印刷
IASR-logo

喘息様症状での入院者数とエンテロウイルスD68型流行との関連―さいたま市

(掲載日 2015/12/7)   (IASR Vol. 37 p. 13-14: 2016年1月号)

2015年秋は当院1)を含む全国各地で重篤な喘息様症状での入院が多発2-5)し、その一部の呼吸器検体からエンテロウイルスD68型(EV-D68)が検出された。喘息様症状の多発とEV-D68との因果関係が示唆され、喘息様症状と感染症情報とを連動させたサーベイランスの必要性が指摘された5)。そこで今回は当院に過去に入院した喘息様症状患者の原因ウイルスを分析した。

当院で2009年3月の開院から2015年10月までに何らかの喘息様症状を認めて気管支喘息発作または喘息性気管支炎と診断された入院患者のうち、迅速検査が実施可能なRSウイルス感染症を除いた707人(男443/女264)・885入院(104人が複数回入院)を対象に検討した。月別の入院数を比較すると2015年9月が突出して増加していた(図1)。

続いて喘息様症状の入院患者からのウイルス検出数をまとめた。2013年1月以降の計469入院例のうち136例(29%)でウイルス検査を実施し、うち127例からのべ148のウイルス(重複を含む)が検出された。ライノウイルスが73例(54%)と圧倒的に多く、以下にEV-D68が19例、ヒトメタニューモウイルス12例、パラインフルエンザウイルス12例、RSウイルス8例(迅速検査では陰性)と続いた。特に検出数の多かったライノウイルスとEV-D68を月別に示す(図2)と、ライノウイルスは年間を通じて検出されていたのに対して、EV-D68は2013年と2015年の秋に集中していた。2015年の結果を週ごとに示すと、喘息様症状での入院者数がピークとなった第37~38週においては、必ずしも全症例での検査を行っていないが〔入院32例のうち検査実施は7例(22%)〕、EV-D68はこの時期に検出された唯一のウイルスであった。2015年10月中旬以降はEV-D68は検出されず、ライノウイルスの検出数が増加した。

喘息様症状の入院患者以外に、喘息様症状のなかった患者(急性弛緩性脊髄炎1例1)を含む)や、喘息様症状があっても外来通院した患者1)、他院へ入院した患者を含め、EV-D68は2013年11例、2015年17例が陽性であった。うち、解析が可能であった2013年7例、2015年10例についてEV-D68の系統樹解析の結果を示す(図3)。2015年の株は急性弛緩性脊髄炎1)の症例も含めてすべてlineage 2に含まれていた。これは2014年の米国、2015年の東京都2)、広島市3)と近縁のものであった。

※EV-D68同定および系統樹解析方法
さいたま市健康科学研究センターで検査を実施した。検体からRNAを抽出した後、CODEHOP PCR法6)によりエンテロウイルスVP1領域遺伝子を増幅した。増幅した遺伝子を用いてダイレクトシーケンスを行い塩基配列の決定を行った。得られた塩基配列についてBLAST検索による相同性検索を実施した結果、EV-D68と同定された。

EV-D68のVP1領域340塩基配列が得られた検体については、さらにMEGA6を用いた分子系統樹解析(NJ法)を行った。

謝辞:ウイルス検査を実施していただいた、さいたま市健康科学研究センターに深謝いたします。

 
参考文献
  1. 豊福悦史, 他, エンテロウイルスD68型が検出された、急性弛緩性脊髄炎を含む8症例―さいたま市, IASR 36: 226-227, 2015
  2. 伊藤健太, 他, エンテロウイルスD68型が検出された小児4症例―東京都, IASR 36: 193-195, 2015
  3. 藤井慶樹, 他, 喘息症状を呈する患者からのエンテロウイルス68型(EV-D68)の検出―広島市, IASR 36: 249-250, 2015
  4. 幾瀬 樹, 他, 気管支喘息発作の急増とエンテロウイルスD68型陽性―鶴岡市, IASR 36: 248-249, 2015
  5. 伊藤卓洋, 他, 2015年秋における小児の喘息発作入院増加とエンテロウイルスD68型流行との関連―三重県津市, IASR 36: 250-252, 2015
  6. Nix WA, et al., J Clin Microbiol 44: 2698-2704, 2006
 
さいたま市民医療センター小児科
  豊福悦史 益田大幸 谷口留美 小島あきら 越野由紀 野田あんず 古谷憲孝
  西本 創 高見澤勝
 

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan