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カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(carbapenem-resistant Enterobacteriaceae: CRE)病原体サーベイランス, 2020年

(IASR Vol. 43 p215-216: 2022年9月号)

 

 カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症は感染症法5類全数把握対象疾患であり, CRE病原体サーベイランスは通知(健感発0328第4号, 2017年3月28日)に基づき実施されている。2020年第1~53週の感染症発生動向調査届出(患者報告)数は1,956例(感染症発生動向調査事業年報)であった。本稿では, 病原体検出情報システムに登録された検体採取日が2020年1月1日~12月31日の1,380株(2022年7月11日現在)の概要を示す。1,380株のうち, 1,308株(94.8%)にはCRE感染症の発生動向調査届出患者由来であることを示す発生動向報告IDの記載があり, CRE感染症届出患者1,282名由来と考えられた。なお, 残る72株(5.2%)には発生動向報告IDの記載がないため, 保菌例など臨床的な届出基準を満たさない患者由来株が一部含まれる可能性があるほか, 同一患者分離株の判別が困難なため分離患者数は明確ではない。

 1,380株の分離検体は, 尿(n=352, 25.5%), 血液・髄液(n=325, 23.6%), 呼吸器検体(n=251, 18.2%), 腹腔内検体(n=117, 8.5%), 皮膚・軟部組織検体(n=102, 7.4%), 穿刺液(n=81, 5.9%)の順に多く, 2019年CRE病原体サーベイランス1)とおおむね同様であった。菌種は, Klebsiella aerogenes (n=599, 43.4%), Enterobacter cloacae complex (n=365, 26.4%), Klebsiella pneumoniae (n=155, 11.2%), Escherichia coli (n=97, 7.0%), Serratia marcescens (n=56, 4.1%), Citrobacter freundii (n=30, 2.2%)の順に多かった。上位6菌種の順は2017年以降変わらないが, K. aerogenesの割合は2017年31.9%2), 2018年37.5%3), 2019年40.7%1)であり, 年々増加している。

 各検査実施数と陽性数をに示す。1,380株のうち, いずれかのカルバペネマーゼ遺伝子陽性株は240株(17.4%)であった。この割合は, 2018年17.6%3), 2019年16.5%1)であり, おおむね横ばい状態であった。カルバペネマーゼ遺伝子陽性240株における, カルバペネマーゼ遺伝子型は, IMP型204株(85.0%), NDM型21株(8.8%), KPC型1株(0.4%), OXA-48型2株(0.8%)であった。その他の遺伝子型として, GES型5株(2.1%, 塩基配列決定による遺伝子型別報告内訳GES-5, n=4; GES-24, n=1), IMI型5株(2.1%), KHM型2株(0.8%)が報告された。

 IMP型陽性204株の菌種内訳は, 全国ではE. cloacae complex (n=80, 39.2%), K. pneumoniae (n=72, 35.3%), E. coli (n=25, 12.3%)の順に多いが, 関東甲信静はE. cloacae complex (65.8%), 近畿はK. pneumoniae (54.0%)が最も多かった。IMP型陽性株の57.4%に当たる117株(16道府県)は遺伝子型別報告がなされた。IMP-1は13道府県71株ですべての地域より報告があった。IMP-6は6府県45株で主に東海北陸, 近畿, 中国四国から報告されたが, 2株は関東甲信静からの報告であった。その他の型としてIMP-11が関東甲信静より1株報告された。以上のIMP型検出株の菌種や地域特性は, 2017年以降1-3), 大きな変化はみられていない。

 海外型カルバペネマーゼ遺伝子であるNDM型, KPC型, OXA-48型陽性株はあわせて23株(うち1株はNDM型とOXA-48型の2つの遺伝子陽性)であり, 全報告株数(n=1,380)の1.7%を占め, 2019年の1.6%1)と同等であった。一方で, 23株のうち18株(78.3%)は海外渡航歴のない患者より分離され, この割合は2019年の57.1%1)に比べて増加した。海外渡航歴のない患者から分離された海外型カルバペネマーゼ遺伝子陽性18株の遺伝子型内訳は, NDM型17株(型別報告NDM-1, n=6; NDM-5, n=10; NDM-9, n=1), OXA-48型1株であった。

 病原体検出情報システムに登録された1,380株を, CRE感染症届出患者数1,956例で除した値を報告率とすると70.6%となり, 2019年の77.1%1)に比べてやや減少した。ブロック別報告率は北海道東北新潟88.6%, 関東甲信静70.5%, 東海北陸37.4%, 近畿75.4%, 中国四国73.8%, 九州73.7%であり, すべての地域で2019年に比べて減少した。都道府県別では, 9県において2019年に比べて30%以上の減少がみられた。一部の衛生研究所からは搬入される菌株が減少したとの情報が得られ, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対応の影響で菌株確保が困難となった自治体があったと推察された。全国的かつ継続的なサーベイランス維持のためには, より効率的な体制の検討が望ましいと考えられた。

 
参考文献

国立感染症研究所   
 薬剤耐性研究センター
 感染症疫学センター 
全国地方衛生研究所

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan