国立感染症研究所

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国立感染症研究所

2022年 11月18日 9:00 時点

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変異株の概況

  •   現在、流行している新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株は、第21報時点と同様に、B.1.1.529系統とその亜系統(オミクロン)が支配的な状況が世界的に継続している。2022年10月7日~11月7日、世界でゲノム解析され GISAID データベースに登録されたウイルスの99.6%をオミクロンが占め、その他の系統はほとんど検出されていない(WHO, 2022a)。オミクロンの中では多くの亜系統が発生しているが、BA.5系統が74.5%、BA.4系統が4.1%、BA.2系統が7.3%(いずれも亜系統を含む)と、引き続き世界的にBA.5系統が流行の主流となっており(WHO, 2022a)、日本国内でも2022年7月頃にBA.2系統からBA.5系統に置き換わりが進み、現在もBA.5系統が主流となっている。また、国内外でオミクロンの亜系統間のさまざまな組換え体も報告されている。世界保健機関(WHO)は、これらのB.1.1.529系統とその亜系統および組換え体を全て含めて「オミクロン」と総称する一方、いくつかの亜系統や組換え体(BA.2.3.20、BA.4.6、BA.2.75、BJ.1、XBBの各系統および、BA.5系統にN450D変異もしくはR346/K444/V445/N460のいずれかの箇所に変異を有するもの)を「監視下のオミクロンの亜系統(Omicron subvariants under monitoring)」としている。
  •   BQ.1系統(BA.5.3系統の亜系統)、XBB系統(BJ.1系統(BA.2.10系統の亜系統)とBM.1.1.1系統(BA.2.75.3系統の亜系統)の組換え体)をはじめ、特徴的なスパイクタンパク質の変異がみられ、ワクチン接種や感染免疫による中和抗体からの逃避や、感染者数増加の優位性が示唆される亜系統が複数報告されている。局所的に優位な増加をみせる亜系統も報告されているが、特定の変異株が世界的に優勢となる兆候は見られない。これらの変異株の今後の動向に関する一致した見解は得られておらず、引き続き国内外での動向の注視、知見の収集とともに、国内でのゲノムサーベイランスを継続していく必要がある。

 

 

BA.5系統について

  •   BA.1系統、BA.2系統、BA.3系統に加え、2022年1月にBA.4系統が、2月にBA.5系統がいずれも南アフリカ共和国で検出された。以降BA.5系統は世界的に検出数が増加し、2022年42週(10月17日~23日)時点で BA.5系統とその亜系統が全世界で登録された株の74.5%を占め、主流となっている (WHO, 2022a)。
  •   国内では2022年6月以降、BA.2系統からBA.5系統への置き換わりが進行した。BA.5系統は2022年第17週(4月18日~24日)に日本から初めてGISAIDに登録され、第27週(7月4日~10日)に50%を、第28週(7月11日~17日)に75%を、30週(7月25日~31日)に90%を超えた(covSPECTRUM, 2022)。国内民間検査機関2社に集められた週800検体のゲノム解析結果を用いたゲノムサーベイランスでも、2022年22週(5月23日~29日)に初めて検出されたのち、第27週に50%を、第28週に75%を、30週に90%を超えた (国立感染症研究所, 2022)。

 

BA.2.75系統、BA.4.6系統について

  •   11月1日時点でGISAIDに、BA.2.75系統が71か国から26,602件(BA.2.75系統の亜系統を含む)、BA.4.6系統が88か国から48,878件(BA.4.6系統の亜系統を含む)登録されている(covSPECTRUM, 2022)。日本では、11月14日時点で、BA.2.75系統が検疫で140件、国内で315件、BA.4.6系統が検疫で16件、国内で171件登録されている (GISAID, 2022)。BA.2.75系統はBA.2系統と比較して中和抗体からの逃避能が上昇しているとの報告もある(Cao Y. et al., 2022a) 一方で、ワクチン接種による中和抗体からの逃避能は、BA.2系統と比較して同等、BA.4/BA.5系統に比して低いという報告もある (Shen X. et al., 2022)。BA.4.6系統はBA.4系統と比較して、中和抗体からの逃避能が上昇しているとの報告がある(Jian F. et al., 2022)。BA.2.75系統はインド、BA.4.6系統は米国での検出状況からBA.2系統、BA.5系統に対する感染者数増加の優位性が示唆されたが、いずれの国においても9月以降、XBB系統やBQ.1系統への置き換わりが進んでいる(covSPECTRUM, 2022)。

 

オミクロンの新規亜系統の世界的な発生状況について

  •   世界各地でBA.2系統やBA.5系統を起源とする亜系統が多数発生し、それらの有するスパイクタンパク質の変異から、中和抗体からの逃避能の上昇が懸念されている。米国や欧州ではBQ.1系統やBQ.1.1系統、BA.2.3.20系統が、アジアではBQ.1系統、BQ.1.1系統、XBB系統、BJ.1系統(BA.2.10系統の亜系統)、BA.2.3.20系統が、これまでに各地で主流となっている系統に比較して、感染者数増加の優位性を見せている(covSPECTRUM, 2022)。一方で、これらの系統の割合の上昇傾向は地域によって異なっており、オミクロンの中で特定の亜系統が世界的に優位となる傾向は現在見られてない。
  •   これらの亜系統が有するスパイクタンパク質における変異はR346、K444、V445、G446、N450、L452、N460、F486、F490、R493といった共通の部位に集中する傾向がみられており、ウイルスの収斂進化が起きているとの指摘がある(Cao Y, 2022b)。BA.5系統に比較して、BQ1.1系統、BM.1.1.1系統などは中和抗体からの逃避能が高く、特に比較された中ではXBB系統が最も逃避能が高いことが示唆されている(Cao. Y, 2022b)。ただし、査読を受けていないプレプリント論文であることに注意が必要である。また、スパイクタンパク質の主要箇所の変異が多いほど感染者数増加の優位性が高まるとの指摘もあり、BQ.1.1系統とXBB系統は特に感染者数増加の優位性が高い系統と指摘する専門家もいる(Wensleers T, 2022)。
  •   これらの系統について、WHOはBA.2.3.20、BA.4.6、BA.2.75、BJ.1、XBBの各系統および、BA.5系統にN450D変異もしくはR346/K444/V445/N460のいずれかの箇所に変異を有するものを「Omicron subvariants under monitoring」に指定している。欧州疾病予防対策センター(ECDC)は、BA.2.75系統、BQ.1系統を「Variants of interest」、オミクロンのうちR346に変異を有するもの、オミクロンのうちK444、N460の両方に変異を有するもの、オミクロンのうちN460、F490の両方に変異を有するもの(XBB系統とその他の亜系統を含む)を「Variants under monitoring」に指定している。英国健康安全保障庁(UKHSA)は、BA.2.12.1系統、BA.2.75系統、BA.4.6系統、XE系統、BQ.1系統、XBB系統を「Variants」、BA.4.7系統、BA.2.75.2系統、BF.7系統、BS.1系統、BQ.1.1系統、BA.2.3.20系統を「Signals in monitoring」に指定している(ECDC, 2022a、WHO, 2022b、UKHSA, 2022)。
  •   また、UKHSAはオミクロンとデルタの組換え体である、XBC系統についても、「Signals in monitoring」に指定している(UKHSA, 2022)。

 XBB系統について

  •   2022年9月にシンガポールや米国からBJ.1系統(BA.2.10系統の亜系統)とBM.1.1.1系統(BA.2.75.3系統の亜系統)の組換え体であるXBB系統が報告され、その後遡ってインドから8月に検出された検体の登録がされている。11月7日時点で、GISAIDに44国から3,622件が登録されており、インド、バングラデシュ、シンガポールで検出数の増加がみられるほか、米国、英国、デンマークなどの欧米からも登録がされている(covSPECTRUM, 2022)。2022年第42週時点で、XBB系統とその亜系統(以下XBB系統)は全世界で検出された株の2.0%を占め、前週から割合が上昇している(WHO, 2022a)。シンガポールにおいては、9月末からXBB系統の占める割合が上昇するとともに感染者数、入院者数が増加した一方で、重症者数は横ばいであった。10月15日に、シンガポール保健省はXBB系統の感染・伝播性が既存の変異株と同等以上と考えられ、再感染のリスクが高まる可能性があるものの、重症化につながっている証拠はないことを述べている (Ministry of Health Singapore, 2022)。なお、10月後半以降シンガポールの感染者数は減少傾向にあり、インドとバングラデシュでは感染者数の増加は見られていない(Our World in Data, 2022)。日本では11月14日時点でXBB系統が検疫で17件、国内で23件検出されている(GISAID, 2022)。検疫での検体陽性者の滞在国は大部分が南アジア、東南アジアであり、世界的な検出状況を反映しているものと考えられる。
  •   XBB系統はスパイクタンパク質の受容体結合部位中のR346T、N460K、F486Sなどのアミノ酸変異を有し、中和抗体からの逃避能が上昇する可能性が示唆されている。また、実験的にも中和抗体からの逃避能が高いこと(Cao Y. et al., 2022b)や、従来型、オミクロン対応2価の両ワクチンの感染予防効果が低下する可能性が示唆されている(Kurhade C. et al.,2022)が、いずれも査読を受けていないプレプリント論文であることに注意が必要である。また、感染者数増加の優位性もBA.2.75系統やBA.4.6系統と比較して高い可能性があるものの、XBB系統が占める割合の上昇と感染者数の増加との明確な関連性はなく、疫学・臨床的な所見からは、重症度の上昇は示唆されていない(WHO, 2022c)。再感染のリスクが高まる可能性も示唆されているが、オミクロン既感染者の再感染についての証拠はない(WHO, 2022c)。また、治療薬やワクチンの有効性について、疫学的な評価はされていない。国内外での報告数が少ないことから、今後の国内外での検出状況、感染者数や重症者数の推移を注視する必要がある。

 BQ.1系統について

  •   2022年9月にBA.5.3系統の亜系統であるBQ.1系統がナイジェリアから報告され、またBQ.1系統にR346T変異が追加されたBQ.1.1系統などBQ.1系統の亜系統も報告されている(Cov-lineages.org, 2022)。 BQ.1系統とその亜系統(以下BQ.1系統)は11月7日時点で、GISAIDに69か国から27,582件が登録されており、英国、フランス、デンマークなどの欧州および米国から多く登録されている(covSPECTRUM, 2022)。2022年第42週時点で、BQ.1系統は全世界で検出された株の13.4%を占め、前週から割合が上昇している(WHO, 2022a)。米国では8月以降BQ.1系統が上昇し、今後もBQ.1系統が占める割合が上昇することが見込まれている。一方で感染者数は8月以降減少し、10月以降おおむね横ばいで経過している(CDC, 2022a)。欧州では英国、フランス、デンマーク、スペイン、イタリア、ベルギーなどで9月末頃からBQ.1系統の占める割合が上昇しているが、いずれの国も感染者数は 9月に増加を示したのち10月中旬以降減少している(ECDC, 2022b、covSPECTRUM, 2022、Our World in Data, 2022)。日本では、11月14日時点でBQ.1系統が検疫で35件、国内で99件検出されている(GISAID, 2022)。
  •   BQ.1系統はBA.5系統から、スパイクタンパク質にK444T、N460K変異を獲得しており、中和抗体からの逃避能が上昇する可能性が示唆されている。また、実験的にも中和抗体からの逃避能が高いことが示唆されている(Cao Y. et al., 2022b) が、査読を受けていないプレプリント論文であることに注意が必要である。感染者数増加の優位性もBA.5系統などと比較して高い可能性があるものの、疫学・臨床的な所見からは、重症度の上昇は示唆されていない(WHO, 2022c)。従来型、オミクロン対応2価の両ワクチンの感染予防効果が低下する可能性が示唆されているが、重症化予防効果には影響がないと予測されている (WHO, 2022c)。また、治療薬やワクチンの有効性について、疫学的な評価はされていない。今後の国内外での検出状況、感染者数や重症者数の推移を注視する必要がある。

 BS.1系統について

  •   検疫において、2022年8月下旬に日本に到着した入国者3名の陽性検体から、BA.2.3.2系統(BA.2系統の亜系統)が起源と考えられるが、これまでに報告のない変異を有するウイルスが検出され、BS.1系統と命名された(GitHub, 2022)。当該3名の陽性者の行動歴にはいずれもベトナムへの渡航があったが到着日および到着空港は異なっており、明らかな疫学リンクは確認できない。また、BS.1系統にK356T変異が加わったBS.1.1系統が報告されている(Cov-lineages.org, 2022)。11月14日時点でBS.1系統は検疫で12件、国内で2件、BS.1.1系統は検疫で26件、国内で9件の報告がある(GISAID, 2022)。11月7日時点で、BS.1系統、BS.1.1系統を合わせて、日本以外にオーストラリア、ベトナム、韓国など計19か国からGISAIDに198件が登録されている(covSPECTRUM, 2022)。
  •   BS.1系統はBA.2.3.2系統の有する変異に加え、スパイクタンパク質に3つのアミノ酸の挿入、Y144欠失、R346T、L452R、N460R、G476S、R493Q (reversion)およびS640Fの特異的変異を有している。これらスパイクタンパク質の変異による抗体結合部位への構造の影響に伴い、中和抗体からの逃避能の上昇が示唆される。また、ORF6に27266〜27300欠失によるフレームシフトが認められることから、自然免疫応答への影響が示唆される。ただし、国内外での報告数が少ないことから、感染者数増加の優位性、重症度、治療薬やワクチンの有効性への影響についての明らかな知見はなく、今後の国内外での検出状況、感染者数や重症者数の推移を注視する必要がある。

 

参考 主な変異株の各国における位置付け(2022 年 11月10日時点)

系統名

感染研

WHO*

ECDC

UKHSA

CDC

B.1.1.529 系統

 (オミクロン)

VOC

currently circulating VOC

※BA.5 (+R346X or +K444X or +V445X or +N450D or  +N460X), BA.2.75, BJ.1, BA.4.6, XBB, BA.2.3.20: Omicron subvariants under monitoring

VOC

BA.2, BA.4, BA.5: VOC

BA.2.75, BQ.1: VOI

BA.1.1.529+R346X,  B.1.1.529+K444X+ N460X, B.1.1.529+N460X+F490X注1): VUM

BA.1, BA.3, BA.2+L452X, XAK: de-escalated variant

VOC

BA.1, BA.2, BA.4, BA.5:  VOC

BA2.12.1, BA.2.75, BA.4.6, XE, BQ.1, XBB: Variants
BA.4.7, BA.2.75.2, BF.7, BS.1, BQ.1.1, BA.2.3.20, XBC注2): signals in monitoring

VOC


VOC: variant of concern(懸念される変異株)、Omicron subvariants under monitoring(監視下のオミクロンの亜系統)、VOI: variant of interest (注目すべき変異株)、VUM: variant under monitoring(監視下の変異株)、de-escalated variants(警戒解除した変異株)、signals in monitoring (監視中のシグナル)


注1)BQ.1系統とその他の亜系統を含む

注2)オミクロンとデルタの組換え体

 

 

 引用文献

 

注意事項

  •   迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

 

更新履歴

第 22 報 2022/11/18  9:00時点
第 21 報 2022/10/21  9:00時点

第 20 報 2022/09/08  9:00時点

第 19 報 2022/07/27  9:00時点

第 18 報 2022/07/01  9:00時点

第 17 報 2022/06/03  9:00時点

第 16 報 2022/04/26  9:00時点

第 15 報 2022/03/28 9:00 時点 注)タイトル変更

          「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される SARS-CoV-2 の変異株について」

第 14 報 2021/10/28  12:00 時点

第 13 報 2021/08/28  12:00 時点

第 12 報 2021/07/31  12:00 時点

第 11 報 2021/07/17  12:00 時点

第 10 報 2021/07/06  18:00 時点

第  9報 2021/06/11 10:00 時点

第  8報 2021/04/06 17:00 時点

第  7報 2021/03/03 14:00 時点

第  6報 2021/02/12 18:00 時点

第  5報 2021/01/25 18:00 時点 注)タイトル変更

「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される SARS-CoV-2 の新規変異株について」

第  4報 2021/01/02 15:00 時点

第  3報 2020/12/28 14:00 時点

第  2報 2020/12/25 20:00 時点 注)第1報からタイトル変更

「感染性の増加が懸念される SARS-CoV-2 新規変異株について」

第 1報 2020/12/22 16:00 時点 「英国における新規変異株(VUI-202012/01)の検出について」

掲載日:2022年11月10日

第105回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和4年11月9日、厚生労働省)の報告による、我が国における新型コロナウイルス感染症の状況等についてお知らせいたします(第105回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード 資料1)。

英語版(準備中)

感染状況等の概要

全国の新規感染者数(報告日別)は、直近の1週間では10万人あたり約338人となり、 今週先週比は1.40と増加傾向となっており、地域差もみられる。
また、今後、社会経済活動の活発化による接触機会の増加等が感染状況に与える影響に注意が必要。

病床使用率は全国的に上昇傾向にあり、重症者数は増加傾向にあるが、死亡者数は横ばいとなっている。

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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