国立感染症研究所

掲載日:2021年5月20日

第35回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和3年5月19日、厚生労働省)の報告による、我が国における新型コロナウイルス感染症の状況等についてお知らせいたします(第35回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード 資料1)。

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直近の感染状況等

全国の新規感染者数は、報告日別では、ほぼ上げ止まりで、直近の1週間では10万人あたり約32人となっている。先週と同様に、全国的な感染拡大という状況ではなく、地域差が大きく、増加傾向にある地域と、横ばいや減少傾向にある地域が混在している。重症者数、死亡者数も増加傾向が続いている。

現時点で感染者数が明確に減少に転じていない。GWでの人の動きや変異株の影響と各種対策による感染抑制の効果の影響が複合しており、状況の評価や今後の予測が難しい面があることから、今後の動きに注視が必要。

実効再生産数:
全国的には、直近(5/2時点)で1.01と1前後で横ばいとなっている。。

感染状況の分析【地域の動向等】

※新規感染者数の数値は、報告日ベースの直近1週間合計の対人口10万人の値。実効再生産数は、1週間平均の直近(5/3時点)の値

①関西圏
  • 大阪では、まん延防止等重点措置(重点措置)の開始から6週間、緊急事態措置の開始からは3週間経過。先週今週比は直近約2週間は1以下で推移、新規感染者数も減少傾向が続いているがまだ非常に高い水準。夜間滞留人口・昼間滞留人口は、これまでの最低値水準にまで急減した後、増加に転じている。滞留人口の減少から新規感染者数の減少まで約5週間を要した。大阪、兵庫、京都で実効再生産数は0.87、0.99、0.98となっており、今後も新規感染者の減少が見込まれるが、滞留人口の動向とともに注視が必要。
  • 大阪、兵庫、京都、奈良の新規感染者数は、約51、 36、 37、 34。ほぼ横ばいの京都以外は減少傾向だが、全年齢層で新規感染者数が高い水準。
  • 大阪、兵庫を中心に、医療提供体制や公衆衛生体制の非常に厳しい状況が継続。一般医療を制限せざるを得ない状況が続いている。病床の確保が進められているが、必要な医療を受けられる体制を守るためには、新規感染者数の減少を継続させることが必須。
  • 和歌山では、新規感染者数は減少傾向で、約12。滋賀では、ほぼ横ばいで約23。
②首都圏(1都3県)
  • 東京では、重点措置の開始から5週間、緊急事態措置の開始からは3週間経過。埼玉、千葉、神奈川では、重点措置の開始から4週間経過。新規感染者数は、東京は判断が難しいがほぼ横ばい、埼玉、千葉、神奈川では横ばいから微増で、それぞれ約38、22、16、22。20-50代が多数を占めている。先週今週比はGW後に上昇が見られたが、直近では概ね低下傾向。
  • 東京では、夜間滞留人口・昼間滞留人口は、2回目の宣言中最低値よりも25%低い水準に到達した後、GW明けに増加傾向がみられ、2回目の宣言中の最低値と同水準。夜間滞留人口の減少から3週間が経過したが、新規感染者数のピークアウトには至っていない。埼玉、千葉、神奈川でも、夜間滞留人口は、GW明けに横ばいから増加傾向がみられ、千葉、埼玉では昼間滞留人口が増加。実効再生産数は、それぞれ1.03、1.57、1.08、1.14で、感染者数は増加にも減少にも転じる可能性があり、滞留人口及び新規感染者数の動向に注視する必要。
③中京圏
  • 愛知では、重点措置の開始から4週間、緊急事態措置の開始からは1週間経過。新規感染者数は急速な増加傾向が継続し、約52。先週今週比は3月下旬から約8週間にわたり1以上を継続。 20-30代が中心だが、ほぼ全世代で新規感染者数が増加傾向。医療及び保健所への負荷が増加し、病床使用率が高い水準にあり医療提供体制が厳しい状況。
  • 夜間滞留人口は、緊急事態宣言後も横ばいで、2回目の緊急事態宣言時の最低値付近で推移。一方、昼間滞留人口はGW後半から増加に転じていたが、緊急事態宣言後微減。滞留人口の減少から4週間にわたり以上経過するも、実効再生産数は1以上が続いており、 新規感染者数の増加が続く可能性がある。
  • 岐阜、三重では、重点措置の開始から1週間経過。岐阜では新規感染者数の増加傾向が継続し、約44。夜間滞留人口・昼間滞留人口とも減少が続いているが、新規感染者数が減少に転じるか注視が必要。三重では、横ばいで約18。静岡では、5月中旬から先週今週比が急速に上昇し、1以上も約3週間にわたり継続。新規感染者数も、約17であり、注視が必要。
④九州・沖縄
  • 福岡では、緊急事態措置の開始から1週間経過。4月中旬以降、20-30代を中心として新規感染者数の急増が続き、直近では増加の速度はやや鈍化したものの非常に高い水準で、約64。先週今週比は4月上旬から6週間にわたり1以上を継続。病床の占有率も急速に高まっており、医療提供体制への負荷が大きい状態が継続。
  • 夜間滞留人口は減少が続いていたが、2回目の緊急事態宣言時の最低値水準には届かず、緊急事態宣言後も横ばいで推移、昼間滞留人口は緊急事態宣言前に増加も、宣言後微減。実効再生産数は1以上が続いており、新規感染者数の増加が続く可能性がある。
  • 熊本では、5月16日から重点措置が開始。新規感染者数の急増が続いてきたが、直近では増加速度は鈍化したものの高い水準で、約39。
  • その他の九州各県でも、減少に転じる動きが見られるものの、佐賀、大分では、約29、38と依然として高水準。実効再生産数は両県とも1.35であるが、先週今週比は低下傾向であり、減少が続く可能性もあるが、傾向が継続するか注視が必要。
  • 沖縄では、重点措置の開始から5週間経過。重点措置にも関わらず、GW以降、那覇市をはじめとした都市部と八重山地域で20-30代を中心に現役世代で新規感染数者が増加し、約57と高い水準。県外からの渡航者の感染も見られている。感染者の増加により、医療の逼迫が予想される。特に、高齢者に感染が波及することにより、重症者の増加が懸念される。
⑤その他の緊急事態措置地域(北海道、岡山、広島)
  • 北海道では、5月9日から重点措置、16日から緊急事態措置が適用。新規感染者数の急増が続いており、約72と非常に高い水準で、先週今週比も約6週間1以上を継続。札幌市は約125とより高い水準で、市中でリンク不明例が多発している。病院と福祉施設でのクラスターも発生。実効再生産数は1.57と高い水準で、今後も増加が継続する可能性。札幌の医療提供体制は厳しい状況で、病床使用率が高い水準にあり、市外への広域搬送事例も見られている。
  • 岡山、広島では、5月16日から緊急事態措置が適用。それぞれ約59、53と高水準で、先週今週比1以上が岡山では7週間、広島では5週間にわたり継続。両県ともに病床使用率が高い水準。岡山では、夜間滞留人口・昼間滞留人口とも減少傾向が続いているが、実効再生産数は、それぞれ1.30、1.76と高水準であり、今後も感染の拡大が続く可能性がある。
⑥その他のまん延防止等重点措置地域(群馬、石川、愛媛)
  • 群馬、石川では、5月16日から重点措置が開始。群馬は5月中旬から減少傾向、石川は直近で上げ止まり、約24、29。両県ともに実効再生産数は1以上であり、今後の感染者数の推移に注視が必要。
  • 愛媛では、まん延防止等重点措置の開始から3週間経過。 4月下旬以降新規感染者数が減少傾向となり、約6まで減少。
⑦上記以外の地域
  • 福島、茨城、山口、香川では新規感染者数が15を超えており、それぞれ約17、16、25、21。福島、香川は減少の動きも見られるが、茨城では増加傾向となっており、山口を含め実効再生産数は1以上であり、今後も注視が必要。

