国立感染症研究所

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掲載日:2021年10月30日

第57回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和3年10月26日、厚生労働省)の報告による、我が国における新型コロナウイルス感染症の状況等についてお知らせいたします(第57回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード 資料1)。

英語版

感染状況について

全国の新規感染者数(報告日別)は、今週先週比が0.57と減少が継続し、直近の1週間では10万人あたり約2となっており、昨 年の夏以降で最も低い水準となった。一方、60代以上及び10代以下の新規感染者も減少が続いているが、感染者に占める割合 は、60代以上は8月を底として2割弱まで上昇しており、10代以下は9月以降、2割程度で横ばいの状態が続いている。

新規感染者数の減少に伴い、療養者数、重症者数や死亡者数も減少が続いており、重症者数は今回及び今春の感染拡大前 の水準以下となった。一方、死亡者数は今回の感染拡大前の水準を超えている。

緊急事態措置等の解除後、多くの地域で夜間滞留人口の増加が継続しており、新規感染者数の今後の動向に注意が必要。

実効再生産数:
全国的には、直近(10/9時点)で0.70と1を下回る水準が続き、首都圏では0.60、関西圏では0.68となっている。

(注)死亡者数は、各自治体が公表している数を集計したもの。公表日ベース。

 

国立感染症研究所
2021年10月28日12:00時点

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変異株に関する新たな分類の導入について

 変異株の分類についてはWHOの暫定定義を準用し、国内の流行状況を加味して「懸念される変異株(VOC)」と「注目すべき変異株(VOI)」に分類してきた。WHOでは9月より新たに、「監視下の変異株(VUM: Variants Under Monitoring)」の分類を設け、ウイルスの特性に影響を与えると思われる遺伝子変異を持つものの、表現型や疫学的な影響の証拠は現時点では不明である変異株を分類している。また、VOC/VOIにかつて分類されていたが、その後検出されなくなった、或いは公衆衛生的意義が薄れた変異株についてVUMとして一定期間監視を行うとしている。今般、国内外の変異株の疫学的状況が変化しつつあり、また、監視体制を強化し、早期の対応につなげる観点から、「監視下の変異株(VUM)」の分類を国立感染症研究所でも設定する(表1、表3)。

表1 国立感染症研究所による国内における変異株の分類(2021年10月28日時点)

分類

定義

主な対応

該当

変異株

懸念される変異株

(VOC; Variants of Concern)

公衆衛生への影響が大きい感染・伝播性、毒力*、及び治療・ワクチン効果の変化が明らかになった変異株

対応

Ÿ 週単位で検出数を公表(IDWR)

Ÿ ゲノムサーベイランス(国内・検疫)

Ÿ 必要に応じて変異株PCR検査で監視

Ÿ 積極的疫学調査

ベータ株

ガンマ株

デルタ株

注目すべき変異株

(VOI; Variants of Interest)

公衆衛生への影響が見込まれる感染・伝播性、毒力、及び治療・ワクチン効果や診断に影響がある可能性がある、又は確実な変異株で、国内侵入・増加の兆候やリスクを認めるもの(以下、例)

・検疫での一定数の検知

・渡航例等と無関係な国内での検出

・国内でのクラスター連鎖

・日本との往来が多い国での急速な増加

警戒

Ÿ週単位で検出数を公表(IDWR)

Ÿゲノムサーベイランス(国内・検疫)で監視

Ÿ積極的疫学調査

Ÿ必要に応じて変異株PCR検査の準備

該当なし

監視下の変異株

(VUM; Variants Under Monitoring)

公衆衛生への影響が見込まれる感染・伝播性、毒力、及び診断・治療・ワクチン効果に影響がある可能性がある変異を有する変異株

また、VOCやVOIに分類された変異株であっても、以下のような状況では、本分類に一定期間位置付ける

・世界的に検出数が著しく減少

・追加的な疫学的な影響なし

・国内・検疫等での検出が継続的に僅か

・特に懸念される形質変化なし

監視

Ÿ発生状況や基本的性状の情報収集

Ÿゲノムサーベイランス(国内・検疫)で監視

Ÿ(VOC/VOIからVUMに移行後国内発生が継続するものは)週単位で検出数を公表 (IDWR)

アルファ株

(旧)カッパ株

ラムダ株

ミュー株

AY.4.2

* 毒力virulence: 病原体が引き起こす感染症の重症度の強さ

IDWR: 感染症発生動向調査週報

変異株の再分類

  • これまでVOCに指定されていた変異株の中では、B.1.1.7系統の変異株(アルファ株)は、検出数が世界的に継続して減少しており、国内でも9月上旬以降、国際ゲノムデータベースであるGISAID(Global Initiative on Sharing All Influenza Data, https://www.gisaid.org)への登録がない。感染・伝播性は現在流行の中心であるデルタ株より低く、抗原性への影響がみられない。WHOと英国健康安全保障庁(HSA)はVOCの分類を維持しているが、欧州CDC、米国CDCは、それぞれ警戒解除した変異株(De-escalated variant)、監視中の変異株(VBM:Variant being monitored)に分類を変更している。以上の状況を鑑みて、我が国における分類をVUMに変更する。
  • B.1.351系統の変異株(ベータ株)、P.1系統の変異株(ガンマ株)については、世界的に検出数は継続して減少しているものの、一部の地域で発生が継続しており、抗原性の変化への影響を考慮して引き続きVOCに分類する。なお、米国CDCは共にVBMに分類している。
  • B.1.617.2系統の変異株(デルタ株)は、世界で検出されるウイルスの99%以上を占めており、国内でもほぼ100%置き換わっている。しかし、ワクチンの一部の効果の減弱が指摘されていること、また追加の変異やその亜型(AY.x系統)の動向が必要とされていることから、引き続きVOCに分類する。
  • VOIに位置付けてきたB.1.617.1系統の変異株(旧カッパ株)は、インドで4月に増加が見られたが、現在は終息している。国内では8例、検疫で19例が検出されているが、最終検出日は国内では2021年5月7日、検疫では 2021年5月1日である。国外からの流入が複数回あったことが確認できるが、国内では終息していると考えられる。WHOはVUMに分類を変更し「カッパ株」の呼称は取りやめ、欧州CDC、英国HSA、米国CDCがそれぞれ警戒解除した変異株(De-escalated variant)、調査中の変異株(VUI:Variant under investigation)、VBMに分類を変更している。世界的にも報告が著しく減少していることから、我が国における分類をVUMに変更する。

E484Qを含むデルタ株の事例について

  • デルタ株の中で、これまでVOC/VOIに見られたスパイクタンパクの特徴的な変異が加わった変異株について注視する動きがある。欧州CDCはデルタ株への追加変異として、スパイクタンパクにK417N、E484Q、Q613Hの各アミノ酸置換(以下便宜的に「変異」という。)が加わったものをVUMとして監視対象としている。
  • これらの追加変異の入ったウイルスの検出事例は検疫・国内で散見しているが、E484Qを含むデルタ株については、10月に入ってからも国内でいくつか検出がある。国内感染が示唆されるが、共に感染源不明の事例であり、国内で複数のE484Qを含むデルタ株が一定数存在する可能性がある。E484Q変異は感染・伝播性の増加や中和抗体の感受性が低下する可能性があるが、現在のところ国内で公衆衛生的に追加的な影響があることを示唆する所見はない。
  • VOCに位置付けるデルタ株の一部として、ゲノムサーベイランスや分子疫学調査で、顕著な疫学的変化(ブレークスルー感染、巨大クラスター化、二次感染率の増加、顕著な検出率の増加等)と関連するか引き続き注意する。

新たにVUMに位置付けられた変異株について

これまでVOCs/VOIsに位置付けていなかった変異株の中では、新たにC.37系統の変異株(ラムダ株)、B.1.621系統 (ミュー株)、AY.4.2系統の各変異株をVUMに分類する。

C.37系統の変異株 (ラムダ株)について

  • ラムダ株は、ペルーで2020年8月に初めて報告された。ラムダ株のスパイクタンパクの特徴的な変異としては、L452Q, F490S, D614G変異があり、感染・伝播性の増加と中和抗体への抵抗性と関連している可能性がある(1,2)。
  • ラムダ株は、第13報でも報告していたが、主に南米地域で比較的多くの割合を占めていたが、いずれの国においても減少傾向にある。
  • 検疫ではこれまで4例認めており、2021年9月6日の例が最後である。国内での検出流はない。
  • WHO、欧州CDCは引き続きVOIに位置付けているが、英国はVUIから“Monitoring(監視対象)”に位置付けを変更している。
  • 国立感染症研究所では、現状、ラムダ株が国内で拡大するリスクは非常に低いと考えるが、流行地域における動向を把握する必要性からVUMとして監視対象に位置付ける。

B.1.621系統の変異株 (ミュー株)について

  • ミュー株は、コロンビアで2021年1月に初めて検出された。WHOのVOCが有するE484K, N501Y, P681H等の変異を有することから、感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念されている。また、既存株の回復期血清やワクチン接種後の血清に対し中和抗体価が低下していることを示す実験的な報告もある(3,4)。
  • 地域的には、コロンビアとチリで検出数が多い。GISAIDの登録情報によれば、世界的には5月から検出割合が増加したが8月から減少傾向にある。
  • 検疫では、2例(最終検出日:2021年7月5日)が検出されているが、国内での検出は無い。
  • ミュー株について、WHO、欧州CDCはVOIに位置付け、英国HSA、米国CDCはそれぞれVUI、VBMに位置付けている。
  • 国立感染症研究所としては、ミュー株が国内で拡大するリスクは現状において低いと考えるが、流行地域における動向を把握する必要性からVUMとして監視対象に位置付ける。

AY.4.2系統の変異株 について

  • デルタ株は、PANGO系統のB.1.617.2系統及びその亜系統にあたるAY系統を含んでいるが、AY系統の中のAY.4.2系統が英国で増加している。
  • AY.4.2系統は、AY.4系統(B.1.617.2.4系統に相当)の亜系統として、PANGO系統分類の系統判別プログラム定義ファイルの更新(2021年10月4日、v.1.2.8)により新たに定義がなされた。
  • AY.4.2系統は、デルタ株やAY.4系統の変異に加え、スパイクタンパクにY145H、A222Vの各変異が入っていることが特徴とされる。これらの変異箇所は、スパイクタンパクのN末端側の変異であり、抗体医薬やワクチンにより誘導される抗体が標的とするエピトープ領域とは異なるため、免疫逃避などの影響は少ないと考えられるが、感染・伝播性や抗原性への影響に関して、疫学的・ウイルス学的な性質の評価に関する情報は現時点では十分に得られていない。
  • GISAID上、AY.4.2系統は25,222件登録されており、その93.8%は英国からの登録であったが、日本の検疫を含む多くの地域からも検出されている。(10月25日時点)
  • 英国は10月15日にAY.4.2系統を"Monitoring(監視対象)"に位置づけ(5)、10月20日にVUI(調査中の変異株)に位置づけた(6)。英国内では、デルタ株が約99.8%を占めており、そのデルタ株の中でもAY.4系統の割合が多かったが、さらにそのサブ系統であるAY.4.2系統の変異株が、当地で流行するその他の変異株に比較して速く増加しており、9月27日の週で英国で解析された検体の6%程度に検出されていることを指摘していた(5)。英国健康安全保障庁は、AY.4.2の増加率は、各地域で流行しているAY.4.2以外と比べて17%高い*と試算している(*この増加率は本系統の生物学的な感染・伝播性の増加の可能性だけでは無く、流行地の疫学的状況等にも左右されるものであり、解釈に注意を要する)。英国では、英国外の多数の国からの旅行者からも本系統が検出されており、その発生時期や起源は不明としている(6)。また、家庭における2次感染率が、AY.4.2系統で12.4% (95%CI: 11.9%-13.0%)とその他のデルタ株(11.1% (95%CI: 11.0%-11.2%))に比べて有意に高かった。家庭以外でもAY.4.2で2次感染率が高かったがその差は有意ではなかった。地域ごとの2次感染率の差異は観察されていない(6)
  • 欧州CDCは10月21日にVUMに位置付けた。なお、欧州CDCは域内での「検出」という位置づけであり、コミュニティでの流行とは判断していない(7)。
  • 我が国では、検疫で2021年8月28日に英国滞在歴のある入国者から検出されたデルタ株の1例について、これまでのPANGO系統判定プログラムではAY.4系統と判定されていたが、AY.4.2系統を含む定義ファイルに更新された系統判定プログラムでは、AY.4.2系統と判定された。なお、ウイルス分離を試みたがウイルスを分離することはできなかった。なお、10月28日時点で、国内ではAY.4.2系統と判定されたウイルスの検出はない。
  • 国立感染症研究所では、本系統は感染性が高まっている可能性を踏まえ、VUMに位置付け、諸外国の情報収集を継続するほか、ゲノムサーベイランスで国内の状況を監視する。

引用文献 (1-4 は査読前のプレプリント論文である)

  1. Acevedo ML, et al. Infectivity and immune escape of the new SARS-CoV-2 variant of interest Lambda. medRxiv. 2021. 
  2. Tada T, et al. SARS-CoV-2 Lambda Variant Remains Susceptible to Neutralization by mRNA Vaccine-elicited Antibodies and Convalescent Serum. bioRxiv. 2021.
  3. Uriu K, et al. Ineffective neutralization of the SARS-CoV-2 Mu variant by convalescent and vaccine sera. bioRxiv 2021.09.06.459005; doi: https://doi.org/10.1101/2021.09.06.459005.
  4. Miyakawa, K., et al. Neutralizing efficacy of vaccines against the SARS-CoV-2 Mu variant. medRxiv 2021.09.23.21264014; doi: https://doi.org/10.1101/2021.09.23.21264014.
  5. UK Health Security Agency. SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England: Technical briefing 25. 15 October 2021.
  6. UK Health Security Agency. SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England: Technical briefing 26. 22 October 2021.
  7. European Centre for Disease Prevention and Control. SARS-CoV-2 variants of concern as of 21 October 2021: https://www.ecdc.europa.eu/en/covid-19/variants-concern.

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更新履歴

第14報   2021/10/28  12:00時点

13   2021/08/28  12:00 時点

12   2021/07/31  12:00 時点

11   2021/07/17  12:00 時点

10報 2021/07/06  18:00時点

  報 2021/06/11 10:00時点

      2021/04/07 17:00 時点

     2021/03/03 14:00時点 

      2021/02/12 18:00時点

5報 2021/01/25 18:00時点 注)タイトル変更

「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念されるSARS-CoV-2の新規変異株について」

  報 2021/01/02 15:00時点

  報 2020/12/28 14:00時点 

  2報 2020/12/25 20:00時点 注)第1報からタイトル変更

「感染性の増加が懸念されるSARS-CoV-2新規変異株について」

  1報 2020/12/22 16:00時点 「英国における新規変異株(VUI-202012/01)の検出について」

  no14 2

no14 3

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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