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カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(carbapenem-resistant Enterobacteriaceae: CRE)による院内感染事例について

(IASR Vol. 38 p.229-230: 2017年11月号)

千葉市内の医療機関においてカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(carbapenem-resistant Enterobacteriaceae: CRE)の院内感染が発生し, 分離菌株の遺伝学的解析を行ったので, 概要を報告する。

2014(平成26)年2月~2015(平成27)年12月に25人の患者から分離されたEnterobacter cloacae30株を解析対象とした(患者5人については2株ずつ)。30株のうち, 3株は感染症例(図1の*)から, 27株は保菌者からの分離と考えられた。本医療機関でMicroscan Walkawayを使用した微量液体希釈法によって薬剤感受性試験を実施しており, 30株はメロペネムもしくはイミペネムの少なくとも一方のMIC値が2μg/mL以上であった。

当所での検査は, (1)ディスク拡散法によるβ-ラクタマーゼ産生性のスクリーニング, (2)PCR法によるカルバペネマーゼ遺伝子の検出(IMP-1型, IMP-2型, VIM-2型, KPC型, NDM型, OXA-48型の6種), (3)パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)によるタイピング解析を実施した。PFGEは制限酵素SpeIを使用し, BioNumericsを用いて系統樹解析を行った。

結果を図1に示す。30株のうち, 22株においてメルカプト酢酸ナトリウム(SMA)による阻害を利用したメタロ-β-ラクタマーゼ(MBL)産生スクリーニング試験で陽性となり, PCR法によるIMP-1型MBL遺伝子検出結果と一致した。MBL産生スクリーニング試験陰性の8株は, PCR法を実施したカルバペネマーゼ遺伝子は陰性で, 8株のうち7株は, ボロン酸を阻害剤として利用したKPC型カルバペネマーゼおよびAmpC β-ラクタマーゼ産生スクリーニング試験で陽性であった。上述のとおり, KPC型カルバペネマーゼ遺伝子はPCR法で検出されなかったことから, 7株はAmpC β-ラクタマーゼ産生の可能性が考えられた。残り1株は, 「イミペネムMIC値が2μg/mLかつセフメタゾールMIC値が16μg/mL以上」のCRE疑い株であったが, CREではないと思われた。

一方, 30株におけるメロペネムMIC値とイミペネムMIC値を比較すると, 相関性が弱く, IMP-1型MBL遺伝子検出結果はメロペネムMIC値と相関が認められたが, イミペネムMIC値とは相関が認められなかった(図2)。IMP-1型MBL遺伝子検出検査を行うためのスクリーニングには, メロペネムのMIC値を基準にする方が適していると考えられた。

PFGEの結果は, 18株が3つのクラスター(I・II・III)を形成し(図1), いずれもIMP-1型MBL遺伝子陽性株であった。クラスターIに属す菌株は22カ月にわたって分離された。クラスターIII菌株が分離された患者2名(No.6と18)は, 後日, 同時期にクラスターIの株も分離された。さらに, IMP-1型MBL遺伝子の保有株が複数のクラスターにわたっていることから, 2013年に福岡市の医療機関で発生した事例1)でみられた, IMP-1型MBL遺伝子を保有するプラスミドの水平伝達が, 同じEnterobacter cloacae間で起こった可能性も否定できない。一方, クラスターに属さない株が12株あったが, うち8株はIMP-1型MBL遺伝子非検出株であった。

30株は10の病棟(ICUおよびA病棟~I病棟)の入院患者から分離されたが, クラスターを形成した株は, ICU, B病棟, G病棟入院患者分離株に集中しており, ICU, B病棟, G病棟を中心に複数のCRE菌株が拡がったと考えられた。

第三者機関の支援調査等により, 医療機関において, アクティブサーベイランスによる保菌者の把握, 接触感染対策(手指衛生の徹底・診察を介助する医療職員の設置等), 環境衛生管理(清掃・医療器具のゾーニング等), 抗菌薬の適正使用等の結果, 院内感染は終息した。

検査法および解析をご指導くださった国立感染症研究所の松井真理先生, 鈴木里和先生に深謝いたします。

 

参考文献
  1. 安部朋子ら, IASR 35: 289-290, 2014

 

千葉市環境保健研究所
 北橋智子 篠田亮子 鈴木信一 大木旬子 元吉まさ子 都竹豊茂 山本一重
千葉市保健所
 飯島善信 早川克実 舘岡恭子 大山照雄 大塚正毅 山口淳一

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