国立感染症研究所

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<速報>2013年度の侵襲性肺炎球菌感染症の患者発生動向と成人患者由来の原因菌の血清型分布
―成人における血清型置換(serotype replacement)について―

(掲載日 2014/6/9)  (IASR Vol. 35 p. 179-181: 2014年7月号)

背 景:7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)は2009年10月にわが国で承認され、2010年11月に小児に対するPCV7の公費助成が開始された。その後、2013年4月からPCV7は5歳未満の小児を対象に定期接種化(A類)され、さらに2013年11月からはPCV7は13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)に切り替わった。一方、2014年10月からは65歳以上と、60歳以上65歳未満の者で心臓、腎臓もしくは呼吸器の機能の障害またはヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害を有する者として厚生労働省令で定める者の高齢者に対する23価肺炎球菌ワクチン(PPSV23)の定期接種化が予定されている。さらに、2014年6月にPCV13の65歳以上の成人に対する適応が追加された。このような状況から、小児・成人における肺炎球菌ワクチンの効果を監視する目的で、2013年4月、侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal disease: IPD)が感染症法に基づく感染症発生動向調査において5類感染症全数把握疾患(以下、5類全数把握疾患)となった。また、2013年度から厚生労働省指定研究班「成人の重症肺炎サーベイランス構築に関する研究」(成人IPD研究班:研究代表者:大石和徳)が発足し1)、10道県における成人IPD患者の原因菌の血清型分布の調査を開始した。また、厚生労働省の感染症流行予測調査事業として、2013年度からIPD患者の感染源調査が始まり、2013年度は大阪府で実施された。今回、2013年度のIPD患者発生動向と成人IPD患者由来の原因菌の血清型分布について報告する。

方 法:感染症サーベイランスシステム(NESID)に2013年4月1日~2014年3月31日までに登録された症例に対し、患者の性別・年齢、症状や診断状況および病型などの疫学情報を既報2)に従って集計した。また、医療機関でIPD患者の血液、髄液検体から分離された肺炎球菌株を収集し、国立感染症研究所細菌第一部および大阪府立公衆衛生研究所において、血清型を決定した。

結 果:2013年4月からの1年間の総IPD報告症例数は1,481例であった。表1にはIPD年齢別の症例数、罹患率、および届出時点での致命率を示した。図1にはIPDの年齢別構成を臨床病型別に示した。年齢構成は、5歳未満の小児と60歳以上の高齢者に症例の集積があり、二峰性の分布を示した。男性が57.9%を占めた。IPDの罹患率(人/10万人・年)は5歳未満が6.13、65歳以上では2.43であり、高齢者の罹患率は5歳未満の小児より低かった。一方、致命率では5歳未満が0.31%と低いのに対し、65歳以上では10.39%と高かった。5歳未満では、菌血症(67.6%)が最多で、菌血症を伴う肺炎、髄膜炎がそれに続いた。一方、65歳以上では、菌血症を伴う肺炎が47.2%を占め、菌血症は34.8%、髄膜炎は17.8%であった。

2013年度に10道県における感染症発生動向調査では213例の成人IPDが届けられたのに対し、成人IPD研究班で収集できた菌株は65株であった。一方、感染症流行予測調査事業においては大阪府で37株が収集された。これらを合計した102株の血清型分布を図2に示す。分離株のうちPCV7含有血清型はいずれの血清型も5%以下の分布で、PCV7のカバー率は16.7%であった。PCV7非含有でPCV13含有血清型の分離株数は血清型3が18.6%を占め、19A(10.8%)がそれに続き、PCV7およびPCV13のカバー率は16.7%、48.0%であった。PCV13非含有でPPSV23含有血清型の分離株数は22F(9.8%)が最も多く、PPSV23のカバー率は69.6%であった。

考 察:2013年度のわが国のIPDの小児、高齢者における罹患率、致命率、および主要な臨床病型を明らかにした。2007年から始まった「ワクチンの有用性向上のためのエビデンスおよび方策に関する研究」(庵原・神谷班)において、5歳未満の人口10万人当たりのIPD罹患率は、2008~2010年に比較して2013年度までに57%減少し、10.8とされている3)。一方、今回明らかになった2013年度の感染症発生動向調査では、5歳未満の小児の人口10万人当たりのIPD罹患率は6.13であり、庵原・神谷班の結果より低かった。この結果は、庵原・神谷班研究における高い菌血症症例の捕捉率に起因すると推察される。また、感染症発生動向調査では5歳未満の小児の致命率は0.31%と低いのに対し、65歳以上の高齢者の致命率は10.39%と高かった。ただし、これは届出時点での致命率であり、過小評価されている可能性は否定できない。

わが国における5歳未満のIPDの臨床像は菌血症が大半を占めていた。今回の成人IPD症例の臨床像では菌血症を伴う肺炎が約5割を占めた。また、髄膜炎の症例数は小児より成人において多く認められた。

庵原・神谷研究班における小児IPD症例から分離された肺炎球菌の血清型分布の検討では、PCV7公費助成前にはPCV7含有血清型である6B、14、23F、19Fの順に多かったのに対して、PCV7公費助成・定期接種化後の2013年には、血清型はPCV7非含有血清型である19A、24F、15A、15Cの順に多かった2)。結果的に、PCV7公費助成前のIPDの原因菌の血清型カバー率は77.2%であったのに対し、公費助成・定期接種化後には4% にまで著明に低下している。既に海外で報告されているように3,4)、わが国の小児IPDにおけるPCV7導入後の血清型置換が明確になっている。このような非PCV7血清型によるIPDの増加に対応して、2013(平成25)年11月からはPCV7に代わってPCV13が小児用定期接種ワクチンとして導入され、今後は少なくとも血清型19AによるIPDは減少すると予想される。

一方、小児に対するPCV7の導入後に小児IPDのみならず、成人IPDも減少し、さらには成人IPDの原因菌における血清型置換が報告されている5,6)。今回、成人IPD研究班と感染症流行予測事業で2013年度に収集した原因菌は102株と少ないものの、2006~2007年に実施された国内の成人IPD患者の血清型分布成績と比較して7)、PCV7含有血清型(4、6B、14、19F、23F)頻度の減少とPCV7非含有血清型(3、19A、22F、6C、15A)頻度の増加が認められた。PPSVのカバー率は85.4%から69.6%まで低下している。今回明らかになった成人IPDの原因菌の血清型置換は、2010年11月以降の小児に対するPCV7の公費助成導入に伴う集団免疫効果に起因することが推察される。

このようにわが国においてもPCV7の定期接種化後に小児IPDのみならず成人IPDの原因菌の血清型置換が認められた。また、2013年11月に小児の定期接種ワクチンがPCV7からPCV13に置き代わったことから、今後、成人IPDの原因菌におけるPCV7非含有、PCV13含有血清型の変化が予想される。成人IPDにおいては、今後の感染症発生動向とともに、原因菌の血清型の動向を継続して監視する必要がある。

謝 辞: 感染症発生動向調査に対する地方感染症情報センター、保健所、医療機関のご協力、感染症流行予測調査事業に対する大阪府と大阪府立公衆衛生研究所のご支援、成人IPD研究班にご協力いただいている関連行政機関に感謝申し上げます。

 
参考文献
  1. 成人の侵襲性細菌感染症サーベイランス構築に関する研究
     http://www.niid.go.jp/niid/ja/ibi.html
  2. IASR 35: 46-48, 2014 
  3. 庵原俊昭, 菅 秀, 浅田和豊, Hib、肺炎球菌、HPV及びロタウイルスワクチンの各ワクチンの有効性、安全性並びにその投与方法に関する基礎的・臨床的研究(厚生労働科学研究費補助金 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業 研究代表者:庵原俊昭)平成25年度 総括・分担研究報告書 p7-13, 2014年3月
  4. Weinberger DM, et al., Serotype replacement in disease after pneumococcal vaccination, Lancet 378: 1962-1973, 2011
  5. Miller E, et al., Herd immunity and serotype replacement 4 years after seven-valent pneumococcal conjugate vaccination in England and Wales: an observational cohort study, Lancet Infect Dis 11: 760-768, 2011
  6. Richter SS, et al., Pneumococcal serotypes before and after introduction of conjugate vaccines, United States, 1999-2011, Emerg Infect Dis 19: 1074-1083, 2013
  7. Chiba N, et al., Serotype and antibiotic resistance of isolates from patients with invasive pneumococcal diseases in Japan, Epidemiol Infect 138: 61-68, 2010

 

大阪府立公衆衛生研究所感染症部細菌課 河原隆二
成人の重症肺炎サーベイランス構築に関する研究班:
  青柳哲史(東北大学大学院医学研究科)、 高橋弘毅(札幌医科大学) 
  武田博明(山形済生病院)、 田邊嘉也(新潟大学医歯学総合病院) 
  笠原 敬(奈良県立医科大学感染症センター)、 西順一郎(鹿児島大学大学院医学研究科)
  藤田次郎(琉球大学医学部)、 丸山貴也(国立病院機構三重病院) 
  山崎一美(国立病院機構長崎医療センター)、 横山彰仁(高知大学医学部)
  渡邊浩(久留米大学医学部)
国立感染症研究所感染症疫学センター  
  牧野友彦 高橋琢理 大日康史 松井珠乃 砂川富正 石岡大成 奥野英雄 佐藤 弘  
  新井 智 木村博一 多屋馨子 大石和徳
国立感染症研究所細菌第一部 常 彬 大西 真 
国立感染症研究所真菌部 金城雄樹

 

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