国立感染症研究所

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大阪府における急性弛緩性麻痺患者の検査状況とEV-D68が検出された患者の症例報告

(IASR Vol. 40 p31-32: 2019年2月号)

急性弛緩性麻痺は, 2018年5月1日より「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下, 感染症法と略す)の5類全数把握疾患となった。全国的に第34週より届出数が増加し, 第47週までに118名が報告されている。大阪府内(政令市, 中核市含む)では5名の届出があったが(図1), 大阪健康安全基盤研究所森ノ宮センターでは届出数より多い7名に検査を実施した。これは, 感染症法上の届出の対象年齢外である15歳以上の患者に対しても検査を実施したためである。届出対象外となると, 一般的には行政検査対象となりにくく, このため流行の見逃しにつながるおそれがある。今回, 患者が受診した大阪府保健所管内の医療機関から搬入された3名分のうち2名の呼吸器由来検体からエンテロウイルスD68(EV-D68) が検出された。EV-D68は下気道炎をはじめとする呼吸器症状の原因ウイルスとして知られているが, 近年, 急性弛緩性麻痺との関連が疑われている。検査を実施した3名のうち2名については届出対象年齢外であり, 届出がなされていない。今回, 我々は, 大阪府保健所管内の医療機関で発生した3名の患者の情報とそのうち2名より検出されたEV-D68の近隣結合法による近縁系統樹解析を実施したので報告する。

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エンテロウイルスD68型(EV-D68)に関する国内の疫学状況のまとめ(更新)(2016年1月20日現在)

(IASR Vol. 37 p. 33-35: 2016年2月号)

エンテロウイルスD68型(EV-D68あるはEV68などと表記される)は、ピコルナウイルス科エンテロウイルス属のエンテロウイルスD群に属するエンベロープを持たないRNAウイルスである。エンテロウイルス属には、ポリオウイルス(エンテロウイルスC群)や、 無菌性髄膜炎の原因となるエコーウイルス(エンテロウイルスB群)、手足口病の原因となりうるエンテロウイルス(EV)71型(エンテロウイルスA群)などが含まれる。EV-D68に感染した場合、無症候もあるが、発症した場合の主な臨床所見は呼吸器症状であり、鼻汁、くしゃみ、咳といった軽度なものから喘息様発作、呼吸困難や肺炎等の重度のものまで様々な症状を呈する。EV-D68感染の診断には、鼻咽頭検体からのウイルス検査などの実験室診断が必要となる。

2014年の米国でのEV-D68感染症の大規模流行をうけ1)、2014年にわが国におけるEV-D68 の検出状況について報告した2)が、今回は2015年の国内状況を含めた更新情報をまとめた。

国内における検出状況
2005~2015年(2016年1月20日現在報告)までに、わが国では35都府県から538例のEV-D68検出の報告があった(2005年2例、2006年2例、2007年8例、2008年報告なし、2009年4例、2010年129例、2011年3例、2012年1例、2013年122例、2014年9例、2015年258例)。2009年までは年間に数例程度の報告であったが、2010年には20府県から129例、2013年には26都府県から122例、2015年には28都府県から258例報告された。報告数の多い年をみると、夏から秋にかけて検出が増加していたが、2015年は9月が突出していた(図1)(2005年1月~2015年12月の月別報告数はhttp://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/rapid/topics/ev68/151006/ev68mon_160120.gif、都道府県別報告状況はhttp://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/rapid/topics/ev68/151006/ev68_160120.gif参照)。

性別は、男性55%、女性45%であった(性別不明9例を除く)。症例の年齢は1歳が18%と最も多く、0歳が16%、2歳、3歳がそれぞれ12%で、0~6歳で80%を占めた(年齢中央値:3歳、範囲:0~53歳)(図2)。年齢群別では、0~4歳68%、5~9歳21%、10~14歳8.1%、15~19歳0.8%、20歳以上1.7%であった。20歳以上(9例)の検出は、2010年1例、2012年1例、2013年3例、2015年4例であった。

EV-D68検出検体が採取された医療機関は、小児科定点(後述)が53%(n=287)、基幹定点が7%(n=36)、定点以外が40%(n=214)であった。

臨床診断名:病原体個票に記載された診断名は、下気道炎が214例(40%)と最も多く、次いで上気道炎101例(19%)、気管支喘息84例(16%)等で、7割以上が呼吸器疾患と診断されていた(表1)。急性弛緩性麻痺2例(ともに2015年)、急性片麻痺1例(2006年)、末梢神経麻痺1例(2010年)、脊髄炎1例(2015年)あった。その他に、心肺停止(死亡例)2例(2010年、2013年)や、ボルンホルム病(流行性筋痛症)2例(ともに2013年)、Hopkins症候群疑い1例(2015年)等が含まれていた。20歳以上の症例の診断名は、下気道炎4例、上気道炎3例、発疹症1例、不明1例であった(各年の臨床診断名別の割合はhttp://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/rapid/topics/ev68/151006/ev68en_160120.gif参照)。

EV-D68検出症例の疫学的な発生状況は、散発が480例(89%)、地域流行が28例(5%)、家族内発生が25例(5%)、集団発生14例(3%)であった(重複あり)。集団発生と記載された症例は、2010年2例、2013年3例、2015年9例で、2010年の幼稚園・小学校における上気道炎、2013年の保育所における集団発生(診断名不明)、2015年の保育所におけるRSウイルス感染症やかぜ症候群、小学校における下気道炎等からの検出であった。

臨床症状:病原体個票に記載された臨床症状の上位は、発熱が402例(75%)、下気道炎症状(肺炎、気管支炎を含む)が285例(53%)、上気道炎症状が122例(23%)、胃腸炎症状が35例(7%)、発疹30例(7%)、口内炎15例(3%)、結膜炎9例(2%)等であった(重複あり)(参考表)。その他に、熱性けいれん6例、意識障害6例、髄膜炎5例、麻痺4例(診断名を含めると8例)、脳炎3例、脊髄炎2例等が報告されていた。発疹や口内炎などの症状は、主に手足口病と診断された症例から報告されていた。その他に、症状もしくは診断名に喘息・喘鳴と記載された症例が113例(21%)あった。

検体・検出方法:522例(97%)がPCR等によりEV-D68の遺伝子が検出され〔検体は咽頭ぬぐい液504例(97%)、喀痰・気管吸引液11例(2%)、糞便10例(2%)、血液3例、皮膚病巣1例、結膜ぬぐい液1例(重複あり)〕、そのうち484例(93%)はシークエンスにより、38例(7%)はリアルタイムPCR等によりEV-D68と同定されていた。糞便から検出された症例の診断名は、感染性胃腸炎、急性脳炎、急性片麻痺等であった。

培養細胞等による分離により検出・同定された症例は56例(10%)〔分離検体は咽頭ぬぐい液52例(93%)、喀痰・気管吸引液3例、糞便1例〕で(検査法の重複あり)、分離培養に用いられた細胞として、FL(15)、CaCo-2(14)、A549(11)、RD-A(9)、RD18S(4)、Vero(4)、動物(3)、HEF(2)、HeLa(1)、LLC-MK2(1)(※細胞の重複あり)などが主に記載されていた。

発症日から検体採取日までの日数は、発症日不明(n=24)を除く514例中、1日が最も多く36%、次いで2日が18%、0日が14%で、80%が発症日から0~3日、95%が7日以内に検体が採取されていた(図3)。また、同一症例から他の病原体も検出された症例が17%(93/538例)あった。

わが国では、小児科定点(全国約3,000の医療機関)の約10%および基幹定点(全国約500カ所の病床数300以上の医療機関)を病原体定点として、必要に応じて患者より検体を採取し、全国の地方衛生研究所(地衛研)において病原体サーベイランスが行われている。検出された病原体に関する情報は、地衛研から感染症サーベイランスシステム(NESID)の病原微生物検出情報(IASR)に病原体個票等により報告されている。EV-D68による感染症は呼吸器疾患が多く、NESID病原体サーベイランス*の主たる対象疾患ではないため、自主的な病原体検索を行った地衛研から調査・研究結果に基づいて報告された場合が多く、また、EV-D68はすべての自治体の検査機関(地衛研など)で検査が行われているわけではない(*病原体サーベイランス対象疾患はhttp://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-sp/2308-related-articles/related-articles-424/5738-dj4241.html参照)。

米国において2014年8月~2015年1月にかけてEV-D68感染に伴う小児の重症呼吸不全症が1,000例以上報告され、その一部に弛緩性麻痺症状がみられたと報告された1,3)。現時点では麻痺症状とEV-D68の因果関係は不明である。わが国においても、2014年後半から全国の各医療機関や地衛研からEV-D68検出の報告が相次いだ4-14)。多くは喘息などの重症呼吸疾患からの検出で、急性弛緩性脊髄炎や弛緩性麻痺等の症例も報告されたが、すべて呼吸器検体からのEV-D68検出であった。上述のような状況から、2015年は病原体サーベイランスにおいて検査検体数が増加した可能性もあるが、EV-D68が小児における呼吸器疾患の重要な要因であることが示唆された。また、EV-D68が引き起こす様々な病態を理解する上でも病原体サーベイランスは非常に有用であると考える。

謝辞:病原体サーベイランスにご協力いただいている全国の衛生研究所、保健所、医療機関の皆様に感謝申し上げます。

参考文献
  1. CDC, Enterovirus D68
    http://www.cdc.gov/non-polio-enterovirus/about/ev-d68.html
  2. 国立感染症研究所感染症疫学センター, 他, エンテロウイルス68型に関する主な知見と国内の疫学状況のまとめ(2014年11月4日現在)
    http://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/a/ev-d68/2335-idsc/iasr-news/5167-pr4181.html
  3. US CDC, Statement from the U.S. Centers for Disease Control and Prevention,
    http://s3.documentcloud.org/documents/1061769/statement-from-the-u.pdf
  4. 島津幸枝, 他, IASR 35: 295-296, 2014
  5. 伊藤健太, 他, IASR 36: 193-195, 2015
  6. 豊福悦史, 他, IASR 36: 226-227, 2015
  7. 改田 厚, 他, IASR 36: 247-248, 2015
  8. 幾瀬 樹, 他, IASR 36: 248-249, 2015
  9. 藤井慶樹, 他, IASR 36: 249-250, 2015
  10. 伊藤卓洋, 他, IASR 36: 250-252, 2015
  11. 筒井理華, 他, IASR 37: 12-13, 2016
  12. 豊福悦史, 他, IASR 37: 13-14, 2016
  13. 川村和久, 他, IASR 37: 14-15, 2016
  14. 厚生労働省健康局結核感染症課, 【事務連絡】急性 弛緩性麻痺(AFP)を認める症例の実態把握について(協力依頼)
    http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20151021_AFP.pdf

国立感染症研究所
   感染症疫学センター
   ウイルス第二部

 

 

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エンテロウイルスD68型流行期における小児気管支喘息発作例の全国調査

(IASR Vol. 37 p. 31-33: 2016年2月号)

目 的
2015年9月、全国的に喘息発作入院が増加し、一方で、各地で急性弛緩性麻痺(AFP)の散発が報告された1)。いずれもエンテロウイルスD68型(EV-D68)との関連が疑われている。AFPについては、日本小児神経学会が迅速に調査を開始し、疾患の重篤度からも、積極的疫学調査を行うことが厚生労働省事務連絡で通達された。しかし、喘息については病原微生物検出情報(IASR)への重篤例の報告以来2)、関連を示唆する報告が続き3-5)、調査の必要性が議論されたが、2015年を多発とするベースラインデータも存在しないことから積極的調査の対象とはならなかった。そこで、日本小児アレルギー学会は、喘息入院例を対象にした全国調査を行った。

方 法
2015年11月~2016年1月に日本小児アレルギー学会員の所属機関および推薦する基幹病院を対象に、2010年1月~2015年10月までの気管支喘息(喘息様気管支炎を含む)での入院症例、ICU管理例、人工呼吸管理例(nasal high flow、nasal CPAP例を含む)の報告を、月別、性別、年齢層別(0~2歳、3~6歳、7~12歳、13~19歳)に依頼した。また、2015年においては、喘息発作例におけるウイルス検索例とEV-D68検出例、AFP症例と、うち喘鳴を伴った例の報告を依頼した。調査依頼はホームページ上、日本小児アレルギー学会員のメーリングリスト等や日本小児アレルギー学会学術大会での緊急フォーラムで行い、所定のフォーマットファイルに入力したものを、学会事務局にあてメールでの回答を依頼した。

結 果
2016年1月11日までに全国131施設から回答を得た。喘息発作入院数77,281例、ICU管理例391例、人工呼吸管理例1,142例であった。調査期間中の欠落データがない120施設においては、2015年9月が入院例数(2,260例)、ICU管理例数(21例)、人工呼吸管理例数(55例)ともに最多であった()。

この月の入院例数は0~2歳728例、3~6歳1,002例、7~12歳451例、13~19歳79例、ICU管理例数は0~2歳6例(0.8%)、3~6歳8例(0.8%)、7~12歳5例(1.1%)、13~19歳2例(2.5%)、人工呼吸管理例数は0~2歳18例(2.5%)、3~6歳22例(2.2%)、7~12歳13例(2.9%)、13~19歳2例(2.5%)で、入院例数は3~6歳が多い一方、ICU管理率、人工呼吸管理率は7~12歳、13~19歳が多かった。また、性別(男/女)では、入院例数1,319/941例、ICU管理例数6/15例、人工呼吸管理例数25/30例と、男児の入院が多い一方、女児に重症化の傾向がみられた。

