンベロープ糖蛋白質はMARCH8のチロシンモチーフ依存的にダウンレギュレーションされることを明らかにした。本研究結果はMARCH8が幅広い抗ウイルススペクトラムを有することを示すものである。

vir 2021 12
M-Sec induced by HTLV-1 mediates an efficient viral transmission

Masateru Hiyoshi, Naofumi Takahashi, Youssef M. Eltalkhawy, Osamu Noyori, Sameh Lotfi, Jutatip Panaampon, Seiji Okada, Yuetsu Tanaka, Takaharu Ueno, Jun-ichi Fujisawa, Yuko Sato, Tadaki Suzuki, Hideki Hasegawa, Masahito Tokunaga, Yorifumi Satou, Jun-ichirou Yasunaga, Masao Matsuoka, Atae Utsunomiya, Shinya Suzu.

PLOS Pahogens. 2021 Nov 29;17 (11): e1010126. https://doi.org/10.1371/journal.ppat.1010126

ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-1)は、一度感染すると生涯にわたって体内から排除されず、感染者の数%に成人T細胞白血病(ATL)等を発症させます。

私たちは、HTLV-1感染には感染T細胞が発現するM-Secが重要であることを明らかにしました。注目すべきことに、M-Secは正常T細胞では発現せず、HTLV-1によってT細胞で異常に発現されて細胞の性質を変化させます(図中の1〜3)。また、私たちが独自に見いだしているM-Sec機能阻害剤NPD3064はHTLV-1感染を抑制しました。今後、NPD3064のHTLV-1の薬としての可能性を更に検証していきます。

vir 2021 12
Seroprevalence of Flavivirus Neutralizing Antibodies in Thailand by High-Throughput Neutralization Assay: Endemic Circulation of Zika Virus before 2012

Atsushi Yamanaka, Mami Matsuda, Tamaki Okabayashi, Pannamthip Pitaksajjakul, Pongrama Ramasoota, Kyoko Saito, Masayoshi Fukasawa, Kentaro Hanada, Tomokazu Matsuura, Masamichi Muramatsu, Tatsuo Shioda, and Ryosuke Suzuki

mSphere Vol. 6, No. 4, e0033921. 2021 https://journals.asm.org/doi/10.1128/mSphere.00339-21

タイでは古くからデングウイルス(DV)や日本脳炎ウイルスなどのフラビウイルスが蔓延しているが、2015年に南米で流行が拡大したジカウイルス(ZIKV)がいつ頃からタイで流行していたのかは不明であった。本研究では黄熱ウイルス遺伝子を用いた一回感染性ウイルス(SRIP)中和抗体測定系を用い、タイ4都市で2011-2012年に採取された健常人血清のフラビウイルス中和抗体保有率を調査した。その結果、タイでは主に1型および2型 DVが流行しており、さらに17%の人がZIKVに対して最も高い中和抗体価を示した事から、2012年においてZIKVが既に蔓延していたことが強く示唆された。本研究により、SRIPを用いた中和試験はフラビウイルスのサーベイランスに役立つ事が示された。

vir 2021 12
High-order epistasis and functional coupling of infection steps drive virus evolution toward independence from a host pathway

Minetaro Arita

Microbiology Spectrum, In Press: DOI: https://doi.org/10.1128/Spectrum.00800-21

ウイルスが宿主の細胞に感染するためには、宿主の様々な遺伝子を必要とします。RNAウイルス研究のモデルウイルスであるエンテロウイルスでは、宿主のPI4KB遺伝子およびOSBP遺伝子が複製に必要であることが知られています。また、これらを標的とする抗エンテロウイルス化合物の研究から、これらの遺伝子に依存しないウイルス変異株が4つの変異で生じることが明らかにされています。このうち2つの変異はウイルスRNAの複製に必要ですが、残り2つの変異の役割は不明でした。今回の研究で、役割が不明だった1つの変異がウイルスの細胞間の広がりを促進することを見出しました。この現象には、3つの変異がウイルスゲノムに導入される順番・組み合わせが必須であり(遺伝学用語でエピスタシスと呼ばれます)、これによりウイルス感染過程が促進され、最終的にウイルスの細胞間の広がりが促進されることが明らかにされました。今後さらに研究を進めることにより、ウイルスの進化における宿主因子の役割が解明されることが期待されます。

vir 2021 12
Amino Acid Polymorphism in Hepatitis B Virus Associated with Functional Cure.

Takashi Honda, Norie Yamada, Asako Murayama, Masaaki Shiina, Hussein Hassan Aly, Asuka Kato, Takanori Ito, Yoji Ishizu, Teiji Kuzuya, Masatoshi Ishigami, Yoshiki Murakami, Tomohisa Tanaka, Kohji Moriishi, Hironori Nishitsuji, Kunitada Shimotohno, Tetsuya Ishikawa, Mitsuhiro Fujishiro, Masamichi Muramatsu, Takaji Wakita, Takanobu Kato.

Cell Mol Gastroenterol Hepatol. 2021 Aug 2;S2352-345X(21)00159-4. doi: 10.1016/j.jcmgh.2021.07.013. Online ahead of print.

現行のB型慢性肝炎治療ではHBs抗原の陰性化すなわち機能的治癒が治療目標とされている。そこで機能的治癒との関連が報告されているHBVコア領域I97Lの変異がHBVの感染増殖に与える影響を解析した。

HBV感染系においてI97L変異株は通常のHBV株と比較して低い感染性を示した。さらに超遠心密度勾配法での解析により、I97L変異株では通常のHBVゲノムである不完全二本鎖ではなく、主に一本鎖ゲノムを持つ未熟なウイルスが産生されることが明らかとなった。この未熟なウイルスの感染性を評価したところ、細胞への吸着や侵入効率には差を認めなかったが、感染後のcccDNA生成効率が低下していた。これらの結果から、このI97L変異による未熟なHBV産生が感染細胞におけるcccDNA合成効率を低下させ、患者中のHBV量を減少させることで機能的治癒の成立に関与していると考えられた。

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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