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家族内に複数人の感染者をみた既存のブルセラ属菌とは異なるブルセラ属菌による感染事例

(IASR Vol. 39 p123-124: 2018年7月号)

今回, 発熱, 倦怠感を主訴に当院を受診し, その後, 血液培養で新規ブルセラ属菌感染症と判明し, また, 抗体が患者家族からも検出された事例を経験したため報告する。

症 例:40代 女性 日本人

主 訴:発熱 倦怠感

既往歴:特記なし

現病歴:2018年1月末から38℃の発熱を認め, 近医を受診し血液検査で貧血が指摘されたが, その他の異常は認められなかった。解熱薬が処方され, 数日で症状の改善がみられたが, 微熱は継続していた。症状の増悪・寛解を繰り返していたが, 2月下旬から再度38℃台の発熱を認め, 当院救急外来を受診した。血液検査で白血球は正常範囲であるもののCRP 11.6であることから, 熱源精査が行われたが, 明らかな熱源は認められなかった。血液培養等採取後, 当院総合内科を受診した。両膝関節痛があることから膠原病が疑われ, 追加検査を実施し, 解熱剤を処方した。初診3日後に血液培養2セット4本のうち, 好気ボトル2本からグラム陰性桿菌が検出された。即座に入院検討したが, 本人都合もあり初診から10日後に入院となった。

入院後経過:グラム陰性桿菌感染症に対して, セフタジジムの投与を開始した。培養から菌種同定を実施したが当院では困難であり, 分離菌の16S rRNA解析を検査機関に依頼したところ, 入院8日目にBrucella sp.と判定された。ブルセラ症疑いから, リファンピシン+ミノサイクリンに抗菌薬を変更したところ, 同日より解熱を認め, その後症状の再燃もなく, 全身状態良好となったため入院13日目に合併症なく退院に至った。退院後5週間リファンピシン+ミノサイクリンの内服加療を継続した。抗菌薬終了1.5カ月後の時点でもB. abortus抗体160倍以上, B. canis抗体320倍と, ともに高値を示しているが, 経過観察中も合併症や症状の再燃は認められない。

ブルセラ症の確定診断のため, 行政検査として患者血清および分離菌株を国立感染症研究所に送付した。血清抗体検査ではB. abortus抗体640倍(陽性), B. canis抗体80倍(陰性)であった。またPCR法による血液培養由来菌株の遺伝子検出ではB. suisのパターンが示されたが, 患者には6カ月以内の渡航歴がないことやB. suisは国内の家畜では既に清浄化されていることから, 既知のブルセラ属菌とは異なる可能性が考えられた。そこで, 16S rRNA遺伝子配列および9座連結配列による系統樹解析を実施した。その結果, 本菌株はB. suis biovar 5と近縁で, また, 2017年長野県内でブルセラ症患者より分離・報告された新規ブルセラ属菌〔IASR, 39(5): 84-86, 2018〕と非常に近縁であることが判明した。

家族歴等に関して聞き取りを行ったところ, 子供が3人おり, 長女とのみ同居し, 長男, 次男は本人の実家に居住しているとのことであったが, 本人に症状が出現する約1カ月前に次男に同様の症状の出現があり, さらに長男にも同様の症状がみられたとのことであった。そこで, 検査時点では軽快していたが, 先に同様の症状を呈していた長男・次男および本人と同居し, 同じく発熱のみられた長女について, 行政検査として血清抗体検査を実施した。その結果, 3名ともB. abortus抗体640, 160, 320倍(陽性), B. canis抗体は陰性と, ブルセラ症を疑わせる結果であった。

考 察:ブルセラ症は古典的に臨床上, 急性, 亜急性, 慢性の3群に分けられる1)。またその症状は, 一般的にはインフルエンザ様であるが, 局所症状は多岐にわたり, 肝腫大, 脾腫, 関節炎, 脊椎炎, 肝炎等の症状を来すこともある。発熱は78~91%と最も多くの患者で認められ2,3), 発熱のパターンは間欠的な発熱が数週間続いた後に一時的な改善を経て, 再度発熱を繰り返す波状熱として知られている4)。本症例でも同様の発熱パターンや関節痛を認め, ブルセラ症としては典型的な症状を呈していた。

感染経路としては感染動物に由来する殺菌不十分な乳・肉製品の喫食, 感染動物およびその悪露・体液等との直接接触などがある。宿主動物としてはヤギ, ウシ, ブタ, イヌなどが挙げられるが, 本人の職業は営業職であり, これらの動物と日常的に接触する機会はない。ただ, 実家ではネコを主に屋外で飼育していた。今回の症例で特記すべき点は, 家族内で複数人の発症がみられたことである。ブルセラ症では, ヒト-ヒト感染は極めて稀であるが, 家族内にブルセラ症患者を有するということに広げると, 海外では20%程度の患者に家族歴があると言われる3)。これは, 飲食物, 職業, 嗜好, 居住地域等を共にすることで, 同じ感染機会を持つことによると考えられる。本症例における家族内の複数人の感染でも何らかの感染を媒介するものが存在していたと考えられる。

今回発見されたブルセラ属菌は, 既知の菌では, げっ歯目を自然宿主とするB. suis biover 5と近縁であるが, 患者とげっ歯目との明らかな接触は認められなかった。しかし, 先に報告された菌〔IASR, 39(5): 84-86, 2018〕と非常に近縁であり, 本菌およびこの近縁菌の報告地域が近隣であることから, その地域に感染源が存在していると考えられる。新たな感染を防ぐため, 感染経路や宿主動物等を明らかにすること, また, 新菌種である可能性を明らかにするため, 当該菌種について詳細な解析 (遺伝子解析, 生化学的性状等) を進めていくことが必要である。

 

参考文献
  1. Galińska EM, Zagórski J, Ann Agric Environ Med 20(2): 233-238, 2013
  2. Pappas G, et al., N Engl J Med 352: 2325-2336, 2005
  3. Anna S, et al., PLoS Negl Trop Dis: Dec 6(12): e1929, 2012
  4. 今岡浩一, 臨床と微生物 Vol.42 No.1: 27-32, 2015

 

慈泉会相澤病院総合内科
 小野寺 翔 山本智清 内坂直樹 寺川偉温
同 臨床検査センター 清水郁枝 鎌倉明美
同 感染対策室 栗田敬子
国立感染症研究所獣医科学部
 今岡浩一 木村昌伸 鈴木道雄 森川 茂

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