印刷

 

IASR-logo

感染症法に基づくカルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症の届出状況(2015年1~12月)

(掲載日 2016/09/06)

カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症は、メロペネムなどのカルバペネム系抗菌薬および広域β-ラクタム剤に対して耐性を示すEscherichia coliKlebsiella pneumoniaeなどの腸内細菌科細菌による感染症の総称である。広域β-ラクタム剤以外にも他の複数の系統の薬剤にも耐性であることが多いこと、カルバペネム耐性遺伝子がプラスミドの伝達により複数の菌種に拡散していくことなどにより臨床的にも疫学的にも重要な薬剤耐性菌として、国際的に警戒感が高まっている。日本では、2014年9月19日より感染症法に基づく感染症発生動向調査における5類全数把握疾患となった。本稿では、2015年第1週(1月1日)~第53週(2016年1月3日)の報告例について述べる(2016年1月8日現在)。

上記期間における報告数は計1,669例で、このうち報告時点での死亡例は59例(3.5%)であった。性別は男性が1,042例(62.4%)、診断時の年齢は中央値76歳(四分位値66-83歳)で、65歳以上の高齢者が1,307例(78.3%)であった。一方、10歳未満の小児は37例あり、そのなかでは0歳児が最も多く18例あった()。

都道府県別では東京都241例(14.4%)、大阪府184例(11.0%)、福岡県124例(7.4%)の順に多く、すべての都道府県から1例以上の届出があった。

1,669例のうち、感染症の類型では、尿路感染症33.1%、菌血症・敗血症24.0%、肺炎22.8%の順に多くみられた。検体では、24.9%が血液からの菌の検出を報告した。通常無菌的ではない検体では尿31.5%、喀痰21.1%の順に多くみられた。感染原因としては、以前からの保菌38.7%、医療器具関連感染20.8%、手術部位感染167例10.0%、院内感染4.9%の順に多くみられた(表1)。

菌種としては、1,669例のうち記載がない症例が47例、菌種名以外が記載された症例が12例、対象外の菌種が記載された症例が10例あった。これらを除く1,600例では、Enterobacter cloacae 32.7%、Enterobacter aerogenes 29.2%、K. pneumoniae 12.8%、E. coli 9.4%の順に多く見られた(表2)。

カルバペネム耐性の確認に用いられた薬剤は、イミペネムとセフメタゾール763例(45.7%)、メロペネム462例(27.7%)、両方409例(24.5%)の順に多くみられた。35例(2.1%)では確認に用いた薬剤の記載がなく不明であった。

1,669例中、感染症の類型と検体が明確かつ届出のために必要な検査所見を満たした症例は1,231例(73.8%)であった。このうち962例では届け出られた検体と感染症の類型とが一致すると考えられた。962例の検体の内訳は尿374例(38.9%)、喀痰259例(26.9%)、血液213例(22.1%)、胆汁82例(8.5%)、腹水34例(3.5%)であった。菌種の内訳はE. cloacae 294例(30.6%)、E. aerogenes 279例(29.0%)、K. pneumoniae 121例(12.6%)、E. coli 95例(9.9%)、Serratia marcescens 37例(3.8%)、その他136例(14.1%)であった。962例中死亡が報告されたのは34例(3.5%)で、死亡例と非死亡例との間で年齢、性別、検体の分布に明らかな違いはみられなかった。E. coliK. pneumoniaeE. cloacaeが検出された症例ではE. aerogenesが検出された症例よりも死亡例が多い傾向があった。また、検体を血液に限ると、E. coliが検出された症例でそのほかの菌種よりも死亡例が多い傾向がみられた。

一方、JANIS(厚生労働省院内感染対策サーベイランス)では 2015年1月よりCREが集計対象となった。2014年の試行版では、集計対象となった883医療機関中715医療機関(81.0%)においてCREが分離された。菌種別内訳は、E. cloacaeが36.3%、E. aerogenesが33.2%、K. pneumoniaeが6.5%、S. marcescensが5.0%、E. coliが4.5%であり、発生動向調査の報告例と比較してK. pneumoniaeE. coliの割合が低い傾向があった〔公開情報2014年1月~12月年報(全集計対象医療機関)院内感染対策サーベイランス 検査部門【CLSI 2012試行版】http://www.nih-janis.jp/report/open_report/2014/3/1/ken_Open_Report_201400(clsi2012).pdf〕。これらの差異は、発生動向調査は感染症発症例が対象である一方、JANISは保菌も含む報告であることを反映している可能性があると考えられた。

CRE感染症の発生動向調査が開始され2年が経過しつつある。年間1,500例を超える報告がある中で、各症例のリスク評価に基づく効果的な公衆衛生対応に結びつけていくことが今後の課題である。今後も発生動向調査やJANISの結果の知見を集積し、どのような症例に重点をおいて介入すべきかについて検討することが重要と考えられる。

 

国立感染症研究所 
 実地疫学専門家養成コース
 感染症疫学センター
 細菌第二部

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan