国立感染症研究所

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国立感染症研究所

20224月11

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  •        SARS-CoV-2を含めRNAウイルスにおいて遺伝子組換え(2種あるいはそれ以上の同種または近縁ウイルス間で、遺伝子の一部が組換わったゲノムを有するウイルスが生成すること)が起こりうることはよく知られている。異なる系統のウイルスが宿主に同時感染することで生じると考えられるが、SARS-CoV-2についても異なる系統間の組換え体と考えられるウイルスが検出される事例がある。
  •        これまで、アルファ株(B.1.1.7系統)とB.1.177系統の組換え体(XA系統)、B.1.634系統とB.1.631系統の組換え体(XB系統)、アルファ株(B.1.1.7系統)とデルタ株(AY.29系統)の組換え体(XC系統)、デルタ株とオミクロン株の組換え体(XD、XF、XS系統)にPANGO系統が付与されてきた。
  •        最近では、世界的なオミクロン株感染者の急増、そしてBA.1系統からBA.2系統への置き換わりが進行する中で、世界各地からこれらの組換え体が報告されており、PANGO系統が付与されてきている(XE, XG, XH, XJ, XK, XL, XM, XN, XP, XQ, XR)。また、PANGO系統がまだ付与されていない組換え箇所等が異なるオミクロン株の組換え体も世界各地から報告されている。
  •       これらの組換え体の多くは、形質の変化は明らかになっていないが、唯一、XE系統については、イングランドではコミュニティ伝播が認められており、感染者の増加する速度がBA.2より12.6%高いことを報告している。なお、直近3週間に限れば20.9%高いとの解析結果もあるが、検査政策の変更の影響等含めて精査中であり、XE系統の増加優位性を示す数値として解釈すべきではないとしている。イングランドでは4月5日時点で1,125件が報告されているが、全体に占める割合は1%未満である。その他GISAIDには、米国(3件)、デンマーク(1件)、アイルランド(1件)よりGISAIDに登録があり、さらに他の国からも検出されたことを報告する報道がある。重症度等の形質の変化に関する報告はない。英国は、現在流行中の変異株に比べて生物学的に性質が異なると考えられる"Variants"の一つに位置付け、ECDCはVUM(監視下の変異株)に位置付けている。
  •        このXE系統について、国立感染症研究所は、検疫で2022年3月26日に採取された検体から1件を確認した。PANGO系統判定プログラムで判定不能であったため、遺伝子配列の解読データを確認し、遺伝子配列の詳細な解析を行った結果、XE系統と判定した。なお、このXE系統が英国で流行しているものに由来するか、それとは異なる場所で生じた組換え体であるかはゲノム情報だけから判定することはできない。
  •        XE系統は、ウイルスの抗原性を規定し標的細胞への侵入に関与するスパイクタンパク質はBA.2系統と同一であり、ウイルス粒子の基本的な性状はBA.2系統の形質を有すると考えられる。ウイルスのスパイクタンパク質を標的とする中和抗体医薬やワクチンの効果も、BA.2系統に対する効果と同等と考えられるが、組換え箇所にコードされるウイルス遺伝子の機能変化等のゲノム組換え現象がウイルス感染に与える影響については不明であり、感染伝播性や病原性などのウイルスの形質の変化の有無や感染拡大状況を注視していく必要がある。国立感染症研究所の病原体検出マニュアルに記載のPCR検査法のプライマー部分に変異は無く、検出感度の低下はないと考えられる。
  •       また、遺伝子配列上はオミクロン株間の組換え体と考えられる検体が検疫でほかに2検体検出されているが、これまで分類されている系統には該当せず、PANGO系統は判定できなかった。
  •        国内では、過去にXC系統(AY.29系統とB.1.1.7系統)の組換え体を国内で検知した例がある。XC系統は計24検体を検出したものの、2021年10月16日を最後にその後検出されていない。デルタ株とオミクロン株、オミクロン株間の組換え体は国内では検出されていない。
  •       XE系統に限らず、また、組換え体に限らず、感染拡大状況を注視し、感染・伝播性や免疫回避等の生物学的性質が大幅に変化し社会に大きなインパクトをもたらす変異株の発生を監視していく必要がある。引き続き、諸外国の状況や知見等も収集しつつ、ゲノムサーベイランスによる監視を行っていく。

参考文献

  •       国立感染症研究所. 感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株について (第15報). 2022年3月28日時点.
  •       Sekizuka T, et al. Genome Recombination between Delta and Alpha Variants of Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 (SARS-CoV-2). Jpn J Infect Dis. 2022 Feb 28. doi: 10.7883/yoken.JJID.2021.844.
  •       UK Health Security Agency. SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England: Technical briefing 40. 8 April 2022.

 

掲載日:2022年4月7日

第79回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和4年4月6日、厚生労働省)の報告による、我が国における新型コロナウイルス感染症の状況等についてお知らせいたします(第79回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード 資料1)。

英語版

感染状況について

全国の新規感染者数(報告日別)は、直近の1週間では10万人あたり約259で、今週先週比が1.08と増加傾向となっており、今後の動向に注意が必要。また、年代別の新規感染者数は全ての年代で増加傾向に転じており、特に10-20代の増加が顕著。

全国の新規感染者数の増加傾向に伴い、療養者数も増加傾向に転じている。一方、これまでの新規感染者数減少の動きに伴い、重症者数及び死亡者数は減少が継続している。

実効再生産数:
全国的には、直近(3/20)で0.97と1を下回る水準となっており、首都圏では0.97、関西圏では0.93となっている。

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