国立感染症研究所

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国際線航空機内にて新型コロナウイルス感染症伝播が疑われた事例, 2020年8月

(IASR Vol. 42 p132-133: 2021年6月号)
 

 2020年8月, 成田空港検疫所において新型コロナウイルス感染症(COVID-19)症例1例が確認された。当該症例(探知症例)と同じ国際線航空機(搭乗時間:約15時間)に搭乗した者のうち, 3人が入国数日後にCOVID-19と診断された。今回, 明らかな推定感染経路は特定できなかったものの, 航空機内での伝播の可能性が疑われるCOVID-19事例について, 聞き取り調査の重要性, および航空機内での濃厚接触者の範囲等についての知見が得られたので報告する。

注)本文書は東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催された場合の感染症リスク評価と考慮されるべき対策について記載したものである。

令和3年(2021年)6月23日
(掲載日:2021年6月25日)

国立感染症研究所
感染症危機管理研究センター
実地疫学研究センター
感染症疫学センター

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【背景】

世界的な新型コロナウイルス感染症の流行により、2020年に予定されていた東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、東京大会)は2021年に延期された。これにともない、オリンピックは2021年7月23日(金)~8月8日(日)の日程で、パラリンピックは同年8月24日(火)~9月5日(日)の日程で行われることとなった。東京大会が世界的な新型コロナウイルス感染症流行下で開催されることに伴い、海外からの観客の受け入れは中止が決定された。大会には200を超える国・地域からの選手団が参加予定であり、大会スタッフ、メディア関係者、スポンサー等も含め、海外からは数万人が大会のために入国することが想定されている。競技は開催自治体である東京都及び8道県の会場で行われ、選手村(分村を含む)は3都県に設置されている。また、47都道府県がホストタウン等(ホストタウン及び事前キャンプ地)を有する。

各関係自治体では、2017年から2018年にかけて、東京大会に関連したリスク評価を行ったうえ、地域の実情を考慮したサーベイランス強化や医療体制の確保等の準備が進められていた。新型コロナウイルス感染症発生以降、複合的な感染予防策の実施や移動の制限による人流の変化を受けて、国内外での感染症の発生動向は変化している。東京大会に向け、いまだ流行が終息しない新型コロナウイルス感染症対応への準備は必須であるが、新型コロナウイルス感染症以外の感染症についても、改めてそのリスクを評価し、発生時の影響を軽減するための対策が重要となる。

本稿は2017年10月に行った“東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けての感染症のリスク評価”(1)(以下東京大会リスク評価)をベースに、日本における東京大会に関連した感染症のリスク評価を更新したものである。

なお、本稿では、公益財団法人 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が個人情報、所属組織等を登録する関係者を「登録大会関係者(大会アクレディテーション保持者)」、同委員会への登録が不要なフリーランスの記者、ホストタウン関係者、自治体が登録する都市ボランティア、国内在住の観客等の関係者を「非登録大会関係者(大会アクレディテーション非保持者)」と表記している。また、本稿における「市中」とは大会組織委員会が管轄もしくは提携している特定の管理区域(特定区域)「以外」を指すものとする。

【リスク評価及び推奨されるリスク管理事項】

特に新型コロナウイルス感染症を含めたヒト‐ヒト感染をする感染症については、競技会場等の大会関連施設において数百人から数千人単位の大会関係者(登録、非登録の両方)が集団で活動するため、大会関係者内での集団発生に至るリスクがあることから徹底した管理措置をとることが重要である。大会関係者は、リスク管理措置を徹底し、プレイブックを遵守した行動が常に厳に求められる。

登録大会関係者は、入国後14日間の活動は、原則として特定区域に限られる。ただし、特定区域からの離脱後等、登録大会関係者と非登録大会関係者間、及び大会関係者(登録、非登録の両方)と市中の間での接触は起こり得る。大会関係者から市中への感染症の伝播が発生しないようにするために、一定程度の他者との接触の可能性を前提としたリスク管理を行うことが重要である。また、海外からの登録大会関係者については、基本的には日本国内での滞在は、特定区域内での活動にとどめることを原則とする。加えて、特定区域から離脱後は、離脱時点を起点として、最低14日間は、一般人との接触を回避することを含め、厳格な管理体制が望まれる。特に、行動範囲が広い海外メディア関係者や、海外からの登録大会関係者等との接触が生じうる国内ボランティアが市中で感染症を発症したり、伝播を受けたりしないような適切な管理体制が求められる。

特定区域から離脱後、滞在期間は限られるが日本に残留する競技終了後のアスリート等の大会関係者が感染症を含む疾病を発病した場合は、市中の医療機関を直接受診する可能性もある。大会関係者が来日すると想定される東京大会の前1か月~後1か月程度の期間、大会組織委員会及び市中の各医療機関及び各自治体はこのことを認識し大会関係者(登録、非登録の両方)における感染症の探知と対応について準備する必要がある。また、大会への各国からの注目度が高いことから、大会関係者における感染症の(集団)発生、また大会関係者による国外への感染症の持ち出しについては、reputational risk(評判や風評に関するリスク)や国際保健規則(IHR)上の取扱いについて事前から注意を払い、確認する必要がある。

新型コロナウイルス感染症については、大会におけるリスク管理措置が徹底され、遵守された場合においては、海外からの輸入症例を起点とした国内流行が発生するリスクは低いと考えられる。しかし、特定区域内でのリスク管理措置が適切に行われない場合、特定区域からの離脱後に国内感染につながるリスクがあることから、アスリート等の大会関係者はもとより、特に、特定区域に滞在する海外報道関係者及び大会ボランティア等について、リスク管理措置を徹底することが必要である。また、市中においては、大会開催に伴う大会関係者の国内往来により密集が生じる場合、応援イベントや競技場や事前キャンプ所在地等で人が集まる機会の増加、地域内・地域間の人流の増加等が契機となり国内の感染拡大のリスクが高まる可能性があるため、警戒するとともに、大会期間中のテレワークの集中的な実施を含めた人流抑制等の対策を進めることが必要である。

新型コロナウイルス感染症以外の感染症については、2017年に行った東京大会リスク評価(1)において、以下の表のとおり、特に国内伝播に注意を要するものとしてリストアップした感染症の種類及びそれぞれのリスク評価をまとめている。対象とする感染症を選択するにあたっては、輸入例の増加、感染伝播の懸念、大規模事例の懸念と高い重症度等で複数の項目において注意が必要な疾患がリストアップされている。リストアップ方法については東京大会リスク評価(1)を参照のこと。

表でリストアップした感染症については、新型コロナウイルス感染症に対する国内外の様々な対策により、疾患によっては2017年当時など新型コロナウイルス感染症流行前と比較してリスクの程度に変化*があったものの、対策を行ううえで注意を要する感染症である。新型コロナウイルス感染症、加えて前回のリスク評価時と同じく、麻しん、侵襲性髄膜炎菌感染症、中東呼吸器症候群、腸管出血性大腸菌感染症はまず注意すべき感染症である。

*新型コロナウイルス感染症に対する国内外の対策によりインフルエンザ等の呼吸器感染症の感染拡大のリスクは新型コロナウイルス感染症流行前と比較し低くなっている。また、各国の渡航制限による渡航数の減少等によりデング熱等の輸入感染症についても持ち込まれるリスクが低くなっている。一方で、腸管出血性大腸菌感染症・ノロウイルス等による食品媒介感染症や、性感染症についてのリスクは新型コロナウイルス感染症流行前と比較しても低くなってはいない。

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