2010年以降、2015年9月の入院例数が最多であった全国調査の傾向は、年齢層3~6歳、7~12歳の結果が反映されていたが、0~2歳、13~19歳ではその傾向はみられなかった。同じく、2015年9月の喘息発作入院例数が最多の傾向は、関東、甲信越、北陸、東海、中国、四国地域でみられたが、北海道、東北、関西、九州地域では明らかではなかった。

2015年の喘息発作例に対するウイルス検索は237例で実施され、55例にEV-D68が検出された。9月に検査が行われた施設におけるEV-D68検出率は、9月が125例中41例(33%)、10月が89例中9例(10%)であった。9月に検索が行われたが、EV-D68が検出されなかった地域では9月の入院増加ピークがみられなかった。

また、回答施設における2015年のAFP症例は18例あったが、喘鳴を伴ったのは4例のみであった。

考 察
EV-D68は、ピコルナウイルス科エンテロウイルス属のエンベロープを持たないRNAウイルスで、夏から秋に多く発生し、感冒、下気道炎、喘鳴など様々な所見を呈す。米国では、2014年8月、ミズーリ州とイリノイ州の病院から、重症呼吸器疾患による入院症例の増加と、その中からEV-D68の検出があった6)。2015年1月までに累積1,153例のEV-D68の確定患者が発生した。同じく2014年8~9月にAFP 9例からEV-D68が検出されている7)

今回、日本において、2015年9月に、2010年以降、最多の喘息入院例、ICU管理例、人工呼吸管理例の増加がみられた。日本では2015年の他、2010年と2013年にEV-D68が流行しており8-10)、2010年も2015年に次ぐ喘息入院例、ICU管理例、人工呼吸管理例の増加がみられていたことは興味深い。ウイルス検索を行った施設は少ないものの、EV-D68の検出率から鑑みると、2015年9月にEV-D68が流行したこと、これが小児の喘息入院増加に関与していたことが示唆された。

地域差については、自発的な協力依頼であったため、報告された施設の地域分布に偏りがあり、明確な結論はだせないが、喘息発作のピークには地域差がある可能性が示唆された。

さらに、EV-D68によるAFPの増加が懸念されたが、今回、AFPを呈した症例は18例で、うちEV-D68陽性例は4例、うち喘鳴を呈したのは1例しかなかった。EV-D68はAFPや喘息発作の原因となることが示唆されているが、両者が併発する症例は少ない可能性がある。これに関しては、疫学および病態学の両面からさらなる検討が必要と思われる。

結 論 
今回、日本で初めて実施した喘息発作調査により、EV-D68は重症喘息発作の流行を惹起する重要なウイルスであることが示唆された。最近、抗炎症療法の普及で喘息の管理は向上したとされるが、今回の調査で明らかになったように、急性増悪による入院は未だ非常に多く、その疾病負担は大きい。そして、これが感染症流行によって、あたかもエピデミックのごとき様相を呈することにも注目すべきである。喘息は環境因子の影響を強く受け、特に急性増悪は気道感染症のインパクトが大きい。今回はレトロスペクティブな調査であったが、今後は、感染症サーベイランスと連動させながら、喘息発作入院動向を前向きにモニターすれば、気道感染症流行の重大なアウトカムの一つとしての喘息急性増悪対策に大きく貢献することができると考える。

謝辞:今回の調査に迅速なご協力をいただき、貴重なデータを提供していただいた全国131施設の先生方に深謝申し上げます。

 
参考文献
  1. 豊福悦史, 他, IASR 36: 226-227, 2015
  2. 伊藤健太, 他, IASR 36: 193-195, 2015
  3. 幾瀬 樹, 他, IASR 36: 248-249, 2015
  4. 藤井慶樹, 他, IASR 36: 249-250, 2015
  5. 伊藤卓洋, 他, IASR 36: 250-252, 2015
  6. Midgley CM, et al., MMWR 63: 798-799, 2014
  7. Messacar K, et al., Lancet 385: 1662-1671, 2015
  8. Kaida A, et al., Emerg Infect Dis 17: 1494-1497, 2011
  9. Hasegawa S, et al., Allergy 66: 1618-1620, 2011
  10. Ikeda T, et al., Microbiol Immunol 56: 139-143, 2012

日本小児アレルギー学会
  是松聖悟 三浦克志 長谷川俊史 長尾みづほ 
  中村晴奈 杉浦至郎 岡田賢司 藤澤隆夫

 

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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