<変異株に関する分析>

  • 英国で最初に検出された変異株(B.1.1.7)の割合が、スクリーニング検査では、全国計で約8割となり、一部の地域を除き、従来株からほぼ置き換わったと推定される。また、感染研による民間検査機関でのスクリーニングの分析でも、多くの地域で既に変異株へ置き換わっている。
  • また、B.1.1.7による重症化リスクが高まっている可能性も想定して、医療体制の整備や治療を行う必要がある。
  • 併せて、 B.1.617(インドで最初に検出された変異株)については、海外で置き換わりが進んでいるという報告もあり、 B.1.1.7 よりも更に感染性が強い可能性も示唆されており、引き続き、分析を進めていくことが必要。

必要な対策

緊急事態措置区域とされている地域及びまん延防止等重点措置区域とされている地域では、市民や事業者の協力により、減少や上げ止まりの動きが見られる地域もある。一方で、明確に減少となっていない地域もあり、今回の変異株(VOC)を中心とした感染拡大において、人流の減少が新規感染者数の減少につながるまで、以前よりも長い期間が要している。これまでの取組では実効再生産数を1よりも大きく下げるにことに至っていないのが現状である。感染状況や変異株の感染性の高さも踏まえ、必要な対策を検討し、タイムリーに実施していくことが求められる。

その他の地域では、新規感染者数が高い水準にあって、増加・継続した場合には、感染拡大の速度が以前よりも速く、医療提供体制への負荷も大きくなることから、必要な取組を速やかに実施すべきである。

流行の早い段階から対策を進めることが重要となっている。各自治体において、公衆衛生及び感染症の専門家の助言を対策に役立てる会議体などの仕組みを設け、人流など各種データなども活用し、早い段階からの取組や今後の見通しを踏まえた医療提供体制を確保するための連携体制の構築などを機動的に行うことが求められる。

一部の地域を除き、従来株から B.1.1.7へ概ね置き換わったと推定される中で、新たな変異株への対応も強化するため、ウイルスゲノムサーベイランスによる実態把握に重点をおいて対応を行うことが必要。特に、VOCと位置づけられたB.1.617については、ゲノムサーベイランスにより全国的な監視体制を強化するとともに、積極的疫学調査等により、国内における感染拡大を可能な限り抑えていくことが必要。また、インド、パキスタン、ネパールに関する水際措置の強化が行われたが、今後も、国外及び検疫での発生状況等も踏まえて、迅速に対応することが必要。

ワクチンについて、発症予防効果に加え、重症化予防効果、感染予防効果を示唆する報告がなされている。ワクチン接種が広く進めば、重症者数、さらには感染自体が抑制されることも期待される。高齢者へのワクチン接種が始まっているが、高齢者施設等では入所者とともに従事者の接種を進めることによりクラスターの抑制が期待される。国と自治体が連携して、地域の医師会の協力も得て、可能な限り迅速・効率的に多くの人に接種を進めることが必要。

 

感染状況分析・評価グラフ等 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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