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The topic of This Month Vol.36 No.3(No.421)

デング熱・デング出血熱 2011~2014年

(IASR Vol. 36 p. 33-35: 2015年3月号)

デングウイルスは、フラビウイルス科に分類され、1~4型の4つの血清型がある。デングウイルスは、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)やヒトスジシマカ(Aedes albopictus)の刺咬により人→蚊→人→蚊の感染環において自然界に存在する。ネッタイシカは都市部に多く生息し、ヒトスジシマカは都市部と郊外の両方に生息する。日本では、ヒトスジシマカは国内の広範な地域生息している。人は感染蚊の刺咬後、通常3~7日程度の潜伏期を経て発熱、発疹、疼痛(関節痛)を3主徴とするデング熱を発症する(本号36&9ページ;  IASR 35: 241-242, 2014)。デング熱は熱帯・亜熱帯地域で流している(本号14ページ)。特異的な治療法や実用化されたワクチンはなく(本号12ページ)、輸液や解熱鎮痛薬などで対処する。稀に一部のデング熱患者が、出血、ショック症状を呈し、死に至る危険性もある。適切な治療により致命率を減少させることができる。

感染症発生動向調査:感染症法に基づく感染症発生動向調査では、デング熱は全数把握の4類感染症として診断後直ちに届け出ることが医師に義務付けられている(デング熱・デング出血熱の届出基準はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-19.html参照)。

デング熱(デング出血熱を含む)の報告数は、2007~2009年には年間89~105例であったが、2010年、2012年と2013年は200例以上であった(図1表1)(2004~2010年の状況はIASR 32: 159-160,2011参照)。2014年には約70年ぶりに162例の国内感染例が報告され(本号35&6ページ)、国外感染例(以下輸入例)の179例を含めると計341例が報告された(表1およびhttp://www.niid.go.jp/niid/ja/dengue-m/dengue-iasrs/5410-pr4211.html参照)。近年デングウイルス1型が最も多く検出されている(表2)。2014年に国内で流行した血清型も1型であった(本号3, 5, 6&8ページ)。

患者発生の季節性:例年8~9月に患者の増加が認められる(IASR 32: 159-160, 2011参照 )(図1)。このことは、渡航先のその時期におけるデング熱の流行状況と旅行者数の二つの因子が影響していると考えられる。2014年の国内感染例も162例中133例(82%)が9月に診断されている(図1)。

推定感染地:2011~2014年に診断された輸入例の渡航先は、少なくとも37カ国/地域であった(表3)。2011~2013年に報告された輸入例583例のうち554例(95%)の渡航先は、アジア地域、特に東南アジアであった。例年、インドネシア、フィリピン、タイ、インド、カンボジア、マレーシアなどへ渡航して感染した輸入例が多く、これは渡航先でのデング熱流行状況(本号14ページ)と日本からの渡航者数の多さを反映していると思われる。その他に、中南米、オセアニア、アフリカで感染したと推定された輸入例も報告された。2014年の輸入例179例中165例(92%)の推定感染地はアジア地域であった。2014年に日本で発生したデング熱流行では162例の国内感染例が報告されたが、159例(98%)の推定感染地は東京都であった(本号3&5ページ参照)。

性別と年齢:2011~2014年に報告された輸入例762例の性別は、男471例(62%)、女291例(38%)であり、年齢は20代が218例(29%)、30代201例(26%)、40代126例(17%)であった(図2)。2014年の国内感染例の性別も、162例中95例(59%)が男性であり、男性患者が多かった。国内感染例の年齢は4~77歳(中央値27歳)であり、幅広い年齢層で国内感染が認められた(図2)。

デング出血熱:近年、報告されている輸入例(デング熱・デング出血熱症例)の約5%がデング出血熱を発症していた〔2011年4/113 (4%)、2012年13/221 (6%)、2013年11/249 (4%)、2014年8/179(4%)〕(表1)。2011~2014年に報告されたデング出血熱症例37例の年齢は3~64歳(中央値32歳)で、この期間に報告された全輸入例(デング熱・デング出血熱症例)に占めるデング出血熱の割合には、男女差はなかった〔男23/471 (5%)、女13/291(4%)〕。2014年の国内流行では、162例の国内感染例のうち、デング出血熱を発症した患者は1例(1%)であった。2011~2014年においては死亡例の報告はなかった。

実験室診断:ウイルス分離検査、RT-PCRによる遺伝子検査、血清学的検査(IgM抗体検出、中和抗体検出など)のデング熱実験室診断は、地方衛生研究所(地衛研)、国立感染症研究所において実施可能である(本号8ページ)。検疫法の改正により2003年11月にデング熱が検疫感染症に加えられ、検疫所では流行地域からの入国者を対象に健康相談および必要に応じて検査がなされている(IASR 35: 112-114, 2014)。2013年4月に感染症発生動向調査の届出基準におけるデング熱診断方法に非構造タンパクNS1抗原検出法が追加され(平成25年3月7日健感発0307第2号厚生労働省健康局結核感染症課長通知)、その迅速診断検査キットが2014年のデング熱国内流行時に地衛研等に配布された(本号8&9ページ)。2013年以降では、RT-PCRによる遺伝子検出、IgM抗体検出、非構造タンパクNS1抗原検出により実験室診断される例が大半である(表4)。

わが国での対策:デングウイルス媒介蚊のひとつであるヒトスジシマカが日本国内に生息すること(本号10ページ)、また、海外の流行地で感染した者が入国する例が増加傾向にあることから、国内で蚊と人の間で感染環が成立し、これからも国内でデング熱が発生・流行する可能性がある。2014年の国内流行時には日本でデングウイルスに感染し、帰国先でデング熱を発症したいわゆる輸出例も報告されている(本号7ページ)。国際化が進み人の移動が盛んになっていることから、デング熱流行の予防と対策は非流行国である日本においても重要である。

蚊媒介感染症のまん延防止等のために、厚生労働省は「蚊媒介感染症に関する特定感染症予防指針」を2015年4月中に告示する予定である。本指針においては、デング熱とチクングニア熱(本号15&16ページ)対策の重要な軸として、平時から感染症を媒介する蚊の対策を行うこと、国内において蚊媒介感染症例の発生を迅速に把握すること、発生時に的確な媒介蚊の対策を行うこと、患者に適切な医療を提供することが挙げられている。デング熱の発生・流行の対策には、医療関係者、行政関係者、国民が協力してその予防に取り組んでいくことが求められる。

 

 

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