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カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(carbapenem-resistant Enterobacteriaceae: CRE)病原体サーベイランス, 2019年

(IASR Vol. 42 p123-124: 2021年6月号)

 

 カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)病原体サーベイランスは, 2017年3月の通知(健感発0328第4号)に基づき実施されている。本稿では, 検体採取日が2019年1月1日~12月31日の1,799株(2021年4月8日現在)の概要を示す。1,799株のうち, 1,622株(90.2%)にはCRE感染症の発生動向調査届出患者由来であることを示す発生動向報告IDの記載があり, CRE感染症届出患者1,575名由来と考えられた。なお, 残る177株(9.8%)には発生動向報告IDの記載がないため, 保菌例など臨床的な届出基準を満たさない患者由来株が一部含まれる可能性があるほか, 同一患者分離株の判別が困難なため分離患者数は明確ではない。

 1,799株の分離検体は, 尿(n=472, 26.2%), 血液・髄液(n=460, 25.6%), 呼吸器検体(n=329, 18.3%), 腹腔内検体(n=152, 8.4%), 皮膚・軟部組織検体(n=121, 6.7%), 穿刺液(n=89, 4.9%)の順に多かった。菌種は, Klebsiella aerogenes(n=732, 40.7%), Enterobacter cloacae complex(n=532, 29.6%), Klebsiella pneumoniae(n=180, 10.0%), Escherichia coli(n=117, 6.5%), Serratia marcescens(n=61, 3.4%), Citrobacter freundii(n=38, 2.1%)の順に多かった。これら分離検体および菌種の分布は2018年CRE病原体サーベイランス1)とおおむね同様であった。

 各検査実施数と陽性数をに示す。1,799株のうち, いずれかのカルバペネマーゼ遺伝子陽性株は296株(16.5%)であった。カルバペネマーゼ遺伝子陽性株の遺伝子型内訳(重複あり)は, IMP型263株(88.6%), NDM型23株(7.7%), KPC型5株(1.7%)であり, OXA-48型陽性株はなかった。その他の遺伝子型として, GES型3株(うち1株は塩基配列決定による遺伝子型別報告GES-24), IMI型2株, KHM型1株(同遺伝子型別報告KHM-1)が報告された。

 IMP型陽性263株の菌種は全国ではE. cloacae complex(n=94, 35.7%), K. pneumoniae(n=72, 27.4%), E. coli(n=43, 16.3%)の順に多いが, 関東甲信静はE. cloacae complex(55.2%), 近畿はK. pneumoniae(41.9%)がそれぞれ最も多かった。IMP型陽性株の45.2%にあたる119株(14府県)では遺伝子型別報告があった。IMP-1は12府県42株ですべての地域より報告があったのに対し, IMP-6は6府県74株で東海北陸, 近畿, 中国四国からのみ報告があった。IMP-11は2県2株(関東甲信静, 近畿), IMP-34が1株(関東甲信静)報告された。以上のIMP型検出株の菌種や地域特性は, 2017年2)および2018年1)報告と同様の傾向であった。

 海外型カルバペネマーゼ遺伝子であるNDM型, KPC型陽性株は合わせて28株であり, 全報告株数(n=1,799)の1.6%を占めた。28株のうち, 海外渡航歴なし, もしくは渡航歴不明の患者より分離された株は16株(57.1%)であり, 内訳はNDM型13株(うち10株は遺伝子型別報告 NDM-1, n=2; NDM-4, n=1; NDM-5, n=7), KPC型3株であった。全報告株数に占める海外型カルバペネマーゼ遺伝子検出株の割合は, 2017年1.4%, 2018年2.5%と増加傾向であったが3), 2019年には明確な増加は認めなかった。

 2019年第1~52週のCRE感染症の発生動向調査届出(患者報告)数は2,333例(発生動向調査事業年報)であった。1,799株のうち原則実施する検査項目がすべて報告された1,798株(99.9%)を, 患者報告数2,333例で除した値を報告率とすると77.1%となり, 2018年の72.2%1)に比べ微増した。ブロック別報告率は北海道東北新潟91.1%, 関東甲信静75.3%, 東海北陸44.1%, 近畿81.8%, 中国四国91.4%, 九州79.7%であった。都道府県別報告率の中央値は91.7%と, 2018年の85.7%に比べ上昇したが, 一方で4都県(岩手県, 東京都, 愛知県, 長崎県)では50%未満にとどまった。

 CRE病原体サーベイランス開始から3年以上が経過した。報告株数に占めるカルバペネマーゼ遺伝子陽性株の割合は, 2018年17.6%1), 2019年16.5%であり, おおむね横ばい状態であった。カルバペネマーゼ遺伝子保有状況やその推移を正確に把握するため, 引き続き全国的かつ継続的なサーベイランス実施が望まれる。

 
参考文献

国立感染症研究所薬剤耐性研究センター
国立感染症研究所感染症疫学センター 
全国地方衛生研究所

 

 

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