国立感染症研究所

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WHOのA型肝炎ワクチンに関するポジションペーパー、2012年6月

(IASR Vol. 33 p. 219-220: 2012年8月号)

 

本ペーパーは、国の公衆衛生従事者、予防接種担当者、技術助言グループ、国際基金、企業、医療、メディア、公衆等を対象としており、2000年の第1回のペーパー以降、A型肝炎ウイルス疫学の変化、A型肝炎ワクチン供給の増加、ワクチンによる公衆への利益に関するエビデンスの増加により更新したものである。A型肝炎ワクチンの利用に関する提言は、SAGE(Strategic Advisory Group of Experts on Immunization)により、2011年11月と2012年4月に協議された内容を元にしている。

1990~2005年にかけての世界的な推定患者数・死亡者数の推移は、1990年には1億 7,700万人・30,283人、2005年には2億1,200万人・35,245人と増加しており、2~14歳および30歳以上の患者増加によると考えられる。

A型肝炎ウイルスIgG抗体による血清学的有病率(抗体保有率)による流行状況のクラス分けは、高流行(10歳までに90%以上)、中流行(15歳までに50%以上、10歳までに90%未満)、低流行(30歳までに50%以上、15歳までに50%未満)、極低流行(30歳までに50%未満)である。高流行地域では、通常5歳までにA型肝炎ウイルスへの曝露が発生し、ほとんどが無症候性である。低流行あるいは中流行の地域には中等度収入国のほとんどが含まれ、大規模なA型肝炎ワクチンによる恩恵を最も受ける国々である。極低流行地域には、西欧、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、米国、日本、韓国、シンガポールが含まれる。これらの地域では、ウイルスの循環はほとんどないが、食品媒介感染は起こり得る。汚染下水に生息していた貝や、交叉汚染をした野菜サラダの喫食などの例がある。他に感染が発生し得るのは、流行地へ旅行をする免疫を持たない者、男性間性交者(MSM)、注射薬物使用者(IDU)、特殊なグループ(特異な宗教団体等)。まれに、適切なスクリーニングの欠如やウイルス不活化等なしで行われる輸血や血液製剤などもリスクである。

以下に、WHOのA型肝炎ワクチンに関する見解を示す。

・不活化A型肝炎ワクチンおよび弱毒生A型肝炎ワクチンはいずれも高度な免疫原性を有し、長期にわたって維持され、小児・成人の両方に予防効果がある。安全性については不活化A型肝炎ワクチンの情報が多く示され、弱毒生ワクチンについては情報がやや限定的である。

・WHOは、急性A型肝炎発生の状況、流行上の変化(高流行から中流行へ)、良好な費用対効果によっては、ワクチンを国の予防接種スケジュールに組み込むことを推奨する。

・ワクチン接種はウイルス性肝炎対策の一つであり、衛生状態の改善や、アウトブレイクの抑制などとともに全体的な予防・対策の一つであるべきである。

・各国はA型肝炎の疾病負荷を推定するための情報を考察すべきである。人口動態や急性疾患サーベイランス、劇症型肝不全症例や肝移植の原因について把握する保健情報システムが必要かもしれない。また、費用対効果の分析は意思決定に有用である。

・高流行国では、ほとんどの人々が無症候性に小児期にA型肝炎に感染しており、それ以降の臨床的A型肝炎の発症を予防する。これらの国々には大規模ワクチン接種を推奨しない。

・社会経済状況が改善しつつある国々では、A型肝炎高流行から中流行国へと迅速に流行状況が変化しているかもしれない。これらの国々では、成人の多くがA型肝炎に対して感受性があるかもしれず、費用対効果が優れていると考えられ、ワクチン接種が勧められる。

・低流行あるいは極低流行の状況下で、高リスクグル―プへのワクチン接種は、個人に有益なものとして考慮されるべきである。A型肝炎のリスクが増加するグループとは、中流行国や高流行国への旅行者、血液製剤治療を長期に受ける者、MSM、人間以外の霊長類と接する労働者、IDUである。加えて、慢性肝疾患を有する者は劇症型A型肝炎のリスクが高いため、ワクチンを受けるべきである。

・ワクチン接種は、曝露前および曝露後の両方の予防策として、グロブリン製剤よりも優先されるべきである。

・アウトブレイク下でのA型肝炎ワクチン接種の推奨は、疫学的な状況、迅速で広範なワクチン接種実施の可否によって考慮される。地域におけるアウトブレイク対応として行われる1回の接種は、発生初期に開始され、複数の年齢層に高い接種率を達成できた時は、最も成功である。またこの際には、健康教育や衛生の改善によって補足されるべきである。

・現在、不活化A型肝炎ワクチンは筋肉注射で2回接種(1歳以上で1回。間隔は6カ月~4、5年で、通常6~18カ月間隔が多い)であり、弱毒生A型肝炎ワクチンは皮下に1回の接種である。

・国によっては不活化A型肝炎ワクチンの1回接種を考慮するかもしれない。2回接種と比較して有効性の点では同等と考えられ、より安価で、実施し易い。ただし、感染リスクの高い者や免疫不全者は2回接種が優先される。

・不活化A型肝炎ワクチン接種は、以前の接種で重篤なアレルギー反応を呈した者以外の禁忌はない。小児の通常接種や旅行者に用いるいかなるワクチンとも同時接種が可能である。また、リスクのある妊婦にも考慮できる。

・弱毒生A型肝炎ワクチンに含まれる成分に対して重篤なアレルギーを起こす者への接種は禁忌である。妊婦、重症の免疫不全患者には接種できない。弱毒生A型肝炎ワクチンが他の通常用いられているワクチンと同時接種が可能かどうかの情報はない。

・ワクチン導入に続き、A型肝炎ワクチンのインパクトをサーベイランスや研究のデータによる罹病や死亡に関する情報を用いて評価することが重要である。特に、1回接種スケジュールを行う場合には、モニタリングや評価計画を同時に実施するべきである。

(WHO, WER , 87, No. 28/29 , 261-276, 2012)

 

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