国立感染症研究所

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ナグビブリオによる食中毒事例について―大分県

(IASR Vol. 35 p. 134-135: 2014年5月号)

2013年9月、同年10月とVibrio cholerae non-O1&non-O139(ナグビブリオ)による食中毒事例が連続したので、その概要について報告する。

事例1:2013年9月17日9時15分、大分県K市内の医療機関から敬老会の仕出し弁当を食べた人が下痢などの食中毒様症状を呈している旨の届出があり、管轄保健所が直ちに調査を開始した。調査の結果、9月15日、16日に開催された敬老会において11地区で提供された仕出し弁当750食を、一部の人は自宅へ持ち帰り、計846名が摂食し、そのうち396名が下痢、腹痛などの食中毒様症状を呈していることが判明した。潜伏時間は6~48時間、平均26.6時間であった。

患者便7検体中6検体からVibrio choleraeが検出され、うち1検体は、同時にSalmonella Mbandaka(O7:z10:e,n,z15)が検出された。同検体については菌分離には至らなかったものの腸管毒素原性大腸菌(ETEC)ST遺伝子の存在も確認された。増菌培養液からV. cholerae表1)およびコレラ菌関連遺伝子(O1、O139、CT)のマルチプレックスPCRスクリーニング(表2)を実施した結果、V. choleraeの特異的な遺伝子の保有は確認されたが、O1、O139、CT遺伝子の保有は認められなかった。確認のため、生化学的性状からV. choleraeと同定された分離株について、コレラ菌免疫血清O1混合血清、ビブリオコレラ免疫血清O139“Bengal”の凝集反応を実施したが、ともに凝集は認められず、CT遺伝子も保有していなかった。また、本事例において分離されたV. choleraeの特徴として、TCBS寒天平板上には白糖分解の2mm程度大の黄色コロニーを形成するものの、クロモアガービブリオ寒天平板の20時間培養では、V. choleraeに特徴的な「青みどり」の発色が認められず、V. choleraeではないと誤判断されるような発育状況であった。

患者便検査の結果、ナグビブリオを原因菌とする食中毒であることが強く疑われたため、直ちに検食(残品の仕出し弁当)について、V. choleraeの汚染状況の検査を開始した。V. cholerae以外の好塩菌の増殖を抑制するために、低いNaCl濃度のアルカリペプトン水で一次増菌後、短い培養時間で二次増菌への植え継ぎをするなど選択増菌への工夫を行った。すなわち、試料に0.2%NaCl加アルカリペプトン水を混和し36℃ 18時間の培養を行い、その1白金耳量を0.25%NaCl加アルカリペプトン水に継代、36℃ 8時間後、その1白金耳量を選択分離培地に画線塗抹し、培養した。その結果、ニシ貝のみからV. choleraeが検出され、患者便から検出された当該菌と同様、ナグビブリオと同定された。

患者便とニシ貝から検出された菌株について、血清型や遺伝子型などの詳細な検査を国立感染症研究所(感染研)に依頼した。その結果、患者便由来株はV.cholerae O144、ニシ貝由来株はV.cholerae O49、OUTと判明し、遺伝子型もそれぞれに異なっていた。しかし、その後、仕出し屋に冷凍保管されていた同一ロットのニシ貝スライスの検査を実施した結果、V.choleraeが検出され、ナグビブリオと同定されたため、感染研に菌株を追加送付した。送付菌株のうち、数株が患者便由来株と同じ血清型V.cholerae O144で、遺伝子型も同一パターンを示した。

患者便から当該菌以外にサルモネラ属菌等も検出されたものの7名中1名であり、主な原因菌とは考えられないことや、感染研によるV.choleraeの血清型や遺伝子解析の結果から、本事例はニシ貝を原因食品とするナグビブリオによる食中毒事件として処理・報告された。また、他県においても、同ニシ貝スライスの加工品を摂食したことによるナグビブリオ食中毒事件が発生していることが判明し、同一ロット製品は回収されることとなった。

事例2:製品回収後の2013年10月17日、大分県BT市の葬儀社の責任者から、葬儀の食事で体調不良者が数名いる旨、管轄保健所に相談があった。管轄保健所による調査の結果、10月14日の葬儀に参列し、食事をした49名中32名が腹痛や下痢などの食中毒様症状を呈していることが判明した。提供された食事は、葬儀社からA仕出し屋に外注されたもので、先にK市内で発生した食中毒事件と同じニシ貝スライス(別ロット)が提供されていた。

患者便7検体中2検体からナグビブリオが、3検体から腸管凝集付着性大腸菌(EAggEC) 86a、EAggEC OUTが、1検体からETEC O27(ST)が検出された。今回の事例においては、患者便からETEC、EAggECも検出されたため、未開封のニシ貝スライスについてV.choleraeに併せて同菌も対象として検査を実施した。その結果、未開封のニシ貝スライスからナグビブリオ(110~3,600cfu/100g)が検出され、菌分離には至らなかったもののETECのST遺伝子、EPEC等のeae遺伝子が検出された。ニシ貝スライスの汚染状況の把握のために一般細菌数および大腸菌群数、大腸菌数の測定を行った結果、一般細菌数が3.3~5.1×108cfu/g、大腸菌群数が1.2~2.1×107cfu/g、大腸菌数5.0~5.5×106cfu/gであった。

前回の事例と本事例との関連を精査するため、患者便およびニシ貝スライスから検出されたナグビブリオを感染研に送付した。その結果、患者便由来株は血清型V.cholerae O144、ニシ貝スライス由来株の数株が同じ血清型V.cholerae O144であり、遺伝子型も同一パターンを示した。

ニシ貝スライスの原材料となったニシ貝はメキシコ産で、産地工場にてむきみの状態から内臓を除去、水洗しブランチング後、包装、凍結、梱包されていた。ニシ貝仕入れ後、「ニシ貝スライス」への加工段階での加熱不足や消毒不十分により、除去できなかった病原菌が味付け加工段階、輸送流通時や提供時の温度管理の不備により、発症菌量にまで増殖したと考えられる。事例2は回収漏れの製品から食中毒事故が起きており、ロット管理の曖昧さも指摘された。いわゆる冷凍食品ではない、冷凍で流通する食品には規格基準がない。今後、冷凍で流通する食品の安全確保に向けた取り組みの必要性を感じた。

 

大分県衛生環境研究センター
   緒方喜久代 佐々木麻里 成松浩志
大分県東部保健所 検査課
国立感染症研究所   
   荒川英二 泉谷秀昌 大西 真

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