国立感染症研究所

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急性脳炎および急性弛緩性麻痺患者からのエンテロウイルスD68型の検出―広島市

(掲載日 2018/11/9)

エンテロウイルスD68型(以下、EV-D68)は主に喘息や気管支炎といった呼吸器疾患の起因病原体であるが、一方で、急性弛緩性麻痺等の神経症状を呈する患者からの検出も報告されている1-3)。また、乳飲みマウスを用いたEV-D68の接種試験により、前肢および後肢に弛緩性麻痺が発現することが報告されており4)、中枢神経系疾患との関連性も示唆される。

本市において、2018年9月に気管支喘息等の呼吸器疾患患者からEV-D68が相次いで検出された。さらに、時期を同じくして、急性脳炎及び急性弛緩性麻痺の届出があり、両症例について、病原体検索を行ったところ、EV-D68が検出された。以下、その概要について報告する。

症例1(脳幹脳炎):6歳1か月齢の男児。先行症状として発熱あり、その後、嚥下障害、起立困難を発症。MRI検査にて脳幹脳炎と診断され、届出。咽頭ぬぐい液、髄液、尿、糞便検体(検体採取日:咽頭ぬぐい液・髄液・尿⇒第6病日、糞便⇒第8病日)を検査し、咽頭ぬぐい液からEV-D68遺伝子を検出。第36病日現在、症状改善は不十分であり入院中。

症例2(急性弛緩性麻痺):4か月齢の男児。先行症状として発熱、感冒様症状あり、その後、顔面麻痺、球麻痺、両上肢麻痺が出現。急性弛緩性麻痺と診断され、届出。咽頭ぬぐい液、糞便、鼻汁、髄液検体(検体採取日:咽頭ぬぐい液・糞便・鼻汁⇒第1病日、髄液⇒第6病日)を検査し、咽頭ぬぐい液、糞便、鼻汁からEV-D68遺伝子を検出。第23病日に退院、麻痺症状が残存しているためリハビリ継続中。

両症例とも、髄液からEV-D68遺伝子は検出されなかった。両症例および同時期に呼吸器疾患患者から検出された16株のEV-D68について、VP1領域遺伝子の近隣結合法による系統樹解析を行った結果()、すべてlineage2に分類された。さらに、これらの2018年本市検出株は、2株を除いて、Bootstrap値90%以上で3つの単系統群(A~C)に分岐した。脳幹脳炎および急性弛緩性麻痺患者から検出された株は系統群Cに属したが、呼吸器疾患患者から検出された株の一部も同系統群に属しており、VP1領域の一部の遺伝子解析では大きな差は認められなかった。系統群CのEV-D68の中に中枢神経系に親和性のある株が存在するのか、あるいは、同じlineage2に属する系統群C以外のEV-D68にも同様の性状を持つ株が存在するのかどうかも含め、今後さらなる研究が必要と考えられる。

2015年に本市において呼吸器疾患患者からEV-D68が多数検出された際には、急性弛緩性麻痺患者等の発生は探知できなかった5)。しかし、2018年5月1日から、急性弛緩性麻痺が全数把握の5類感染症として届出が義務づけられ、患者の発生を探知できる機会は拡がった。このような法的整備のもとで、急性脳炎や急性弛緩性麻痺患者から検体を採取し、病原体検索を実施できたことは、今後これらの疾患の原因究明等に大きく貢献できるものと考えられる。

 

文 献

 

広島市衛生研究所生物科学部
 則常浩太 福永 愛 兼重泰弘 藤井慶樹 坂本 綾
地方独立行政法人広島市立病院機構広島市立舟入市民病院小児科
 松原啓太

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